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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
二章:賢者食い

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変装は大事

「さっき、宿を探している時に」


私たちはセドアの街に着いてすぐ、私とファーレ、テオの二組に別れた。街はかなり大きいので手分けしたのだ。


(その時に買ったのね……)


用意周到というか、準備が良いというか。

驚いていると、テオは船のチケットを私とファーレにそれぞれ渡した。


「どうなるかわからなかったから、念の為ね」


「でも、私はともかくファーレはどうするの?あなた、どれくらい顔が割れてるの?暗部の人間ならそう知られていないと思うんだけど」


私が問いかけるとファーレは頭の後ろで手を組みながら私を見た。ファーレは私を背負って一日半歩き通しだったというのに、特に疲れた様子はなさそうだ。さすが暗部……と思うのと同時に、だから王家に拾われたのかと納得もいく。

彼はぐぐっと伸びをしながら答えた。


「んー……現地の人間には割れてないと思いますけど……。きっと、俺みたいなのがほかにも派遣されてると思うんですよね。……暗部の人間が」


「なるほど。じゃあファーレはどうにかした方がいいわね」


「俺も行くんですか?ご令嬢の面倒を見るのはアーロアを出るまで……って話だったと思うんですが」


「少し違うわね。私の足が治るまで……って話よ。それに今、あなたを野放しには出来ないのよ。飼い主に報告されたら困るもの」


足はチッチッと人差し指を振り、彼の言葉を訂正すると、そのまま自身の足首を示した。


「ここであなたと別れるくらいならこの場で亡き者にした方がよっぽど確実だわ」


ファーレは王家の暗部の人間で、その忠誠心は本物だ。何かにつけて城に戻れというのがその証拠だろう。

この場で別れでもしたら、彼がどう出るか私にはまったく読めない。

魔法契約は【私の居場所を王家に密告しない】という制約をかけているが、正直穴がありすぎると思う。かなり杜撰な内容だ。あの時は急いでいたし時間がなかったから、詳細まで詰めている時間はなかった。


だけど改めて魔法契約の内容を思うに──。


(つまりそれって、王家じゃなく衛兵に報告するのは有り……ということよね?)


やはり、ファーレは手放せない。少なくともアーロアを出るまで監視していなければ、安心できない。私の言葉に、ファーレが笑って答えた。


「わあ、ずいぶん熱烈な愛の言葉じゃないですか?殿下に知られたら俺、殺されますね」


「殿下とは婚約も結婚もしません。なので、あなたが殺されることもないわ。安心して」


私たちがここ数日で何回目かの口論をしていると、その間に荷物を解いていたテオが私たちに言う。


「まずはエレインの髪を変えよう。アンタは……髪でも切ったらどうだ?少しは印象も変わるんじゃない?」


「ええー。これ俺のアイデンティティなんですよ。切るのはちょっと」


断髪に渋る様子を見せたファーレに、私はにやりと笑った。ファーレにはここ数日の間で腹を立てることも多かったので、ここら辺で意趣返しさせてもらうことにしよう。


仕方ないわよね!私は至ってふつうの凡人だもの!腹が立ったら何かしらやり返したくなるものが人間ってやつよね!

私は何をされても言われてもにこにこ笑顔ですべてを許せるほど懐が広くない。それどころか狭量な人間なので、仕返しすることを決めた。


私はにっこり満面の笑みを浮かべながら相槌を打つ。


「そうよね。それに、髪を切ったところで顔を知られてたら意味が無いわ。ね、ファーレ」


「そうですそうです……。って、え、なんでそんな笑顔なんですか?」


やや引きつった声を出す彼に、私は変わらず笑みを浮かべながら言葉を続ける。


「だから私に名案があるのよ!任せてちょうだい!」


そうして、ファーレの首根っこをつかみ、向かった先は──。






化粧屋である。

女性客でごった返す店内を、フードを深く被ったファーレと歩く。ファーレの逃亡防止のため、私はしっかりと彼の手首を掴んでいた。


「あの、本気ですか?」


ここまで来て何を言うのか、と私はファーレを見た。フードで見えないが、彼はかなり動揺しているようだった。

それもとうぜんかしら、と考える。


なにせ、ファーレは今から女装するのだから。


私の案はこうだ。

まず、ファーレには女装してもらう。そして、髪色を赤に変えた私は彼の妹ということにして、そして──。


「いや、それにしたってなんで俺が男の恋人役……」


「年齢も近いしいいじゃない」


テオに尋ねたところ、彼は二十三歳。

ファーレは、はっきりとした年齢は不明だがおそらく二十一歳とのことだった。

そういうわけで、私は女装したファーレをテオの恋人役に任命したのだった。


この船旅は、私の今後に大きく関わってくることだろう。

無事アーロアを出航し、アルヴェールにさえ着いてしまえば、少なくともすぐに私がアーロア王家に捕まることもないはず。


アーロアを出るまでは、気は抜けない。

ファーレは正直なところ、いちばんの不安要素だ。


そう考えた私は、一策を講じることにした。

ファーレの行動を制限するには、テオの恋人役にしてしまうのがいちばん手っ取り早い。テオとファーレは魔法契約を結んでいる。彼も不用意に動けないだろう。


問題は、ファーレを恋人役にすることでテオに少なからず負担がかかることだが──そのことも含め、アルヴェールに着いてから彼には必ずお礼しなければと思った。

やることも考えなければならないことも目白押しだ。正直、頭の使いすぎでくらくらしている。


私はファーレを捕獲している手はそのままに、反対の手で顔料を手に取った。


(あまり派手な化粧は返って目立ちそうだし、シンプルにオレンジか茶色……といったところかしら)


ファーレは赤髪だし、オレンジ系統の顔料がいいだろう。少し暗めなオレンジの顔料を手に取ると、私は彼を呼んだ。


「ファーレ、こっち向いて」


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