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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
二章:賢者食い

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疑心暗鬼、それはどっち?

このままテオに放置されていたら間違いなく私は凍死かクマのご飯か、あるいは餓死していた。


(……魔法も使えなくなってるし!!)


テオがさっさとこの場を離れようとした時、死に物狂いで彼を引き留めて良かった。

魔法があるからなんとかなるでしょ、なんて余裕こいてたら死一直線だった。


(直感で、テオを引き留めた方がいいって思ったのよねー。私って先見の明があるかも……)


もっとも、先見の明なんてものがあったら丸太が頭に直撃することもなかったかもしれないが……。

そんなことを考えながら、私はがっしりテオの手を握った。もちろん、彼が逃げないようにするために。


「テオも私がどこかで行き倒れたら寝覚め悪いですよね?ね?」


「…………まぁ」


たっぷり間を空けてから彼が答える。

明らかに私と関わりたくなさそうな雰囲気をさせているが、この手を離すわけにはいかない。

文字通り、彼だけが今の私の生命線なのだから。


(まさか、魔法が使えなくなるなんて思わないじゃない!?)


ひとりだったら絶望し、諦めてそこら辺の草でも齧っていたところだ。

……草って、どれくらい栄養があるんだろう。


「とりあえず、寒さを何とかしましょう。テオ、魔法でどうにかできませんか?」


「できないことはないけど、オレ加減が苦手なんだって。このあたり一帯が大火事になるよ」


「……環境破壊は良くないですね」


それに、派手な魔法は王家に見つかってしまう。


私は考えた。とにかく、寒さをしのがなければならない。

何なら、シャツ一枚のテオより下着に上着一枚の私の方がよっぽどまずくない??


ハッと私はあることに気づき、テオに尋ねた。


「テオ、私が着ていた服は?」


「そこに置いてる。……まだ濡れてるんじゃない?」


「確かめてください」


「え、自分で」


「私は動けないんですよ!動くと肌が露出するので!」


大声で主張すると、テオはそれで私の行動不能の理由を悟ったらしい。

少し身動ぎする程度なら問題ないが、反対側に置かれた服を確認するとなると、絶対見える。肌色が。

テオはさっと立ち上がると、すぐに私の服の濡れ具合を確認した。

私が着ていたのは首まで詰まったワンピースドレス。


塔から湖に飛び込むことは最初から決めていたので、下半身のボリュームがすごいロココ調のドレスは絶対やめようと決めていた。


今の流行りが『細い腰こそ至高!』なS字ラインタイプのドレスで良かった……。

もしパニエやらクリノリンやらつけていたら、川で流された時、ドレスとともに沈んで溺死していたかも……。


そう思うとゾッとする。

自分の悪運の強さに再度感謝だ。


私が自分の運の強さを有難く思っていると、テオが短く言った。


「濡れてるね」


「だめかー……」


肌寒さを覚える今、濡れたドレスを着るなど自殺行為にほかならない。諦めのため息を吐いた私に、テオが言った。


「とりあえず服は明日には乾くはずだから。問題は今だね。……寝れそう?」


「今寝たら風邪引きそうな気がします」


「まあ、確かに……」


テオは納得する素振りを見せた。

それを見て、私は仕方なく、ほんとうに仕方なく!妥協案を出した。


「とりあえずあの、一緒に寝ません?」


「…………は?」


あ、テオの私を見る目が『こいつ何言ってんだ』というものになった。

そのあまりの目の冷たさに、ちょっとこころが折れそうになったが私は主張を変えなかった。


「このままじゃ私たち、風邪ひいちゃいますよ!」


「オレは引かないけど。野宿も慣れてるし、これくらいの寒さなら」


「私は慣れてないんです!」


「あ、そう」


彼がまた、無感情に答える。

私はすかさず頭上を示した。

すなわち、空。


「今、夜!気温はおそらく十度を切っています!」


「それくらいかもね」


続いて私は自身を指さした。


「私、半裸!間違いなく風邪を引きます!」


「アンタ、鍛えてなさそうだしね。風邪引いたら拗らせそう」


(王女殿下だったら一発で生死を彷徨うレベルだろうなぁ……)


私はそんなことを考えながら強く頷いて言った。


「というわけで、一緒に寝ましょう」


「なにが、というわけで?」


「ひと肌はあったかいってなにかで読みました。くっついて寝るだけで全然違うはずです」


「ああ、一緒に寝るってそういう……」


合点がいったようにテオが頷いた。

まだなにか考え込んでいるようだ。


(なにがだめなのかしら?私が風邪ひくよりはいいじゃない?それとも女嫌いとか?)


いや、女嫌いは川に流されてきた女を拾ったり……はするか。

女嫌いとひとの命を見捨てることは決してイコールではないものね。もし女嫌いで私を助けたなら、彼はよほどのお人好しということになる。


(そんなひとに、偶然とはいえ拾われた私はついてるなぁ……)


やっぱり、私、悪運には強いのかも!

そんなことを考えていると、テオが言いにくそうに「あのさ」と切り出した。


(おお!ついに最終決断を下したのね!聞きますとも!)


私は前のめりにテオを見た。

彼が、そんな私にまたたじろいだ様子を見せた。


「……アンタ、いいところの娘だろ?緊急事態とはいえ、見ず知らずの……得体の知れない男と一晩過ごすって怖くないの?危機感足りてないんじゃない?」


「…………!!」


なんと、彼は私の身の安全に気遣ってくれていたのだった。


(やっぱり彼、良いひとだわ!)


私の中で、テオという人間に【安全】というラベルが貼られた瞬間だった。

今までは『優しいひとかなー?』、『助けてくれた恩人だし』みたいな気持ちだったが、完全に気を許していたわけではなかった。


だけど今、私は確信していた。

分かりにくいし、結構な塩対応だけど。

このひと、押されたら強く拒めないひとだ。

そして、結構なお人好しだ。

私は首がもげるのでは、というほど強く頷いた。


「それならご心配なさらず!私は今、あなたを信じるって決めましたので!」


少なくとも、一晩一緒にいても安全だ、と思う程度には。

私の言葉に、ますますテオは不可解そうな顔をした。


「……なんで?」


言外に『今までのやり取りの中で、どこに信じる要素があった?』と言われているような気がした。

私は、彼に説明するためにピン、と一本人差し指を立てる。


「そもそも、もしあなたが私を襲ったとして。そうなったらそれは、私のひとを見る目がなかったせいです」


テオは、私の言葉を黙って聞いていた。

私の本心を探るように、こちらを見ている。


「結果、私が痛い目を見たとしても、それは私の責任だし、私だけが傷つけば済む話です」


少なくとも、彼は私の話を聞いてくれた。

それで、じゅうぶんだ。

それに──。


「私はあなたを信じてみたい、と思いました。理由は色々ありますが……そもそもの問題、ですよ?危険なひとはわざわざ自分を警戒しろ、なんて忠告しません。警告している時点で、あなたはじゅうぶん良いひとですよ」

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