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水の道  博士ちゃんJCが迷い込んだ大江戸で水を持ってくる物語  作者: Kくぼ


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第八話 遠山の銀さん

 舞湖は突然名前を言われて我に帰った。はい、と返事をしてからまじまじとお奉行様を見る。年は30半ば、精悍な顔つき、中肉、さっき立ったところを一瞬見たけど身長165cmくらい?そういえば背の高い人があんまりいない。それはさておきあんまり見すぎるのもと思い、ふたたび頭を下げた。


「水野殿、顔を上げられよ」


 さっきもそう思ったけど、声が渋い。さすが奉行だけの事はある、って何様ですか私は。舞湖はゆっくりと顔を上げてお奉行様をみた。こういう時は笑顔がいいのだろうか?でも罪人がニコニコしてたら変だよね。舞湖は真面目な顔でじっとお奉行様の顔を見つめた。静寂が訪れた。なんか言ってよ、空気が重い。と思っていると、


「そう固くならなくても良い。某は今日から北町奉行に任ぜられた遠山銀次郎と申す。中村に聞いたが水野殿は江戸の水について何やら考えがあるというが誠か?」


 遠山の銀さんか。なんか聞いたことのある名前の人が多いのは気のせい?さてどうしよう。正直に言っていいのだろうか?妙高先生には話したけどここでそれを言うのは流石に聞いている人が多すぎる。困って中村の旦那を見ると不思議な顔をしている。そういえば水のことは任せろとか何とか言ったような言わないような。


 舞湖は困りながら、


「誠です。ただこの場でお話しするのはちょっと」


 それを聞いたさっきの絶対嫌な奴確定の若い上司侍がこっちを睨みつけている。正面を見ている舞湖に横から殺気のようなのが飛んできて気づいた。なんで殺気がわかるのだろう。これが私にも見える、とか言うやつなのだろうか。だが奉行はそれを当然だと思ったのか普通に話を続けた。


「そうか。実は昨日まで奉行だった水野勝信殿が大江戸の水対策の進みが悪いという事でお役目から外されたのだ。其方も水野だが、縁者ではないのか?」


「わかりません。ですが、違うと思います」


「わからない?そういえば記憶が曖昧と聞いたぞ。実は水野殿には昔世話になってな。今日から俺が代わりに水対策をせねばならんのだが、水野殿を使うわけにもいかん。上からのお達しで外された人だからな。そこでだ、おい、川久保殿」


 いつのまにか、昨日医療所であった川久保信春が偉そうな上司侍の上座に立っている。あの人どこから現れたの?


「はい、遠山様」


「お主は上様直轄の水奉行のような者。俺はお主を同格とみなしておるが、これもお役目。俺の下についてもらうがいいか?」


「某は昨日までは水野様の配下でした。奉行が変わったのなら当然の事。某が不甲斐なきために水野様にはご迷惑をおかけしてしまいました。そうならぬよう勤めます」


 それは皮肉に聞こえた。だが、お奉行様はそのまま受け取ったようだ。


「ならば良し。その方に水野舞湖を預ける。これにて一件落着」


 ?一件落着したの?これで?皆、キョトンとしている。何のお白洲だったのか、大勢集めて。


 後で聞いた話だと、昨晩舞湖が寝た後にお奉行様が妙高先生を訪ねてきていて、舞湖の身の上話を聞いたそうだ。新奉行になれと言われたのはいいが、前の奉行はいわゆる左遷だ。同じ失敗はしたくはないしどうしようかと思っていたところに天の助けなのか、舞湖が現れた。舞湖の事は中村の旦那から聞いたらしい。


「つまり出来レースだったってことか」


 舞湖は川久保信春の屋敷にいた。二代将軍徳川秀長が信頼を寄せている水博士が川久保だ。何でも小石川が途中で土の中に消えて平川に合流していると説明し、その水を城内へ川として運んだ功績は認められたそうだ。神田山から南へ向かって小さな川が流れている。その川の周りにある町の名前が小川町というらしい。なんかどこかで聞いたような地下鉄の駅名な気がするが位置的にあそこらなのかな?


「出来レースとはどういう意味ですか?舞湖殿」


 川久保はすっかり舞湖が気に入っている。聞いたことのない表現を使うのが面白く水の知識もあるという。昨夕水野奉行に呼び出され奉行が変わると聞かされた。今朝方、遠山銀次郎に呼び出され話を聞いた時は、成果が出せていないので解雇かと思った。実際はこの娘を助手にしろという。


「さっきのお白洲は結果を皆に認めさせるお芝居だったのですよね?そういうのを出来レースって言うのです」


 大江戸の水事情は相当ヤバイのではないか?奉行が左遷されるほどに。その後にやれと言われた遠山の銀さんは舞湖の話を聞いてすぐに動いたと言うわけだ。どこの馬の骨かもわからない舞湖を公に使うために考えた策なのだろう。舞湖は


「銀さんすげー、あったまいい!」


 とつい声に出してしまった。川久保はそれを聞いて、


「銀さん?お奉行のことですか?いい呼び方です。あの人は若いですが上様の縁戚で奉行に抜擢されたのですよ。ご本人はそれをあまりよく思っていないのです」


「銀さんとは親しいのですか?」


「奉行になる前は大江戸の民が水不足で困っているのを見かねて武蔵から自腹で水を運んだこともあるお人です。武蔵には大川の上流部があり、そちらでは入間川と呼ばれていますが、そこの水を汲んだと言っていました。大江戸の海に流れ込んでいる川ですが大江戸で水を汲むと海の水が混ざって飲めないのです。遠山様は水に対して理解のあるお方で、某の方が年上ですが尊敬できるお方です」


 そうなんだ。入間川って埼玉の川だよね?確か荒川に合流してたような。川の流れを変えるのってこの時代では大工事だろうに大変だったろうなあ。


 そんな他人事のように思っていられた時間はほんの僅かだった。



北町奉行所は現在は日本橋に跡地があります。ただ、奉行所の場所は転々としていたようで、南町奉行所が北町奉行所より北側に移動すると名前を北町奉行所に変えていたという記録があります。最後の場所が日本橋でそれ以前はどこにあったのか?この物語では勝手に場所も決めています。

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