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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
二章:賢者食い

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テオの理由/ファーレの真実



(つっても?この中途半端な魔法契約じゃどこまで強制力があるか……)


今しがた、エレインに名をつけられた男──ファーレは、当然のように彼女に従うつもりはなかった。今すぐ、アレクサンダーに報告するつもりは無いが、時期を見て連絡をするつもりだ。

なにせ、彼は王家に拾われたその時から、王家の犬なので。


魔法契約を結ばれたものの、本名ではないし、それに本来の強制力はないだろう。

ファーレに名がないのはほんとうである。それを含めて『使える』と判断され、ファーレは王家に拾われたのだから。


(しっかし、このテオ?って男、誰だ?アーロアの貴族でもない……とすると、他所のやつか?)


その容姿からしてどう見たって若い年齢であるように見えるのに、彼は落ち着きすぎている。物怖じしたところがなく、やけに場馴れしているのだ。


エレインが貴族の娘で、ファーレが王家の追っ手だと知らされても、顔色ひとつ変えることはしなかった。エレインが事前にテオに教えていた可能性はあるが、それにしたって突然王家の追っ手が現れたのだから、ふつうは狼狽えるなりなんなりするだろう。


(それをこの男は、何食わぬ顔で流しちまった)


なーんだかなぁ、きな臭いんだよねぇ、とファーレは独りごちた。

そのままファーレはエレインを背負い、南下した。船を使った方が効率がいいのは分かりきっているが、船はおそらく王家に抑えられている。

そういった理由で、陸から隣国、アルヴェールに向かうことになった。



その夜、一行は予想通りではあるが野宿することになった。大きな街まであと半日も歩けば辿り着くだろう計算だ。

焚き火にあたりながらファーレに話を振ってきたのは意外にもテオだった。

彼は、拾い集めた薪を火にくべながらファーレに尋ねた。


「アンタ、王家に仕えてたんだろ?アーロアの城で不審な話を聞かなかったか?」


「……不審な話?」


ファーレが眉を寄せる。

エレインも、テオの問いの意図が掴めないのか、目を丸くしている。

テオは、そんなふたりに構わず淡々と、燃える炎を見ている。


「そう。例えば──そうだな、魔法行使に関して、不測の事態が起きた……とか。害獣が発生した、とかそういう話は聞いてないか?アンタなら、その手の話、いくらでも耳に入ってくるだろ?」


「…………」


テオが何を聞きたいのか理解したファーレは、沈黙を保った。そのまま、意味もなく揺れる炎を見つめたあと、後ろ手に手をついた。

はぐらかすか、正直に答えるか考えていたのである。


エレインは、そんなふたりのやり取りを黙って聞いていたがふと気になったのか、テオの方に視線を向けた。


「そういえば……テオはどうしてあんな辺鄙な場所にいたの?テオは、あそこで何をしていたの?」


それは、ファーレも気になっているところだった。

おそらくテオは、この国の人間ではない。となると、他国のもの──それも、ただの旅人ではない。何かしら立場のある人間だ。

そこまで考えて、ファーレは引っ掛かりを覚えた。


(んん……?待てよ……この男の、この顔……)


ファーレはさりげなく、テオの顔をじっと見つめた。テオはエレインを見ていて、ファーレの視線には気がついていない。


癖のある、銀の髪。何より目立つのは──その、瞳孔の細い青の瞳だ。左目もとのホクロといい、特徴のある顔立ちをしている。


(……どこかで)


見覚えが……ある。

ファーレは、王家の暗部として優秀な人間だ。その記憶力と動体視力の良さを買われて、王家の犬にまで登り詰めた。その彼が、見覚えがある……と思うのだから、おそらくそれは偽りではない。

では、どこで?

古い記憶を引っ張りだそうとしていたところで、テオの声がそれを打ち切った。


「調査だよ。……アーロアでは、まだ知られてないんだな」


テオの落ち着いた声が、場を支配する。

意味深なその言葉に、エレインとファーレの視線が集中した。


「魔力と対を成す存在の【瘴気】。……それが、濃くなってきている。この二十年で緩やかに広がりを見せているが──ここ数ヶ月は異常だ。このままだと……」


「ま、待って?瘴気……ってなに?」


エレインが困惑した声を出す。

反対にファーレは、テオがそんなことを知っていることにやはり、警戒心を抱いた。


アーロアが抱える重大機密(トップシークレット)

王家は既に手を打っているが、追いついていないのが現状だ。そして、そういった(・・・・)理由もあって、王家は、いや、アーロア国は、エレインを逃がすことができない。

エレインがこの国を去る。それはすなわち、エリザベス王女の死に繋がるからだ。


狼狽えたエレインに、テオが真っ直ぐ見つめる。

この目は、探る目だ。エレインが嘘を吐いていないか、ほんとうに何も知らないのか、確かめる瞳だった。

それに気がついているのはおそらく、ファーレだけだろうが。

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