第三話 ここは大江戸
舞湖達は湯島台にある番屋に着いた。なんか見た事があるようなないような、入り口の障子に丸に番と書いてある。神田山に湯島台。なんか本で読んだぞ!地名を知っているというのはなんか安心感が出てくる。きっとここは文京区なんだ!イケメンの弥七は番所の中に入ると中にいた中年の男性に向かって話しかけた。
「親分、やっぱりいてくれましたね。この娘さんは水野舞湖様と仰いまして記憶が曖昧だそうで、大江戸が初めてで困っておられましたので番屋にお連れした次第です」
話は長いが要点はまとまっている。二枚目で頭も回るとはただの町人とは思えない。弥七、只者ではないな、などと舞湖は勝手に上から目線で考えていた。だって、どう見ても江戸時代。私の知識があれば、あれ?何で馴染んでんの?あんた、こんな事になって大変なのよ。江戸時代にタイムスリップなんて戦国自衛○だっけ、最悪じゃん。戦うのは無理よ、私。と、すっかり戦うと思い込んでいる。
「親分さん。水野舞湖と申します。ご厄介をかけて申し訳ありません」
ここは下手に出ないと。なんせ今の私はスーパーhelp me状態なのだから。親分はなんと風車の格さんというそうで、舞湖は吹き出しそうになるのを必死に我慢した。help meだよ、ホント。なんでそんな名前なのよ。でも風車の格さんは物凄く親身になってくれた。多分名親分だよ、この人。
「記憶がないとは可哀想に。何か思い出すかもしれないから大江戸の事を教えてやろう。ここは関白豊臣秀丸様が治めておられる」
「ほ、ほえー!」
「どうされた?」
「すいません。記憶があやふやで、豊臣様は大阪だったような?」
舞湖のレベルでもそのくらいはわかる。
「水野様の記憶は確かにおかしくなっておられるようだ。頭でも打ったのかもしれません。あとで小石川の医療所へご案内しますがしばらくはここで休んで下せい。大阪は………、おいらも話に聞いただけだが今から200年ほど前に京の街は陰陽師、阿部広太郎の所為で壊滅したのです。時の関白、近衛基実様が帝を大阪へ逃し船で江戸へ来られたのだと聞いております。大阪は今でも魑魅魍魎の棲家となっています。帝は大阪を去る際に三種の神器を使って結界を張られ魑魅魍魎の類はそこに閉じ込められたので出る事ができなくなったそうです。その後三種の神器を使われて力を失った帝を各地の豪族が支配しようとしたのです」
そ、そんな事が。なんか漫画でそんな話があったような、無かったような。
「その時の幕府は手利幕府だったのですが、壊滅してしまいました。江戸に逃れた帝を支えながら全国を収めたのが関白になられた豊臣秀鷹様なのです。秀鷹様がお亡くなりになってから秀丸様がこの国を治めておられるのです」
話が突拍子過ぎてついていけない。タイムスリップだと思っていたが少し違うみたいだ。タイムスリップandパラレルワールド?舞湖は図書館通いで水の調べ物だけをしていたわけではない。SFも結構読んでいたのです。なんか陰陽師と妖怪と国盗り物語が混ざってる。足利じゃなくて手利というのもなんだかなあという感じです。
舞湖はこの際だからと色々聞きまくった。あの城は大江戸城と言ってその周囲には大名屋敷があるそうだ。舞湖は本で読んだ知識と現状を組み合わせて理解を深めていく。大江戸城の中に帝が住んでいる建屋もあるらしい。皇居ってことね。
舞湖は自分の勉強した知識とこの世界をくっつけて考え始めた。時代的にどのくらいかといえばまだ神田川がない。その割に人口は多そうだ。そういえばさっき川があったけどあれは違うよね?ええと、だとするとあの川は………。思い出しそうで思い出せない。とりあえずこれを聞こう。
「それだと大江戸の水源はどうなっているのでしょうか?かなりの人が住んでいて飲み水が足りなくなってはいませんか?」
格さんはおやっと思った。舞湖の質問が今ちょうど困っている事だったからだ。
「そうなのです。帝が大江戸に来た頃は相模、武蔵から桶に入れて水を運んできたりしたそうです。平川が近くにあるのですが海が近く塩っけが多くて飲めなくて」
どっかで聞いたような話です。そうか、あれが平川。確か小川町を通って日比谷の入江に注いでるやつだ。舞湖は興奮してきた。そうか、小さな川だから小川町なんだ!名前には意味があるってお父さんが言ってたし。
「今はどうしているのですか?」
「へえ、神田山の井戸から取った水を運んだり、小石川に池があってそこから城の中へ運んでおります。この辺りの井戸はまだ飲めるのですが城の方へいくと井戸の水も海の水が混ざっていて飲めません。それで今、徳川様が水源の確保を命じられたそうで。なんせ雨が少ないと水も足らなくなって冬なんかはもう大変なのです」
水不足より気になる徳川が出てきた。この世界では豊臣の配下なんだ。舞湖は大河ドラマでの知識しかないけど徳川幕府くらいはわかる。
「徳川様ですか?」
「豊臣関白の下で幕府を開いたのが徳川様で、おいら達岡っ引きも徳川様配下って事になりやす。だが、国を仕切っているのは関白様。まあ俺ら下っ端には関係ないですがね。おいらは街のみんなが幸せに暮らせれば誰が関白でも関係ねえんで」
そこんとこ詳しく、と言うと風車の格さんは岡っ引きの上には同心がいて、世の上に寄木、その上が奉行、その上が目付というそうだ。寄木までは話す機会があるらしい。
「それで徳川様が関白様から大江戸の民の飲み水を永久的に確保するように命令されまして、今、おいら達も案を出すように言われて困っているのです」
舞湖の目が輝いた。そして勢いで言ってしまう。
「わかりました。私にお任せください」
夢なのかな?自分でやれるなんて信じられない。だが、舞湖は本の知識があれば何とかなると甘く考えていて、つい自分がやると言ってしまった。いつの時代も、たとえそれがパラレルワールドでも世の中そんなに甘くない!




