第十五話 白蛇伝説
幸は水面を見つめて動かない舞湖が心配になりました。
「舞湖様、どうかなされましたか?」
「…………」
舞湖は反応しません。幸は顔を覗き込むようにして、
「舞湖様?」
「うっわー、驚いた。さっちゃんかあ。あれ、私何してたっけ?」
「池を見ておられたのですが、そのまま動かなくなっておりました。何か考え事でもされてたのでしょうか?」
舞湖はそういえば少しの間の記憶がない気がした。そうだ、将来粟島神社になるであろうところに来て池を見ていた。そして、……………、なんだっけ?思い出せない。
「ごめーん、ぼーっとしちゃったみたい。随分と歩いたからね。疲れたのかな?」
そう言って周囲を見ると太田は地図を書くのに必死になっている。護衛兼力仕事担当の2人は歩き疲れたのか、祠のところで村長の太助と話し込んでいる。舞湖は太田の邪魔をしないように太助達の話に割り込んだ。
「というように、この奥の池には白蛇様が住んでおられ豊穣の神としてこの付近の村人は皆、お供え物を欠かさないのです」
太助は面白い事を話していた。伝説か何かかな?
「太助殿」
「おや、水野様。水野様が見ていた奥の池の事を今、お供のお方に話をしておったのです」
「白蛇様と聞こえましたが、何か言い伝えでもあるのでしょうか」
勘のいいお方だ、何者なのだろう?普通の娘に見えるがお供まで連れて。
「古い話でございます。奥の池には白蛇様が住んでおられると言われております。雨が降らずに困った時は奥の池の水を汲み周囲へ巻くと雨が降るようになるのです」
「またまた〜。やってみた事があるのですか?」
舞湖は現代っ子です。そう言うのは眉唾というのだと教わっています。ところが太助さんは自信満々です。
「はい。3年ほど前、雨が降らず野畑が枯れる被害が上の方にある村で起きました。私の村はこの川のおかげでなんとかなりましたが上の村は雨だけが頼りなので。その時に奥の池の水を蒔いて雨乞いの祭事を開いたところ、3日後に雨が降り、田を潤したのでございます。それ以来、雨が降らない時には同じようにしているのですが、お供えをしていなかったためか、雨が降らず」
それ、偶然じゃね?それ以降、お供えをするようになり、それからは水不足には苦しまなくなったそうだ。怪しいけど信じてるみたいだし、そのままにしておいていいよね。否定するのもねえ。でもなんで白蛇なんだろう?
その時、池の底深くではさっき目が合った何かが舞湖を見ていた。それは確かに舞湖と目が合った。でも舞湖はそれを覚えていない。
舞湖達は太助にお礼を言って小石川へひきあげた。帰りは川に沿うことはなく直線コースを選んだがそれは山あり谷ありのコースだった。舞湖は歩いている途中である事を思い出した。
「ねえ、幸。聞き込みをお願いします
「聞き込み?でしょうか。何をすればよろしいですか?」
聞き込みが通じなかった。聞き込みって刑事用語なのかな?
「ええと、この先に川がないかが知りたいの。川みたいのでもいいから」
みたいってどういう意味なのでしょうか?幸は不思議に思いながら護衛の1人を連れて聞き込みに出かけた。舞湖の記憶が正しければきっと。
それから小石川の医療所に戻った。妙高先生に挨拶をして、川久保の屋敷に引っ越した。お役目を果たすにはその方がいい。そもそもなんでただの女子中学生がお役目を果たさなければいけないのか、という疑問はどっかへいってしまっている。転移?だとしても人は食べて寝ることが最も重要でその目先の事を維持するには働くしかないのです。荷物も何もないので身体一つの引っ越しです。幸がおまけで付いてきました。幸は川久保の屋敷に住み込みで働くようです。護衛の2人には明日また来るように言い、太田さんには3日で絵を仕上げるようお願いしました。これから大忙しですが、どの順番に手をつけるか、それが問題です。なんて考えていたらそのまま爆睡です。あれだけ歩いたのだからへばっていたのでしょう。色々と興奮する出来事があってアドレナリンが出ていたようで気を抜いたらバタンキューでした。
翌朝、起きると風車の格さんがきていました。舞湖は体力全回復状態です。格さんにおはようございますと挨拶してから、
「昨日慌てて帰られましたが、その後何かありましたか?」
「へい。昨日の川が2つに分かれるというのが大川の氾濫防止に使えると思いやしてお奉行に申し出たんでさあ。そしたら」
「そしたら?」
「それはいい思いつきだと褒めていただきやした。なんでもそれを担当する連中を作るとか。あっしはそっちはいいから舞湖様を手伝うようにと命令されて戻ってきました」
「そうですか。あっそうそう、幸には助かっています。で、………」
幸が褒められたのが嬉しいようで、格さんの顔に嬉しいと書いてあるように見えます。親バカというのはいつの時代も変わらんのね。
「一カ月じゃない30日後に工事を始めます。人を10人単位で20組集めてください。それと指揮する人も」
そして川久保と打ち合わせを始める舞湖でした。
白蛇伝説は豊島風土記に書かれている粟島神社に関するところからの創作です。




