第三十五話 シロに乗って
2ヶ月が過ぎ、要と言っていた堰が完成した。
「上出来です。まるで小さなダムです。これで水位も上げられるし完璧です」
舞湖は伊達家の田村と話しています。田村は仙台で河川工事の経験が豊富な技術者でした。舞湖の要求を聞いてそれを具現化できる凄い人です。あの日、なんとなくたたずんでいたお爺さんに話しかけてからこんなにとんとん拍子に事が進むなんて舞湖はツイテイルと思いました。何がツイテイルのかはさておき。
神田神社ももうすぐ出来上がりそうで、秀光は3日おきに監視所へ来るようになりました。定期的に来るので仕方なく伊達家の鈴木が相手をしています。中村の旦那が最初相手をしていたのですがそうすると舞湖の細かい用事をこなす人が居なくなってしまい、幸に任せようかと思ったのですが幸に頼んでいる事も多く仕方なく鈴木をあてがいました。鈴木はこれは名誉だと乗り気ですし、秀光はライバルを直視できるので大歓迎です。
この2ヶ月、舞湖は時間を作って馬に乗る稽古をしていました。この先どうしても移動距離が増えます。そうなると籠では遅いですしこの時代の移動手段といえば馬です。秀光に馬をくれと言ったら白馬をくれました。なんでも血統がいい馬だそうですが舞湖はそれよりも馬の見た目に惚れました。
「かっこいい。これで王子様が迎えにくれば完璧よ。オホホホホ、って乗るの私だけど」
馬の名はシロにしました。犬みたいだって秀光には笑われましたが競走馬みたいな名前よりはいいと思っています。ホワイトキングとかでも良かったのですが英語だし。私以外誰も意味わかんないからね、この時代だと。
舞湖はシロに乗って甲斐街道と名付けられた多分甲州街道なんだろうと思われる道を進みます。途中最初の宿場町として最近栄え始めた新宿を通りました。新たな宿場なので新宿だそうです。名前には意味があるとお父さんが言ってましたがなあるほどです。
「ここに貯水池ができるなんてね。その後に高層ビルですよ奥さん。信じられます?」
舞湖は独り言を言ってます。その後ここに淀橋貯水池ができて、それを埋め立てて高層ビル群が建つというのが舞湖が知っている歴史です。舞湖は新宿を越え中野に来ました。神田川は井の頭公園から出て中野の南側をクネクネと曲がり、あちこちの支流に別れて途中で水が細くなっていました。舞湖は近くの田んぼの用水を確保しつつ川の流路を変え水量を確保する工事を始めています。
「足りるかな?確かもう一個の川をこの辺りで合流させてたよね。何川だったかな?それも調べさせないとですね」
舞湖は毎日井の頭公園から川に沿って工事現場を確認しています。他の工事は田村、玉井、弥七に任せていて毎朝進捗を聞いてから馬に乗って移動しているのです。舞湖には供として幸、護衛として伊達家の武士が付いてきています。今日は何故か伊達家の家老、片倉が護衛にきました。
「片倉様、ご家老様に護衛していただけるのは嬉しいのですがいいのですか?」
「はい。大殿が行ってこいと言うので。本当はご自身で来たがっていたのですが舞湖殿のご迷惑になるので、某が断りました」
ははは、グッジョブ!伊達宗政が一緒じゃ息が詰まります。でも気にして貰えてるのは嬉しいです。
「大殿は護衛というより工事の進捗を確認したかったのではないですか?」
「さすがは舞湖殿。その通りです。伊達家としてもこれだけの人を割いております。簡単な工事ではないのはわかってはおりますし、家臣の士気も高いのでいいのですがやはり成果が大事ですので」
そうでしょうね。ならば手の内をお見せしましょう。
「片倉様。明日、大殿を連れて江戸川橋までお越しいただけますか?構想をお話しいたします」
「構想ですか?川を作って………、例の川の上を川が渡るというアレですか?」
舞湖は片倉が帰った後、支流だったところの水門を全て閉めさせた。これで水は下流まで流れるはずだ。かなりの水が支流に溢れていたのです。徐々に川の水が増えていくのを確認した後、シロに乗って江戸川橋まで戻って行きました。
「玉井殿、明日伊達宗政公がここに来ます。お出迎えの用意をお願いします」
「舞湖様、そんな急に言われましても。ここの工事で………」
「いいから。出資者に説明しないと。あれだけの人とお金を使ってるのよ、私達は」
玉井は怒られてまた嬉しそうです。わざとやってんじゃないの、こいつ、と最近思い始めましたがそれはそれで気持ち悪いので考えないようにしています。すると弥七が舞湖が現れたのを見て寄ってきました。玉井を見てまたかこいつ、という目で見てから
「舞湖様。例の穴ですが石が足りません。若様にお願いして貰えませんか?」
若様とは徳川家光です。あまりにも現れるので弥七も対応に慣れてしまいました。
「弥七さん。わかりました。確か今日来てますよね。この後神社へ行ってみます。それとこれから水が増えてくるので気をつけてください。明日は伊達宗政公も来ますので」
「てえことはいよいよ明日ですかい。楽しみですね」
「そうね。じゃあちょっと神社まで行って来るので後はお願いします」
神社はほぼ完成していた。明後日に神主が神様を移すという。舞湖は首塚に祈祷してから事にかかるように念押しした。将門様が怒らないようにしないと。秀光は舞湖の世界での平将門の所業がこの世界と同じ事に興味を持っている。舞湖は将門について上っ面の知識しかなかったがそれで十分だった。大江戸の守り神に間違いないのだ。だからこそ首塚の移動をやめた。あの場所に首塚がある事に意味があるのだろう。何でかはわからないけど。もっと芽衣ちゃんに聞いとくんだった。
「でね、若様。石が全然足りないんだけど」
「わかった。伊豆だけでなく甲斐の国にも手配しよう。例のトンネルとかいうのに使うのか?」
「そうです。暗渠と言います」
「どういう意味だ?」
「何ていうのかな?地面の下を川が流れるというか」
「この間は川の上を川が流れると言っていたよな。地面の下を流れて川の上を渡るのか。忙しい川だな」
舞湖はコケた。そうとも言えるけど何だかなあ。若様にも明日江戸川橋まで来るように言った。まだ橋は無いんだけどね。いずれ橋を掛けないとなんかおかしくなっちゃう。




