真夜中の花火は超迷惑
ふたたび、文字通りお荷物と化した私はファーレに運搬されながら、先程のことを思い出していた。
(あの時は、魔法が使えたのに……)
なのに、どうして突然使えなくなってしまったのだろう。
私は揺れる視界の中、考える。
(そもそもの話よ??使えなくなった原因も不明だし、使えるようになった理由も分からないのよね……)
私はちらりと、ファーレと共に並走するテオに視線を向けた。
(……結局、テオがなぜあの場にいたのか、まだ聞けてないし)
それは後で聞こう。
あの後──つまり、私が『全部魔法でぶっ飛ばしちゃえばいいと思うのよ……!!』と言った直後のこと。
私が放ったのは、爆発と空中分解の混合魔法だった。
かなり変化球の魔法だけど……!!何とか成功してよかった。完全オリジナルの魔法式だから、魔法の教本には乗ってないだろう。
魔法を放つと、光の束が天井に走り、天井が砕けた。しかし、瓦礫は落下することなく、上昇を始め、そのまま空中分解をし、宙に溶けた……はず。そのように魔法式を設定した。
イメージとしては、拳銃を空に向けて打ったような感覚?
(土壇場の出来事とはいえ……よく成功したわよね……)
我ながら、魔法式と構造を説明しろと言われたら上手く説明できる気がしない。
魔法は、ひとにもよるのかもしれないけれど、私の場合はほぼ感覚頼りだ。
つまり、経験でどうにかしていると言っていい。
「たたとえるならああああれ、レレレシピ、み゜ッ!!」
『例えるならあれよね、レシピを見なくても肉じゃがを作れる、みたいな』
……と呟きたかったのだけど!!揺れで舌を噛んでセミファイナルみたいになったわ……!!
「~~~~ッ」
私は思わず口元を抑えた。
(……これ、絶対口内炎になるやつだわ!)
最悪すぎる、今の私は回復魔法使えないのに!!
涙目で呻いていると、私の運送係を務めるファーレがチラ、と私に視線を向けた。
「はい?」
「~~!!」
私は片手で口を押えたまま、もう片方の指で口元を示した。言葉が出ない私を見て、ファーレはおおよその事情を把握したようだった。
走る速度は変わらないまま、ファーレはまたしても残念なものを見る目を向けてきた。
「えええ?揺れてるのに話したんですか?そりゃ舌噛みますよ……」
そうね!!そうよね!!
ごもっともだわ!!
反省した私は、今後のスケジュールに口内炎、と脳内にメモを残しておいた。
気休めかもしれないけど、今後はビタミンCを摂取するようにしましょう……。
ビタミンC……レモンとか?
漠然とそう考えていたら、もう宿は目と鼻の先だった。
今、テオとファーレ(に抱えられている私)は、急ぎ足で宿に戻っている最中だ。
先程、ジェームズ・グレイスリーの地下室で私が爆発と空中分解の魔法を放った後、天井が物理的に無くなったので、私たちは崩落に巻き込まれる危険性がなくなった。その後、私は囚われていたひとたちを退路へ誘導したのだった。
ジェームズ・グレイスリーは追ってきたら面倒なので、その付近には目くらましの魔法を連発しておいて、足止めをしつつ、来た道を辿ったのだ。
そして、私たちが落ちてきた穴──背後が塗り固められていた石壁だけど、ファーレの爆弾で破壊されたそこは、やはり裏口に繋がっていた。
囚われていたひとたちは、全部で九人だった。
先頭をファーレが、殿を私が担当することで話は決まり、そのまま、恐らくジェームズ・グレイスリーが用意していたであろう逃げ道をたどって、私たちは地上まで戻ったのだ。
そこで、だ。
ファーレが用意した、爆弾と煙火筒。
煙火筒は主に、花火などに使われるあれである。
ファーレが言ったように、本来は救難信号のために作られたもの。軍作成なので、飾り気も何も無い、らしいのだけど。
『でもそれじゃあ遊び心がないですよね?ってことで、俺お手製のこれは、ちょっとだけ特別仕様なんですよ』
とは、テオと合流を果たした後、どういうことかと説明を求めた私への言葉だ。
どこがどう特別か、と言うと──
花火……なのである。文字通り。
かぎや~~~~とか、たまや~~~~のあれ。
アーロアでは、花火は祝砲代わりにあげられるものだ。
ファーレは私に片目をつむって、魔素爆弾と煙火筒を発動したと言っていた。
それはつまり。どういうことかというと、
──夜も開けきっていない夜中の三時。
突如として、祝砲のごとく花火が夜闇を彩ったのである。
(…………超・迷・惑!!)
迷惑も迷惑、大迷惑である。
その結果、周辺住民含め、近隣の方々が爆発音に何事かと起きてきたのである。
で、顔を上げたら綺麗な花火でしょ??
思うわよね。
あら?今日って何かイベントあったかしら?って。
でも、すぐ思い直すわよね。
祭日だとしても、普通真夜中の三時に打ち上げないわよね!!って!!
その時の光景は『周囲を圧倒するような美しさと迫力があった、正直ド肝を抜かれた』とはテオの目撃談だ。
その騒ぎでテオもやってきたところ、偶然私たちと再会。
そして、駆けつけてきた憲兵たちに捕まったら諸々(私が)まずいので、急遽離脱。
今に至るのだった。




