第二十二話 呼び出し
舞湖達は湯島の監視所へ戻りました。あの後、真田村幸の娘、梅さんが出てきて川久保信春は号泣してしまい、座り込んでしまったのです。肝心の殿様は出てこないし舞湖はすることがなくなってしまった。この忙しいのに、仕方がないと泣いている川久保を置いて戻ってきたのだ。なんでも真田村幸というのは徳川家と関白様に逆らった謀反人だそうで、その娘が生きていて幸せに暮らしている事に感動したらしい。
「川久保様は武田家が滅んだ後、徳川様の配下となったのです。生き残るために仕方なく。ですが真田村幸は最後まで戦って大権現様を追い詰めた。同じ武田家の家臣として思うところがあるのでしょう」
ふーん、舞湖はピンとこなかった。現代の女子中学生には理解できなかったのだ。ただあの感動して泣いている川久保には驚いた。
舞湖は戻って一息ついた後、小石川の溜池工事現場に向かった。
「中村様、進捗はいかがですか?」
「明後日には完了できます」
「わかりました。では一日休んでその次から江戸川橋の方へ行ってください。玉井殿、図面を」
舞湖は次の工事内容を中村に説明した。それが終わると江戸川橋まで行って間違いがないか最終確認をした。その後また神田山を神田川にする工事現場に戻った。ここはまだ終わりそうもない。
「このペースじゃ何年かかるかわからない。まずい、女子高生になっちゃう」
「そうですね」
玉井は舞湖の言っている意味がわからないがなんとなくそうですね、と答えている。
「意味わかってます?」
「いえ、ただ水野様は独り言を言いながら頭の回転を上げていくようにお見受けしたので相槌を打った方がいいかと。ご迷惑であればやめます」
「そうね。でもわからない時は聞き流してください。で、この後は、ってもう夕方かあ。時間が足りない。明日は井の頭公園まで行くわよ」
「あの地図にあった水源ですか。かなり遠いので馬が入りますね」
はい?
「馬ですと!玉井殿は馬に乗れるの?」
「はい。一応武家の子なので幼少の頃から馬には乗っていました。ただ、この大江戸市中では馬は迷惑なので内藤新宿まで行かないと馬には乗れません」
なんだ、馬があるんじゃん。電車よりは遅いかな、って私も馬にのるの?
翌朝、川久保の屋敷で目覚め、幸が用意した朝餉を楽しみ玉井が来るのを待っていると、使者が現れた。
「舞湖。大変だ。上様からお呼び出しが来た」
川久保信春が慌てている。
「川久保様。私は忙しいのです。伊達様の支援が来たらすぐに人を分けてあっちもこっちも工事にかからないと。その図面も作らなきゃだし。上様には川久保様だけで」
「お前、上様がどれだけ偉いかわかってるのか?舞湖に会いたいと言っているのだぞ」
「川久保様は私に水不足を対策させたいのですか?色々と邪魔なんですよ、もう本当にうまくいかない」
舞湖は焦っていた。水博士と言われてはいたが、ただ詳しいだけで誰かの役に立っていたわけではない。それが今、多くの人のためになる事をやろうとしている。私の水を待っている人がいるんだ。舞湖は小石川の水源地に行ってから少し性格が変わったようだ。楽しい事が好きなのんびり中学生が前向きで使命感に溢れているようになっている。
「それはそうだが、玉井にやらせれば良かろう。舞湖は指示をして報告を受け………」
舞湖は話を最後まで聞かずに話し始める。
「自分の目で見ないとわからない事が多くて。傾斜とか傾斜とか傾斜とか。あと一カ月で終わらせたいのです。神田川を」
「わかった。片倉様も今日人を寄越すと言っていた。玉井に伊達家の人を付けて調査をさせると良い。ところで舞湖は馬に乗れるのか?」
そうでした。都会育ちの女子中学生は馬には乗れません。馬の世話も出来ません。お馬は友達とこっちは思っても向こうは思ってはくれないでしょう。つまり焦っても井の頭公園には行けないのです。なんか悔しいぞ!
結局馬に乗れない舞湖は皆に目的を説明して調査に行かせました。玉井にはしつこいくらいに念を押して指示をしました。そして自分はかっこいい豪華な籠に乗せられて大江戸城の中に向かう事になりました。
「なんでこんな事に。そもそもこの世界に来てからこんな事ばっかり。私に何をさせたいんだ神様は。あれ?上様ってかみ様とも読むよね。て、そんな事はどうでもいいのですよ奥さん」
舞湖は籠の中で独り言を叫んでいる。籠を担いでいる人足と護衛の役人は聞こえないふりだ。上様の客人にうるさいともいえず聞き流している。舞湖はそういえばどこを通ってお城に入るのか急に興味を持った。そうそう中に入れる物でもないだろうし。
「ササッ!」
籠の窓のところを開けると目の位置に隙間ができた。
「見える。私にも見えるぞ!」
役人は聞き流している。舞湖が怒っているのか喜んでいるのかが独り言からはわからない。こんな変な娘を護衛する役人も大変である。籠は内堀に沿って進んでいた。どこから入るのだろう。堀には橋がかかっていないと思っていたら遠くの方に橋が見えてきた。
「ここはどこ?ええと、方向だと東側に向かってる感じ?」
籠はエッホエッホという掛け声が聞こえるのかと思ったら違った。時代劇と違うじゃん。ゆっくり壊れ物を運んでいるかのように進んでいく。そしてある物が舞湖の目に止まった。
「えっと、あれは確か大手町にあるやつよね。ここから入るのかな?大手門だっけ?」
舞湖が見つけたのは将門塚だった。




