そこまで言う??
「……………」
私は答えない。ファーレも同様だ。
僅かに眉を寄せ、誰?という顔をして見せる。
まさかそれでごまかせてくれた訳では無いだろうがジェームズ・グレイスリーが肩を竦めた。
「なんて、ね。まさか、そんなはずがありませんね。何せ、彼女は……」
そこで、ジェームズ・グレイスリーが言葉に悩む様子を見せた。
(何せ、彼女は……続きは、何?)
疑問に思ったが、そこを細かく聞いている場合でもない。ジェームズ・グレイスリーの言葉の続きを待つと、彼は顔を上げ、ふたたび私を見つめた。
「……いえ、とにかく彼女は、あなたのような魔力ナシではなかった。まあ、どうせなら、私としては本物が欲しかったところでしたが」
「……」
私が黙ると、存在を否定されて気落ちしたように見えたのだろうか。
彼は励ますように言った。
「良いんですよ、魔力なしは貴重です。普通、魔力がないとひとは死んでしまう。それなのに、あなたは魔力が全くないのに死んでいない。いやはや、魔法というのは本当に奇々怪々。ロマンがあります」
ジェームズ・グレイスリーの後を続くと、やがて行き止まりにたどり着いた。岩をくり抜いて作った木の扉には、頑丈な鎖がかけられ、施錠されている。ジェームズ・グレイスリーは鍵を開けると、さっさと中に入った。私とファーレは互いに目を見合せ──頷くと、ジェームズ・グレイスリーの後を追うことにする。
コツ、コツ、とジェームズ・グレイスリーとファーレの足音が響く。ファーレは暗部の人間だから、意図して足音を響かせているのだろう。今この場ではまだ、ジェームズ・グレイスリーを警戒させるわけにはいかない。
(中は真っ暗で薄暗い……ジメジメしてる。海に近い……?)
そんなことを考えていると、ひとの話し声が聞こえてきた。
「……だから……なの」
「……でも……して……の?」
(子供……?女の子の声だわ……)
そこで、ジェームズ・グレイスリーがパチン、と手を叩く。それで、細々と聞こえていた子供たちの会話は止まった。水を打ったような静けさだ。
ジェームズ・グレイスリーが軽く手を振るう。
そうすると、光が灯った。魔法を使ったのだろう。場は明るくなり、そこには──
(……!)
たくさんのひとがいた。
(いち、に……ざっと見て、十人くらい?)
子供の声、と思ったのは正解だったようだ。しかし、その場にいるのは子供だけではなく、大人もいた。小学校低学年くらいの子から、三〜四十代くらいの男女が、計十人程度。
彼らは、牢のような柵の中にいた。
「……へえ、これは趣味がいいとは言えませんね、伯爵?」
流石にファーレも意外だったのだろう。尋ねると、にこやかさはそのままに、ジェームズ・グレイスリーが答えた。
「そうですか?私の努力の証ですよ」
「ここで、何を?」
今度は私が尋ねる。それに、ジェームズ・グレイスリーは頷いて答えた。
「聞いていたでしょう。私は、賢者に仕立て上げるのです。私が、賢者を生み出すのですよ」
「頭、大丈夫?本気で言っているの?」
「魔力なしのお嬢さん。あなたに魔力の才はない。ですから、そう卑屈になるのも理解できます。ですが、私のやり方なら、必ず魔力を得ることが出来るのですよ」
「…………」
魔力、確かに今はないけど。
でも前は……!!たくさんあったわ……!!
反論したいけど出来ない。
言ったとしてもおそらく信じないだろうし、可哀想なものを見る目を向けられるだけだ。ファーレが同情するような視線を向けた。少し、腹が立った。
ジェームズ・グレイスリーが向かった先にあったのは、岩壁、だった。
そこには、光り輝く石──鉱石のようなものが、暗闇にあってなお、キラキラと煌めいている。
(あれは……?)
ファーレを見ると、珍しく彼は険しい顔をしていた。
(……何か、知ってる?)
この場にジェームズ・グレイスリーがいなければ締め上げてでも聞くのだけど、あの男がいる以上諦めるしかないだろう。……いいえ、あの男に聞けばいいんだわ。そう思った私は、ジェームズ・グレイスリーに尋ねた。
「それは何?」
「これは、青の輝きという特別な石です。これは、祝福を与える、アーロアの宝だ」
「言っている意味が分からないわ。あなた、自分の世界に入り込んで出られないタイプの人間とかではないわよね。正気?」
二回も頭大丈夫?というようなことをいわれたのが不快だったのだろう。ジェームズ・グレイスリーの眉間に深いシワが寄る。
彼は不愉快さを吐き出すようにため息を吐くと、出来の悪い生徒に諭すように言った。
「……可哀想に。魔力がない、というのは苦しかったでしょう。生きる意味すら見いだせなかったと思います」
……そこまで言う??




