第二十三話 上様
この世界にも平将門はいたのだろうか?わからないけど、あれは動かしてはいけないのよね。舞湖は図書館通いをしている時にお友達の芽衣ちゃんから、
「将門塚って知ってる?」
と聞かれてシナラーイと答えたらオカルト好きの芽衣ちゃんにたっぷり話を聞かされていたのです。動かすと呪われるそうで平成の時代の大都会となった大手町に何故か残っている将門塚、この大江戸にもそれがありました。
「こういう時なんて言うといいんだっけ?えんがちょだっけ?とりあえず言っとこう。えんがちょ!」
舞湖は人差し指の上に中指を乗せるようにして呟いた。えんがちょポーズの効果があったのかどうか、そのまま何事もなく籠は大手門を潜っていく。中には庭があり幾つかの建物もあった。煌びやかな御殿が遠くに見える。あれが皇居なのかな?しばらく進むとお城の入り口だった。舞湖はそこで籠から降ろされた。
籠を降りると何故か遠山の銀さんが立っていた。
「舞湖殿。よう参られた。忙しいのにすまない」
銀さんは平謝りだった。舞湖はここにくるまではイライラしていたのだが、銀さんの態度を見てそれが消えた。この人、わかってる〜!ていう感じだ。
「お奉行様、どうしてここに?」
「話すと長くなるのだが、簡単に言うとだ。人足が足りないのをなんとかしようとお主の案を上様にご報告したところ大層興味を持たれてな。そこに伊達宗政様まで現れたものだから大騒ぎになってしまった。伊達様と会わなかったか?」
こいつが犯人か。でも工事の事を思ってだからいいっか。
「はい。昨日、神田山の工事現場を見にこられました。お屋敷までお伺いしたのですが、ご当主様がよく思わなかったのかあまり進展はありませんでした」
「そうか。上様から話が行けば嫌とも言えないだろうがな。宗政様は乗り気だったろう?」
舞湖は頷いたあと、城の玄関を見た。神社の入り口みたいなところの向こうに階段が見える。そうか、エレベーターなんてないもんな。これを歩いて登るのか、はあ。階段を登って2階に着いたが上に行く階段がない。あれれ、と2階の反対側まで行くと階段が現れた。で、3階に行くとまた階段がない。
おかしい。デパートとかだとすぐ上に行けるよね。なんで?
「遠山様。どうしてこんなに回り道というかぐるぐる回らないと行けないのですか?」
「舞湖殿は城は初めてか?敵が簡単に攻めてこられないようにだ。上様は上の方にお住まいだからな」
そうなんだ。わざとやってるんだ。平成は平和だから便利さだけを考えればいいけどここではそうではないんだ。舞湖は戦争を知らない。この大江戸にも戦はないみたいなのにこんなに不便にしないといけないなんて、ヤダヤダ。お父さんが効率が大事だって言ってたのにこの時代ときたら。
階段を五回登るとそこは広間だった。銀さんは広間の奥の襖を開けてここで待てと言う。そこにはまた部屋があって奥の中央に偉い人が座りそうな場所がある。時代劇で見たことあるな、あそこに上様がきっと座るんだ。て事は私は離れたところに座ればいいのかしら?銀さんに聞こうと思ったらもういない。川久保殿に付いてきて貰えば良かったと思っても後の祭りです。皆には指示を出して調査に行ってもらってます。身体は一つしかないのは当たり前ですが三つか四つ欲しい状況です。
「そうなのよ、やっぱ手が足りない」
舞湖が独り言を言うと、
「そうなのか?伊達に頼んだが不足か?」
「あのお爺さんが息子さんに上手く話せたのかがわからないのです。ってどなた様?」
そこには三つ葉の紋の着物を着た若者がいました。なんか威厳というかオーラが見えます。白いオーラです。後光ではなくオーラです。お父さんに見せられたアニメに出てくるオーラです。
「余の名は徳川秀光と言う。其方が舞湖か?」
余、偉そうな奴。上様は中年と聞いていたから上様ではない。ならこいつは誰だ?」
「水野舞湖です。同い年くらいだね、秀光君」
「秀光君?ハハハハ、本当に面白い女だ。遠山はどこだ?」
遠山って、ああ銀さんか。呼び捨て?もしかしてもしかしたら偉いのこの若造。
「お奉行様でしたらここで待っていろと言ってどこかへ行きました」
「そうか。父上を呼びに行ったのであろう。まあ座るが良い」
秀光は上様が座るであろうところの横にあぐらをかいて座った。舞湖は少し離れて正座だ。父上って言ってたね。ふーん。ちょっとだけ冷や汗が出てきた。多分まずい態度をとったよね、私。
「で、お前が水不足をなんとかしてくれるそうだな。父上の話を聞いて会ってみたいと思って呼びつけたのだ。一目どんな女か見たかった」
なんだと、こいつが邪魔した張本人なのかい。だったらもう一目見たから帰ってもいいよね。そう思っていたら遠山が戻ってきて舞湖の横に座った。場の空気が変わるのがわかる。何かが来たと思ったら三つ葉の紋の煌びやかな着物、正装なのだろうか、を着たおっさんが現れ用意してあった上座に座った。舞湖は前のお白洲の時のように頭を下げる。確かこうしないといけないはず。
「徳川秀長である。面を上げい」
将門塚は言うまでもありませんね。世の中には不思議な事があるのです。




