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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
二章:賢者食い

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例え、血が繋がっていても

テオに妹がいた。

改めて考えて納得する。あの面倒見の良さは、妹がいるからこそだったのだろう。


(……私にも兄はいるけど、テオとはぜんぜん違うなー)


私はファーレに背負われながらもそんなことを考えた。あの後、私たちは近くの街までひとまず徒歩で向かうことにした。

ほんとうは船を使う方が断然早い。船を使えばアルヴェールまで二日程で到着するだろう。


しかし、王家もそこまで馬鹿ではないだろうし、おそらく船は王家に押さえているはず。そういうわけで、馬を入手するまでは徒歩である。

私は、今朝の会話を思い出した。


(もし、テオが私の兄だったら……王女殿下の件を質問したら、お兄様とは違う答えをくれたのかしら……)


きっと、そうだろう。

だって、テオは優しい。少なくとも、私の気持ちを切り捨てて、王女殿下に寄り添えと言うことはしないはずだ。


いいなぁ、と思った。顔も知らないひとだけど、私もテオの妹になりたかった。そうしたら、こんなに悩むこともなく、それでいて孤独を感じることもなかっただろうか?

もしも、や、仮の話をしても仕方ない。それでも、考えてしまう。

私は、ファーレに背負われながら彼に尋ねた。


「あなたは兄弟はいる?」


私を荷物のように背負いながら、ファーレはあっさり答えた。


「さあ?知らないです。言いませんでしたっけ、俺、捨て子だったんですよ。物心ついた時にはひとりだったので、分かりません」


「……そう。もし、あなたに兄弟がいたらどうする?」


さらに質問を重ねるとファーレが苦笑するのが分かった。鬱陶しいのか、ファーレは長い赤髪をひとつにまとめ、前に流している。


「さぁ。……ま、何も変わらないんじゃないんですかね?今更、血の繋がりとか、俺にはよく分からないですし」


「……血が繋がっていても、分かり合えないことも、あるものね」


私の言葉に、ファーレは答えなかった。

私は、彼の背に体を預けながらまつ毛を伏せた。言葉を交わしても、言葉を尽くしても、通じない、伝わらないことだってある。血の繋がった家族だから、無条件に相手を理解する、とは限らないのだ。


私はファーレにおぶわれているので、自然、足取りは遅くなりそうなものなのだが、そこはさすが暗部。

ファーレに疲労した様子は見えない。それどころか、慣れたようにすたすたと歩いている。


(細身に見えるけど、意外と筋肉質なのかしら?いわゆる、脱いだらすごい、ってやつ?)


思わずそんなことを考えたが、令嬢らしからぬはしたなさだと自戒し──いやいや、私はもう貴族をやめたのだから、と思い直す。

それでも、勝手にファーレの体を想像したのは後ろめたい。自滅した私は項垂れた。


ファーレの年齢はわからないが、結構若そうに見える。テオとそう変わらないのではないかしら。

あまり雄々しいとは感じないファーレがひょいと私を抱えて運ぶのは、正直驚いた。ひとひとり運ぶ……って結構大変だものね。結構足が重症な私としては、運んでくれて大助かりではあるが。


それにしても。


(ここから近い街でも徒歩で一日半、かぁー)


このあたりに村すらない、とテオが言っていたので覚悟はしていたが、それにしたって遠い。

せめて運び難くないよう、私はしっかりファーレに捕まった。


野宿も三日目となれば、慣れたものだ。

ほんとうは川で魚を捕まえたりしたいのだが、あいにく足の捻挫があるため、私は基本火起こし要因である。テオから借り受けた火打金で、それらしい石を選別し、叩いて火を起こす。

最初は火花が散る度に、まるで初めて火を見た人類のように怯えていたものだが、だんだん慣れてきた。というか、火花は散るものの、なかなか火がつかないのである。

火口に着火する前に火が消えることはざらで、四苦八苦しているうちに慣れてしまった。


それでも二桁の失敗を経て、なんとか火を起こし、木の枝に着火させる。それでようやく、焚き火の完成である。


(知らなかった……)


火打金で火を起こすのって、すっ……ごい大変なのね……。私は割と昔から魔法に頼り切りなところがあったので、魔法が使えない今、生きることがどんなに大変かをひしひしと感じていた。まさにサバイバル。

旅慣れしているテオとファーレがなにかと手助けしてくれているが、それがなかったら今頃私は……。

ちらり、とその辺に生えている雑草を見る。


(安全な草かどうか見分けることもできないし、毒性のある草を食べて死にかけていた可能性も……?)


それを考えてゾッと背筋が冷えた。

夜は気温がぐっと下がるので物理的にも寒い。


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― 新着の感想 ―
「血の繋がった家族だから、無条件に相手を理解する、とは限らないのだ。」は名言ですね〜。作者様の作中のお言葉には、本当に心を動かされます。続けて読みます。
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