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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
二章:賢者食い

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変装は大事②

またあの店に行ったら、今度こそあの女性はファーレに気付いてしまうかもしれない。そういう理由から、テオにそれらしい物をいくつか見繕ってもらい、買ってきてもらった。

私も同行したかったのだが、ファーレをひとりにすることは避けたかった。


そのため、テオにお願いしたのだ。


紙袋には私の染色粉も入っていた。

私はテオにお礼を言い、自身の髪を手早く染めた後、ファーレに化粧を施した。

彼は渋い顔をしていたが、ここまできて拒否することはできなかったようだ。


そして──出来上がったのが。


「おお……」


仕上がりを前に、私は奇妙な声をもらした。

ファーレは(見た目は)細身だし、身長も高い方ではない。さすがに男性なので、骨格はごまかせないが、それは服装でどうにでも隠せるだろう、と思っていた。

のだけど──。


「私──今、自分の才能を感じているわ……」


私は、仕上げに、と彼の目元に塗った顔料を乗せた筆を持ちながらしみじみ頷いた。素材が良かったのはもちろんだが、それでもこの仕上がりの良さは間違いなく私の腕によるものだろう。

自ら手がけた作品の出来の良さに我ながら感嘆していると、お化粧を施された彼がくちびるを歪ませた。


──どこからどう見ても、美しい女性である。


さすがに、ここまで出来上がるとは思わなかった。ややつり目で、目も大きめなファーレは、見事、明眸な美女に変化したのである。

私は一通り自身の作品の鑑賞と自画自賛をし終えると、浴室を指で示した。


「自分でも見てみるといいわよ。これなら誰もあなたに気がつかないわ」


私の言葉に、ファーレはちらりと浴室を見たあと、深いため息を吐いた。

その後自身の姿を確認したファーレは、意外にもまんざらでもなさそうだった。

何なら、自身の長い髪を手ではらいながら得意気に彼は言う。


「俺、結構いけてません?どんな酷い格好させられるのかと思ってましたけど……え、俺すごく美女ですよね!?ほらほら、そこのお兄さん、俺見て何か言うことあるんじゃないですか?」


──と、さらにはテオに絡み出す始末である。私は使用した顔料を仕舞いながら、私も私で出かける支度を整える。髪色を変え、さらにファーレも変装しているのだ。

どれくらい私の情報が街に出回っているのか確認もしたいし、先程達成できなかった目的も果たしたい。


顔料の入っている小瓶に蓋をして、白粉を小物入れに仕舞う。それらは平民でも手に取りやすい安価なものだが、小瓶や小物入れの飾り細工は繊細で、ガラスの反射も相まってきらきらとしている。


(……化粧品が煌めいてるのはどこの国も同じね)


「よし、これでおしまい!機会があったら今度はテオにもやってみたいわね。じゃあ、そろそろ行きましょうか?」


と、振り向くと。

ファーレがテオの顔を覗き込んでいる。見れば、テオは眼鏡をかけていた。それも、桃色がかった眼鏡だ。

テオがするには、ずいぶんと可愛らしい色合い。いわゆる、日焼け対策用のお洒落眼鏡、というものだろう。ファーレもテオの眼鏡が気になっていたようで、ふたりは何事か話し込んでいた。

ファーレに化粧をしていてまったく気付かなかった。

なぜテオはそんな、アミューズメントパークでするような眼鏡をかけているのだろう。


(子連れのお母様……?)


「テオ……その眼鏡は?」


私が尋ねると、テオは眼鏡のつるを押し上げて答えた。ちらりと、彼の特徴的な細い瞳孔が見える。その瞳は青だ。


「オレの瞳は特徴的すぎる。アンタと一緒に行動している以上、ひとの記憶にはあまり残りたくない」


「あ……」


確かに、テオの瞳は特徴的だ。

受付の女性も驚いていたので、相当稀なのだろう。

ファーレは彼の言葉に少し考え込んでいた様子だったが、テオがさっと眼鏡を外して言った。


「だけど、宿(ここ)ではもう見られているし、今かけても意味がない。今のは試してただけだよ」


「へえ、こういうのが趣味なんですか?」


ファーレの言葉にテオはちらり──いや、じろりと睨むようにして言った。


「……なわけないだろ。オレの髪の色からして、寒色系を選ぶと悪目立ちする。反対の色を選んでおけば、そう浮かないはずだ」


「そうかしら……」


「黒よりはマシでしょ」


「それは……そうね」


私は頷いた。彼の青みがかった銀髪は、雪のような寒々しさがある。涼やかで切れ長の青の瞳と、細い瞳孔が彼の刺々しい雰囲気を緩和しているようにすら見える。

その彼が目を完全に隠す黒のサングラスなどつけた日には──。


(うーん、怪しい!!)


怪しい一択だ。

耳のピアスといい、細い眉といい、標的(ターゲット)を追う暗殺者(刀身舐めるタイプ)か、『今から公園で打ち上げ花火でも上げようぜ!』なDQNにしか見えない。これでアロハシャツを着てビーサンを履いていたら完璧だ。……あら?DQNって死語?


それはともかくとして。

そういうわけで、

テオは日差しを気にするマダムのような桃色の眼鏡を。

私は青の染色粉を使用し、髪を水色に。

ファーレは化粧を施し、女性の姿に。


各々、変装することとなった。






──船が出るまで、あと半日。

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― 新着の感想 ―
DQNは今は、陽キャですかねえ… ピッタリ該当だとチンピラとかだとは思うんですが
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