全部ぶっ飛ばしましょう。ね!!
『魔素爆弾とか初めて見たわ……。これはあれかしら?軍で?』
『そうですね……最初は軍から支給されたものでしたけど、今は材料があれば簡易的に作れるようになりました。なので、これも宿で念の為作ったやつです』
『うわー……手先器用ね』
折り紙とかも得意そうである。もしかして鶴とかも折れるのかしら??
ちなみに私は折れない。
私は自他ともに認める不器用人間である。そのため、折り紙を折ろうものなら途中で口パックンになる未来が約束されている。
綺麗に折るの、ものすごく難しいと思うのよ……!!
そんなことを考えながら、物騒なものを取り出したファーレを見ていた私は、ふと思いついたことがあり彼に尋ねた。
『……いつもそれ、持ち歩いてるの?』
『はい。ああ、他にも色々仕込んでますよ?緊急時は役に立ちますしね。どれだけ準備に時間をかけるかで、生存率がガラッと変わるんですよ』
そう答えたファーレは、シュッと素早い動きでそれらを仕掛けた。
すごい、言われなければ気付かないくらい早かったわ……。
目で追っていたものの、まるでマジックだ。
ファーレは手品師にもなれそうである。
(動きが早いっていうのもももちろんあると思うけど、きっと余計な動作が無いのよね……)
必要最低限の動きだからこそ、何が起こったか分からないように感じる、というあれだろう。そんな考察をしていると、私はファーレに声をかけられた。
『じゃあ行きましょうか。支度は済んだことですし?』
『……その魔素爆弾って、あなたの魔力で操作するの?』
『そうです。起動にそんなに魔力を必要としないっていうので、気に入ってるんですよ、これ。もちろん、デメリットもあるんですけどね』
『デメリット?』
『……ま、それはここを抜け出したら伝えます。もしこれ、聞かれてたらまずいでしょ?』
そういう経緯で、言葉通りファーレは仕掛けた爆弾を爆発させた。
遠くから崩落の音が聞こえてくる。
そしてこちらも、未だ、爆発は続いていた。
(私の使った魔法は、部分的に爆発する火属性の魔法。ジェームズ・グレイスリーの背後の石壁の奥が崩れるよう仕掛けたから──)
突然の爆発と崩落にジェームズ・グレイスリーは魔法を使って対処しているようだけど追いついていないようだ。
「クソッ……!クソッ、クソッ!!まさかあなたが本当にエレイン・ファルナーとはねえ!!なぜ魔力なしを装っていたのですか!?どうやって偽装していたのです!?」
あちこちで爆発が起こるわ、崩落が起きているわで、落ち着いて問答している余裕などないというのに、ジェームズ・グレイスリーは私に質問を飛ばしてきた。
ずいぶん余裕そうだ──という、わけではないのだろう。
(生粋の変人なんだわ……)
私はジェームズ・グレイスリーの質問に取り合わず、まず自身の足に治癒魔法をかけた。
これで……!!
これで自由の身……!!
もうファーレに荷物のごとく運んでもらわなくても済む……!!
「ανάκτηση」
詠唱自体は短いが、短いからこそ難易度の上がる回復魔法。魔法が使えた頃は、割と常用していたので、私は薬とは割と無縁な生活を送ってきたりする……!!
私が詠唱を唱え終わると、ふわりと魔力の風が吹き──魔力を帯びた光が輝いては、収束する。
次の瞬間、確かめるように地面を強く踏みしめる。
(……痛くない!!)
私は感動した。
「エレイン!崩れます!!」
……しかし、感動にひたっている場合ではないようだ。
ファーレは退路を確保しているようで、誘導するように手を上げていた。
私は彼に強く頷くと、続けて目の前の鉄の柵に手を掲げる。
「διαγράφω」
空間に関与する空間魔法。
それを使って鉄の柵を別次元に転移することで消し去ると、と囚われていたひとたちは驚きのあまり目を見開いていた。
一番最初に行動に移したのは、幼い少年と少女だ。ふたりはワッと私の傍にくると、私に抱きついた。
「わああああああ!!」
「怖かった、怖かったよう~~~~!!」
「そうよね……怖かったわよね。もう大丈」
夫よ、と続く言葉は石壁の崩れる音によって、遮られた。
つまり、
──ビキビキビキ……ドオオオオオン
という、大変恐怖心を煽る崩落音が聞こえてきたのである。
(…………もしかして)
やばい??と私は天を仰いだ。
頭上には今にも崩れ落ちそうな天井が広がっている。周囲の石壁が爆発で崩れ落ちたために、支えを失い、落ちそうになっているのだろう。
わ~~!!!これ、落ちてきたら私たち死ぬわね!?!?
ファーレが退路を確保してくれているとはいえ、頭に直撃したらあの世にレッツゴー案件である。
(……よし。うん。それなら!)
今の私には魔法がある。だから、無理も効く……はずなのである。少なくとも、以前の私なら出来た。前の私にできて、今の私にできないはずはない。
(やれば出来る!!!!)
昭和のスポ根ならぬ根性論で、私は頭の中に魔法式を思い浮かべた。
魔法は構成と魔法式さえあっていれば、行使可能なのである。
座標……ズレてないはず。
魔法式……指定を間違わなければ大丈夫のはず。
関数をミスったら#N/Aと表示されるように、その時は魔法が不発に終わるはずだもの!!
魔法式を確認すると、私は顔をあげて背後のファーレに叫ぶようにいった。
「ごめんなさいファーレ、騒がしくするわ!!」
「はっ!?いやもう現時点でかなりの騒ぎになってますし、そ」
ファーレは何か言いかけたが、私はそれを遮った。聞いている余裕はなかったので。いや本当にいつ天井が落ちるか分からないのよ……!!
「私ね!もう全部魔法でぶっ飛ばしちゃえばいいと思うのよ!!」
ふたたび叫ぶように言った後、私は頭上に手を掲げ、魔法を詠唱した。
「Μετά την έκρηξη……διαλύεται στον αέρα!」
その瞬間、私の放った魔法は魔力の煌めきを帯び──盛大な光がその場を包み込んだ。




