(色んな意味で)晴れやかな気持ち
「…………いや、何で!?!?どうしてそうなるの!?」
「エレイン……」
ファーレが優しい顔を私に向ける。
私は地面の土を両手で叩いた。
「わああああ、その目は不憫に思ってる顔ね!?!?可哀想だと思ってるのね!?同情してるんだーー!!」
「エレイン」
次に、テオが私を呼ぶ。
しー、とふたたび口元に人差し指を当てている。
気分はあれだ。クラスで騒がしくして学級委員長に叱られるあれだわーーーー!!
私はそのまま地面に突っ伏した。
終わった。終わりだわ。絶望である。
「…………辛い。世界が終わってしまえばいいのに」
「いやー、アンタの都合で世界が終わったらだいぶ困るんじゃないですかね?ほら、明日とか来週に結婚式控えている夫婦もいるでしょうし」
「そういうマジレスいらないのよ今はーー!!」
こういう時は、哀れに思って『大丈夫ですよ。明日にはいいことありますよ、宝くじ買います?』とか慰めるところだと思うの私は!!
誰が理詰めで論破しろって言ったのよ!!
私の嘆きに、前世のネット用語を知らないテオとファーレがそれぞれ不思議そうな顔になった。
「マジ……はい?」
「正論はお呼びじゃないって話ですよ、ええ」
思わずグレて言うと、ファーレが「ええ〜……」と面倒くさそうな声を出した。
「はああああああ…………ムカつく……世界を呪いたい気持ち……」
「うわあ」
「何がうわあなのよ、手始めにアンタを呪うわよ」
ごろんとその場に転がって怨嗟めいた声を漏らすと、流石に(元)貴族の令嬢が地べたを転がり回るのは初めて見たのだろう。ファーレは顔をひきつらせていた。
もう!!貴族の!!娘じゃ!!ないもの!!
地面だって転がるし、このままふて寝だってするわよ……!!
……と、その時私は気がついた。
今何時?と。
「──」
ムクッと突然起き上がった私に、テオとファーレがびっくりしたようにこちらを見る。それに気にせず、私は彼らに尋ねた。
「今何分!?」
乗り過ごしたらまずいなんてものではない。
アーロアから出られなくなる……!!
私の質問に答えたのはテオだ。懐中時計を取り出し、静かに答える。
「四時四十五分。……そろそろいいかな」
「ギリギリ……!!」
宿に戻って荷物を回収して、変装もしなければ、と思うとかなりギリギリである。間に合うかしら……!?
……いや、間に合わせるのよ!!
私がそう思っていると、テオが静かに言った。
「いや、今回に限ってはギリギリの方がいいと思う。……さっきの騒ぎで確認作業にそこまで時間は取られないとは思うけど、念の為」
テオの言葉に、私は頷いて答えた。
頷いてから、ハッとする。
(もしかして私、また荷物に逆戻り??)
また、文字通り荷物のように背負われるのだろうか。
(いえ!流石にね!今回は歩くことくらいはできるでしょう!ね!!)
できるといってくれないからしね私の体……!!
切実に私は自身の足首に期待をかけながら立ち上がる。
次の瞬間、私は崩れ落ちた。
「〜〜〜〜!!」
木の幹を支えにして立ち上がったはいいものの、次の瞬間、崩れ落ちた私を見て、テオとファーレは顔を見合せた。
アチャー、という顔である。
「…………やっぱり、世界は終わっていいと思うのよ」
崩れ落ちた──つまり、地面に突っ伏したままメソメソと言うと、ファーレがしゃがんだのが気配でわかった。
やけに優しい声でファーレが言う。
「世界は終わりませんよ。普通に明日は来ます」
「また正論〜〜」
うげ〜〜という気持ちで、私はごろんと仰向けになった。
朝焼けを視界に収めながら、私はファーレとテオの顔を見上げた。
なんだかもはや、一周まわって晴れやかな気持ちである。
ヤケになっているとも言うかもしれない。
私はにっこりと笑みを浮かべると、ふたりに言った。
「最悪よ……口の中に土が入ったわ。ものすごくジャリジャリする……」
やっぱり地面に転がるのは良くない、と私は悟ったのだった。




