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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
二章:賢者食い

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まだ死ねない!

私があまりにも自信満々にそう言いきったからか、テオは困惑したように「……そう」とだけ言った。

初めて会った女にそこまで言い切られて、戸惑っているのだろう。

だから私は、自分に正直な気持ちも一緒に言うことにした。


「それに、今テオにいなくなられると私はとてもまずいです」


ピン、と人差し指を立てる。


「私は今、魔法も使えない、荷物もない、おまけに服もこんなんです……!テオがいなくなったら、ほんとうに困ります。死活問題です。私、まだ死にたくないんです。やりたいことたくさんあるんですよ」


そう、例えば家庭菜園してハーブを育てたり、採れたばかりのナスやキュウリだって食べたい。さかなも釣ってみたいし、山菜狩りだってしてみたい。

塩作りもやってみたいし、牛の乳しぼりもしてみたい。


(観光名所を見て回りたいし、世界の名物料理だって食べ歩きたいんだからー!!)


そんな野望があるのに、こんなところであっさり死ぬわけにはいかない。


万感の思いを乗せて言うと、テオは私の口調の強さに少し驚いたようだった。


しみじみ、私は頷いた。

やはりこんなところでは死ねない。

今死んだりしたら、未練がありすぎて化けて出る気がする。


(でも幽霊は食べ物食べられないのか……残念だな……)


私はひとり頷きながら言葉を続けた。


「テオの人柄を信じるってのはもちろんそうなんですけど、でも同じくらい、テオにいなくなられたら困るなぁーって思ってます」


言ってから、ハッとする。

まずい、欲望に正直になりすぎた。

言わなくてもいいことまで言ってしまった気がする。


だって、私の言葉ってつまり【テオでなくてもいいんだけどー、とりあえずタイミングよく現れたひとは逃がせないっていうか!】みたいなものだ。

失礼だ。失礼すぎる。

とにかく弁論しようとすると、不意に彼が笑いだした。くすくすと、まるで、堪えきれないというように。


(……笑った!!)


今まで無表情か、ちょっと嫌そう、かなり嫌そう、のどれかがほとんどだったので、かなり驚いた。


(このひと、声を上げて笑ったりするのね……)


考えてみたら、笑わないひとなんていないだろうに、なんだか意外に思えてしまった。

テオは、未だくすくす笑いながら言った。


(お、おお……これがギャップ)


思わずまじまじ見てしまう。

テオは、そんな失礼すぎる私に気付かず、笑みを浮かべたまま言う。


「正直に言い過ぎでしょ。……いいよ、わかった。朝まで一緒にいる」


「ほんとう!?やったぁ!」


思わずガッツポーズしてしまいそうになり、自身の格好に気づいて自重する。

テオは、まだ少し笑ったまま言う。


「アンタの話に興味もあるしね。それで、魔法が使えなくなった原因の話をしてたんだっけ?確か」


彼が、思い出したように言う。


(そうだった。それで私の身の上話をすることになったんだった)


いつの間にか話が脱線していた。

私は、塔から飛び降りたあとの話をしようとして──くしゃみをした。


「ヘゥッ!」


いい加減、限界だったのだろう。

情けないくしゃみが出る。


(ひ、ひえぁー……)


一度自覚すると、もうだめだった。


(めっ……ちゃ寒い!)


テオが、ちらりと私を見て「すごい変わったくしゃみするね……」と感想をもらす。

ええい、そんなことはどうでもいい!(前世の「ヘッウショーイ!ウェーイ」という癖強めなくしゃみと、今世の「……っくしゅ」というお淑やかなくしゃみが混ざった結果である)


「テオ!それでどうするんですか!?いい加減決めてください!このままだと凍えますよ、私!」


それでもいいのか!と言わんばかりにテオを見た。

そのままぶるぶる震えている私を見かねて、なのか。あるいは同情なのか、根負けしたのか。

テオは「わかった」と言った。


ぱっと私は顔を輝かせる。


(ぬくもり……!)


もう、テオを湯たんぽと見ている私だった。


テオを見ると、彼はそのまま立ち上がって私の後ろに回った。


(え?……あら?何してるの?)


不思議に思って振り返ろうとした瞬間。

背中に、なにか温もりが触れた。


「わぁ……!?」


びっくりして、思わず声が漏れた。

咄嗟に振り向こうとすると、その前にテオが言う。


「こっち向かないで。動かないで。空気が入る」


テオは、私の背に、背を預けていた。

互いが互いを背もたれにしているような状況だ。

どうしてそんなことに。


私は一緒に寝ましょうと言ったのであって、背中をくっつけましょうとは言ってない──。

そこまで思って、ハッと気がついた。


(そっか……)


彼は、私に気遣ってくれているのだろう。

見ず知らずの男性と同衾するより、背中を合わせる方が、まだ破廉恥ではない……と思う。多分。

既に私は、下着に上着一枚という、教育係が聞いたら泡を吹いて倒れそうな姿なので、今更の話……ではあるが。


それでも、きっとテオは気遣ってくれた。

もしかしたら彼自身、私とひっつきたくなかった可能性もおおいにあるが、私は自分の信じたいと思った方を信じることにする。


なにせ私はスーパーポジティブばか女なのだ(これも前世、御局様に以下略)。


ほんとうは、体をくっつけた方があたたかいのだろうけど──これでもじゅうぶんあたたかい。


なにより、こころが。

私は思わず笑った。


「んっふふふー」


テオは、分かりにくいけど、やっぱり優しいひとだ。そう思った。

私の奇妙な笑みに、テオが身動ぎする。


「…………なに?」


どこか居心地悪そうに聞いてきた。


私は彼に答えずに、そのままニマニマと笑った。


ぱちぱちと、薪が燃える音が静かに響く。


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