爆発&爆発
その言葉に、ジェームズ・グレイスリーはしばらく沈黙していたが、やがて彼は突然笑いだした。
「はは……はははははは!!いや、面白い話を聞きました。良いですね、久しぶりにこんな愉快な気持ちになりましたよ」
「それはどーも。正答者が出て気分でも良くなりました?」
「ふむ。あなたの話は大変面白く、興味深かった。……ですが、そこまで妄想癖が激しいと、日常生活にさぞ苦労するのでは?」
妄想、つまり虚言だと断定されたファーレは、不服そうにくちびるをへの字にしていたが、やがてため息を吐いた。
「そうですか。ま、アンタと押し問答するつもりは無い。聞きたいことは聞けたから、俺は満足。エレイン、アンタは?」
そこで初めて、ジェームズ・グレイスリーの前では初めてファーレに名前を呼ばれたことに気がついた。つまり、彼は意識して呼ばないようにしていたのだろう。
「私も、ないわ」
後はファーレに聞こう。今この場で押し問答している時間は、もとよりない。
そう思ったところで、ジェームズ・グレイスリーが眉を寄せた。
「……エレイン?」
「あなたは、その石を神様からの贈り物のように思っているようだけど……実際は、瘴気を吐き出すだけの毒に過ぎないと。いうことよね?」
そして最後に、念押しで確認する。
今から私のやることが正解か、不正解か、確かめたかったから。
ファーレはそれに頷いて答えた。
「そーいうことです」
(それなら──)
「了解。それなら、話が早いわ。私も、私の魔力が回復しているかどうか、確かめたいと思っていたの」
ジェームズ・グレイスリーは、私の魔力が飛躍的に上がっていると言った。
今まで魔力なしだと思われていた私が、だ。
それはつまり、魔力量が回復したと考えられる。
それなら──以前のように、魔法が使えるようになっているはず……!
そう考えた私は、ジェームズ・グレイスリーが何か答えるより先に、呪文を唱えた。
「Εκραγεί……ανάφλεξη……」
冒頭だけで何の魔法つかっているのか察したのだろう。
Εκραγείは爆発、ανάφλεξηは点火を意味する。
つまり、私の使おうとしている魔法は、火魔法の系統だ、と。
「まさか」
ジェームズ・グレイスリーが何か言いかけた。だけど私は、彼の言葉を遮って、最後のフレーズまで口にする。
「──αλλά μόνο εν μέρει!!」
口にした瞬間、久しく感じていなかった魔力の流れと、魔法行使による煌めきがその場を包み込んだ。
「その魔力量、その魔法式──まさか、まさか、本当にエレイン・ファルナー!?いや待て。なぜだ、なぜエレイン・ファルナーが……!!」
伯爵の言葉は最後まで音にならない。
なぜなら、その直後、ジェームズ・グレイスリーの背後の石壁が派手な音を立てて粉砕したからだ。
ガシャアアアアアン!!と破壊的な音が響く。
石壁一面に亀裂が走り、その間を縫うようにして火の粉が踊った。
煌めきを帯びて、石壁が崩れる。
その音にヒッと短くジェームズ・グレイスリーが息を飲む。信じられない、とその顔には書いてあった。
なぜなら──
「な、なぜだ。なぜ、エレイン・ファルナーが……!いや、そんなことより、ひ、ひいいいいい!!」
ジェームズ・グレイスリーは、粉々になったブラウグランツを見て悲鳴をあげた。よほど、大事なものだったのだろう。瘴気を吐き出すその石壁が。
「う、うわあああああ!!」
そして、ふたたび絶叫した。
混乱しているジェームズ・グレイスリーを置いて、私は自身の魔法の威力に頷いて、手をグーパーと開いてみる。
「うん。……よし、問題は無いわ」
以前と同じ。ちゃんと……使える!
それを確認してから、私は素早くファーレに合図を出した。
「ファーレ、例のアレを」
壁の亀裂は広がっていく。そのままみしみしと頭上から音が聞こえてくる。
正常に魔法を展開できたのだ。
上の方から爆発音がいくつも続いた。
それにファーレが緊張感のない声で答えた。
「おーすげー。これが本当の賢者の力ってやつですか!」
「そういうのはいいから、早く!」
私が急かすと、ファーレは私の言葉に頷いて答えた。
「それならとっくに起動してますよ、ほら」
ファーレが片目を瞑って見せた直後、背後の方から凄まじい轟音が響いた。
──ファーレの言う奥の手、というのは落ちてきた穴のすぐ近く。塗り固められた石壁を爆破することだった。
ジェームズ・グレイスリーを待たせている間、私がファーレから聞いたのは、爆弾と煙火筒を仕掛ける、というものだった。
『つまり、ですね』
そう言った後、ファーレがどこからか取り出したのは、複数の爆弾と煙火筒だった。
『これ、魔素爆弾です。こっちは煙火筒。本来は、SOSとか救助信号を出すものですね。これを使って、相手の混乱を誘います』




