第十九話 独眼竜
なんか聞いた事ある名前けど少し違う。舞湖はこの時代については大河ドラマと時代劇くらいの知識しかありませんが、流石に知ってます。違うのもわかり、ここが似て非なる世界なのは間違いありません。舞湖はそれでも嬉しくなりました。
「伊達様ですか?あの有名な?」
「ほっほっほ。有名なのかね。今の大江戸ではわしより娘さんの方が有名な気がするがの。水野舞湖殿じゃな?」
あら、私の名前を知ってるみたい。誰よ、言いふらしてるの?
「はい、水野舞湖です。ええと、独眼竜さんですよね?」
伊達宗政は杖を刀のように構えた。そして殺陣の真似を始める。3度空気を斬った後で舞湖を睨んだ。
「わしのその名はごく一部の者しか知らぬはず。噂通りのようじゃな」
そこまで言って笑顔になる。そして、
「あ、イタタタ」
腰に手をやって喚き始めた。舞湖はただのお爺さんではないですか、と思いながらも咄嗟に手を伸ばす。
「お爺さん。大丈夫ですか?無理はいけませんよ」
と、ただの女子中学生のように優しく身体を支えながら心配している。まあただの女子中学生なんですけどね。
「どこで聞いた?」
「はい?」
「わしの呼び名だ。独眼竜」
あっ、しまったと思った。舞湖は困った。どこまで話していいのやら。というより、この伊達さん私の事を知っているみたいだったけど、なんで?
「そうですね。見た目がそんな感じで。それより私の事をご存知のようでしたが初対面ですよね?」
「そうじゃ。上様が面白い娘がいるというので見に来た。わしは隠居の身で毎日暇なんじゃよ」
独眼竜については見た目で誤魔化せたのかしら?上様って上様のおなーりーってやつ?で、上様って誰なんでしょう?舞湖はわからない事は素直に聞く女子です。聞いちゃいます。
「お爺さん、上様というのはどこのどなた様ですか?」
「おうそうか。あそこのお城のてっぺんの方にいる偉い方じゃ。徳川秀長様のことじゃよ。実はわしはもう少しで天下を取れるところじゃったのだが運がなくてな。天に愛されていない爺いなのじゃよ」
なんでしょう、それは。天に愛されそうな愛嬌のあるお爺さんにしか見えませんけどと舞湖は思った。
「でもすごく優しいいいお爺さんに見えますよ。天下なんか取らなくても今が幸せならいいじゃないですか?お爺さんの笑顔、素敵ですよ」
それを聞いた宗政は笑顔になる。顔はしわくちゃだけど笑顔は笑顔だ。
「おうそうかそうか。知識だけでなく世辞も言えるのじゃな。大した者だ。気に入った。そのスコップとやらはどういうものだ。うちで作ってやろう」
「えっ、いいのですか?」
スコップゲットー。でもこのお爺さん、耳がすごくいい。只者ではないね。そこに川久保と玉井が一緒にやってきた。
「舞湖が誰かと一緒にいるな。あ、あれは!」
伊達宗政の顔を見て慌ててこちらに走り出してくる。そして2人とも跪いた。
「伊達様。どういったご用件で」
川久保の声が震えている。やっぱり本物の独眼竜みたい。時代劇だと怖い人だと思ってたけどいいお爺ちゃんじゃんね。
「おう、貴様か。水野殿を閉職においやりおって。貴様がのんびりしておるからだぞ、わかっておるのか!」
いきなり怒鳴りつける。川久保は下を向いて震えている。その通りなので何も言えないのだ。舞湖は前言てっかーい、怖い爺さんだったと思った。横の玉井も震えている。これはどうしましょう。助けた方がいいのかしら?そう思っていると独眼竜は、
「まあ仕方あるまい。難題であるからな。で、この水野舞湖殿がこの工事を始めたと聞くが誠か?」
独眼竜の口調が優しく変わる。第三者視点で見てるせいかわざと怒ったふりをしているように思えた。怒られてる川久保はマジでホッとした顔をしてるけど。そして川久保が答えた。
「左様でございます。この舞湖はそれがしが出来ないと決めつけていた事を奇抜な発想で出来るように、いえ、正確にはまだ出来ていないのですが出来るような気がしてくる発想を出してくるのです」
独眼竜は、今度は舞湖を見て聞いた。
「ここに川を作る。他所から水を持ってくる。それはわしでも思い付くがどうやるかを具体的にする事は難儀な事だ。それを数日で考えたと聞いた。それも誠か?」
「はい。誠です」
「ふむ、その知識はどこからきている?妖ではないのか?」
独眼竜が舞湖を見て言ったが舞湖は
「すいません。妖ってなんですか?」
コテッ、独眼竜がこけた。
「あ、いててえええええええ。こ、腰が」
それを見た玉井が慌てて監督所から担架を持ってきた。この担架も舞湖が考えて玉井に作らせた物だ。舞湖の育った御茶ノ水界隈には病院が多い。救急車は年中通るし担架に乗せられて運ばれる人を見ることもあった。その知識が大江戸で活かされていた舞湖の工事現場では怪我人が出た。ここに集められた工事人夫は結局金目当ての者が多かった。それ故に
「ちょっとの怪我なんて気にしねーぜ!」
という連中が多いので腰を痛めたり腕や足の怪我が絶えない。それを見た舞湖が作らせたその担架に伊達宗政が乗せられ、監督所に作られた簡易医務室へ運ばれていった。
「備えあれば、なんだっけ?まあ役に立ったので良きですね」
余談だが、あまりに怪我が多いので舞湖は記憶から安全第一という標語を思い出した。安全第一という文字が書かれた旗を作り、現場に立てるようにした。そして朝礼を導入して管理者に毎朝、安全第一と叫ぶように指示をした。そうしたら怪我が著しく減り、舞湖は大満足だった。それが日本中に広まり、後世この国の発展に貢献することになるのだが、それは今の舞湖は知る由もなかった。




