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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
三章:寓話の相違

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エレイン、災難ふたたび

記憶が戻ってくる。


(確か、私はファーレと穴に落ちて……いえその前に、テオが宿を抜け出して??追いかけたら謎の集団に襲われて??……そのまま穴に落ちた……のだったわよね?)


まだ頭がぐわんぐわんと揺れるけれど、二日酔いの夜くらいにはなった。


ゆっくり立ち上がると、ファーレがすぐ私の傍まで駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか!?頭は!?」


「その微妙な聞き方やめてくれないかしら……。ひとまず、大丈夫よ。気分は最悪だけどね」


「はぁ~~~~……」


ファーレは大きくため息を吐いた。

安堵のあまり気が抜けたのか、膝にそれぞれの手を当てている。

私は壁を支えに立ち上がると、ファーレの背後に視線を向けた。そこには、ジェームズ・グレイスリーがいる。


「……よくもとんでもない目に合わせてくれたわね、伯爵。ご存知?アルハラって犯罪なのよ。アル中で搬送されたらどうしてくれるの」


久々に味わったわ。あの吐き気……。

インフルも酷いけど、二日酔いもなかなか酷い。しかも私が泥酔するのは、職場の飲みが大半だった。


(イッキコールとか信じられないわよね!?!?新人の時は圧力に逆らえなくて、ジョッキを頭にぶっかけて『私の服が飲んじゃいましたー飲兵衛だなぁあはははは』でやり過ごしたけど毎回それはできないし!!)


今思ってもコンプラ意識が絶望的な職場だった。


だいたい、体質とかあるのに飲めないと感じ悪~~みたいなノリがおかしいわよね!?!?何かあったら責任取れるのか〜〜!!?!?取ってくれるのかしらねえおいこらー!


前世の恨みつらみがセットで想起され、ストレスもMAXである。よくも思い出させてくれたわね……トイレの住人と化したことまで思い出しちゃったじゃないの……この野郎……。


私の理不尽な怒りをぶつけられたジェームズ・グレイスリーは、首をかしげた。


「おや……やはり頭の方に異常が?」


は、腹立つ〜〜〜〜!!

素直にムカついた私は、にっこりと笑みを浮かべ答えた。


「ご心配いただきありがとう。私がこうなったのも、あなたが理由なのだけどね!」


しれっと、あたかも『心配してます!』みたいに振る舞われるのは業腹である。私の返答に、ジェームズ・グレイスリーは頷いた。

いちいち仕草が演技がかっているというか、何と言うか。


「ふむ。今のところ、問題はなさそうですね」


「今もこれからも無問題よ。それよりあなた」


私に何をしたの、と問いかける声は、ジェームズ・グレイスリーの言葉にさえぎられた。


「ひとまず、不適合反応が起きずに良かった」


「不適合……?」


気になった、けれども。

そう、そうである。私は彼に先に言いたいことがあったのだった。

私はちいさく息を吐くと、ジェームズ・グレイスリーを見据えた。


「……それよりも、先程はひっっどい目にあったわ。伯爵、あなたは体験したことがあって?最悪よ。流行病に感染したらこんな感じかしら、っていう走馬灯が走ったの。つまり、死に間際に見るアレよ!伯爵もぜひ体験なさったらどう?そのままあの世にバンジージャンプしそうだけどね!」


私の恨みの籠った声に伯爵が朗らかに笑った。

なにわろてんねん、と(ここ)まで言葉がでかかった。

いけない。擬似二日酔い体験をしたからか、ものすごく精神が荒れている。ということを私は自覚した。


「私は治験が終わってからですよ。あなたと私は違う」


……治験?何の?


(ひとまず、カマをかけてみよう……)


私は笑みを浮かべ、ジェームズ・グレイスリーに言葉を返す。


「確かに、あなたは夢見がちでお花畑にいらっしゃるようね。現実を直視した方がいいと思うわ」


「…………小娘」


ジェームズ・グレイスリーが、低い声を出す。

しかし、こんなことでキレてる場合ではないと思ったのか、気を取り直したようにジェームズ・グレイスリーは言った。


「……まあ、良いでしょう。お嬢さん。今のは副反応ですよ」


「副反応ですって?」


首を傾げる。あっ、だめだわまだ揺れると吐きそう!

思わず口元を抑えた私に構わず、ジェームズ・グレイスリーは演説を続ける。


「分かりませんか?今のあなたの魔力は、飛躍的に上がっている。もう誰も、あなたのことを魔力ナシなど、蔑みません」


「──」


その言葉に、私とファーレは目を合わせた。

ファーレは検分するように私を見たあと、僅かに目を見開いた。その様子を見るに、ジェームズ・グレイスリーの言葉は正しいのだろう。

私もまた、自身の魔力の流れを確認する、けど──。


(はっ……吐き気が、する……!!)


やばい。まじで、無理。

思わず前世の言葉が自然に出てくるほどである。


多分、きっと、おそらく、かなりの確率で、これ以上魔力の流れを追おうとすると、虹色演出が確定するだろう。


流石の私もそれは嫌だわ……。

仕方なく、私は深く息を吐いた。


(……私の魔力が、回復している?)


ゆっくり、考える。


魔力が回復した──なんていう感覚はない。

そもそも、魔法が使えなくなったのだって、突然のことだったのだ。


確かめるには……。


私はファーレを見た。

私の考えが、彼に伝わったのだろう。


もし、私の魔力が回復し、魔法が使えるようになっているのなら──【奥の手】の出番だ。


脱出するなら、今しかない。



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