第2話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
サリーに経緯を説明した。
彼女の母校との姉妹校提携に一役買ったこと、それは成功したこと、そして今日、留学の打診がマナにあったこと、けれども彼女はそれを断ったこと。もちろん、僕にはその理由が分からない。
彼女は真剣に聞いてくれた。
「じゃあ9月からもみんな一緒にいられるかも、わよ?」
「マナがうんと言ってくれたらね」
4月になったら僕が剛勇を去ることも言った。勿論、行き先は言えないけれど、9月には僕も英国に行くと言ってしまった。留学する「僕」は「男」だから、口が滑ったと言われればそれまでだ。分かっていたけれど、気持ちを抑えきれなかった。
「マナマナも一緒にいくべきわよ!」
サリーは強く宣言すると、やおら腕を組んで考える人になる。
「でも不思議わよ。どうしてマナマナ断るわよ?」
「それが分からないから困っているの」
「飛行機が怖いからわよ?」
「絶叫系は好きらしいわ」
「イギリスが怖いわよ?」
「ハロッズでお買い物したいって言ってたじゃない」
「フィッシュアンドチップスが怖いわよ?」
「ポテトだけで3ヶ月は生きていけるって」
「じゃあ、ホームシックわよ?」
「寮生活してるのに?」
「好きな人が日本にいるからわよ?」
……あ、その可能性は考えなかった。いや、でもまさか――
「知ってるの?」
「知らないわよ、ちょ、苦しいわよ、千歳、離してわよ!」
思わずサリーの肩をガクガクと揺すっていた。ハッと我に返る。
「もう、千歳ったら、ホントに馬鹿力わよ……」
「ごめんなさい」
「もしかして千歳、妬いてるのわよ?」
「……」
「やっぱり妬いてるのわよ」
ひとり納得するサリーに全力で否定しようとしたけど、今の僕は女、美少女千歳だ。
ここはお淑やかに。
「マナ可愛いから、ボーイフレンドがいっぱいいても当然わよ」
「そ、そうね」
「でも、一番好きなのは千歳わよ」
「えっ?」
「マナは千歳が好きって言ったのわよ」
「ちょっちょっと、わたしもマナも女の子でしょ」
「女の子同士でラブラブもOKわよ」
サリーはおどけてウィンクすると、ポケットからスマホを取り出した。
「アタイも気になることがあるのわよ……」
右手で器用に操作する彼女。僕がその連絡相手を知ったのは、次の日のことだった。




