例え、血が繋がっていても
テオに妹がいた。
改めて考えて納得する。あの面倒見の良さは、妹がいるからこそだったのだろう。
(……私にも兄はいるけど、テオとはぜんぜん違うなー)
私はファーレに背負われながらもそんなことを考えた。あの後、私たちは近くの街までひとまず徒歩で向かうことにした。
ほんとうは船を使う方が断然早い。船を使えばアルヴェールまで二日程で到着するだろう。
しかし、王家もそこまで馬鹿ではないだろうし、おそらく船は王家に押さえているはず。そういうわけで、馬を入手するまでは徒歩である。
私は、今朝の会話を思い出した。
(もし、テオが私の兄だったら……王女殿下の件を質問したら、お兄様とは違う答えをくれたのかしら……)
きっと、そうだろう。
だって、テオは優しい。少なくとも、私の気持ちを切り捨てて、王女殿下に寄り添えと言うことはしないはずだ。
いいなぁ、と思った。顔も知らないひとだけど、私もテオの妹になりたかった。そうしたら、こんなに悩むこともなく、それでいて孤独を感じることもなかっただろうか?
もしも、や、仮の話をしても仕方ない。それでも、考えてしまう。
私は、ファーレに背負われながら彼に尋ねた。
「あなたは兄弟はいる?」
私を荷物のように背負いながら、ファーレはあっさり答えた。
「さあ?知らないです。言いませんでしたっけ、俺、捨て子だったんですよ。物心ついた時にはひとりだったので、分かりません」
「……そう。もし、あなたに兄弟がいたらどうする?」
さらに質問を重ねるとファーレが苦笑するのが分かった。鬱陶しいのか、ファーレは長い赤髪をひとつにまとめ、前に流している。
「さぁ。……ま、何も変わらないんじゃないんですかね?今更、血の繋がりとか、俺にはよく分からないですし」
「……血が繋がっていても、分かり合えないことも、あるものね」
私の言葉に、ファーレは答えなかった。
私は、彼の背に体を預けながらまつ毛を伏せた。言葉を交わしても、言葉を尽くしても、通じない、伝わらないことだってある。血の繋がった家族だから、無条件に相手を理解する、とは限らないのだ。
私はファーレにおぶわれているので、自然、足取りは遅くなりそうなものなのだが、そこはさすが暗部。
ファーレに疲労した様子は見えない。それどころか、慣れたようにすたすたと歩いている。
(細身に見えるけど、意外と筋肉質なのかしら?いわゆる、脱いだらすごい、ってやつ?)
思わずそんなことを考えたが、令嬢らしからぬはしたなさだと自戒し──いやいや、私はもう貴族をやめたのだから、と思い直す。
それでも、勝手にファーレの体を想像したのは後ろめたい。自滅した私は項垂れた。
ファーレの年齢はわからないが、結構若そうに見える。テオとそう変わらないのではないかしら。
あまり雄々しいとは感じないファーレがひょいと私を抱えて運ぶのは、正直驚いた。ひとひとり運ぶ……って結構大変だものね。結構足が重症な私としては、運んでくれて大助かりではあるが。
それにしても。
(ここから近い街でも徒歩で一日半、かぁー)
このあたりに村すらない、とテオが言っていたので覚悟はしていたが、それにしたって遠い。
せめて運び難くないよう、私はしっかりファーレに捕まった。
野宿も三日目となれば、慣れたものだ。
ほんとうは川で魚を捕まえたりしたいのだが、あいにく足の捻挫があるため、私は基本火起こし要因である。テオから借り受けた火打金で、それらしい石を選別し、叩いて火を起こす。
最初は火花が散る度に、まるで初めて火を見た人類のように怯えていたものだが、だんだん慣れてきた。というか、火花は散るものの、なかなか火がつかないのである。
火口に着火する前に火が消えることはざらで、四苦八苦しているうちに慣れてしまった。
それでも二桁の失敗を経て、なんとか火を起こし、木の枝に着火させる。それでようやく、焚き火の完成である。
(知らなかった……)
火打金で火を起こすのって、すっ……ごい大変なのね……。私は割と昔から魔法に頼り切りなところがあったので、魔法が使えない今、生きることがどんなに大変かをひしひしと感じていた。まさにサバイバル。
旅慣れしているテオとファーレがなにかと手助けしてくれているが、それがなかったら今頃私は……。
ちらり、とその辺に生えている雑草を見る。
(安全な草かどうか見分けることもできないし、毒性のある草を食べて死にかけていた可能性も……?)
それを考えてゾッと背筋が冷えた。
夜は気温がぐっと下がるので物理的にも寒い。




