相談
翌日、いつものように瑠衣からの講義を受け、休憩に入ったところでフィオナは切り出した。
「あの、瑠衣さん」
「何かわからないところでもありましたか?」
「いえ、そうではないのですが……そのお願いがありまして」
「私でよければお聞きいたします。何でしょうか?」
紅茶を入れ始めていた手を止め、瑠衣はフィオナに向き直った。
「……実は、神琉様にお会いしたいのです」
「若君に、ですか?」
「はい。食事の時にお見かけはしていますが、その……それ以外の時にでもお話をさせていただきたいと思っているんです。駄目でしょうか?」
何か理由が合って避けられているのかもしれないが、仮とはいえフィオナは神琉の婚約者に当たる。会いたいと望むことに不思議はないはずだ。瑠衣はしばし考え込むように目を伏せた。時間にするとわずかだったかもしれないが、瑠衣の思考時間は思う以上に長く感じられた。フィオナはその回答を待つのみだ。膝で両手を握りしめ、その時を待つ。
「わかりました。若君にお伝えしておきます。都合は若君に合わせてもよろしいですか?」
「は、はい! 私はいつでも大丈夫です」
是という回答をもらい、フィオナは安堵する。もしかすると断られるかもしれないという可能性もあったからだ。
「本日は、夕方前にはお屋敷に戻ってくる予定ですので、その頃にお呼びに行きますね」
「わかりました。よろしくお願いします」
「はい……私としても若君に興味を持っていただけるのは嬉しいです。ただ、ひとつお願いがあります」
「お願い、ですか?」
「若君と会うときは、エルウィン様お一人でお願いします。侍女はお連れにならないでください」
「アンリを、ですか?」
「そうです。若君の側には我が弟がいますので、心配はいりません。そのようにアンリ殿にお伝えください」
アンリを連れていくつもりだったフィオナにしてみれば疑問が浮かぶお願いだったが、相手も側近のみということならばそれに従うべきだろう。フィオナは瑠衣の言葉にうなずいた。
******
夕方になり、フィオナは瑠衣に呼ばれた。場所は屋敷の4階にある神琉の書斎だ。アンリは客室に待機しているので、ここにいるのは瑠衣とフィオナだけだ。
「もうじき戻られますので、ここでお待ちください」
「は、はい」
瑠衣はそれだけ告げると、フィオナを置いて出ていってしまった。指示されたソファーに座り、紅茶を口に含むと息をついた。
「……本が沢山なのね」
一息ついたところで回りを見回す。ソファーの横には机があり、そこで神琉は仕事をしているのかもしれない。だが、それ以上に目につくのは、この部屋にある本の数だ。部屋の周りはすべて本棚であり、ぎっしりと本が埋まっている。一体何冊あるのか。机もソファーもアンティーク調ではあるが、気品があり、公爵家としての威光を示しているかのようだった。
すっかり熱中して魅入っていたのか、フィオナは人が入ってくることに気が付かなかった。
「……そんなに珍しいか?」
「えっ?」
突然声を掛けられ、フィオナは慌てて声のする方へ振り向くと、そこには待ち人―――神琉の姿があった。




