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第10話 俺たちの戦いはこれからだ!!

「かんぱーい!!」


 地元の居酒屋でセイレーンの面々は打ち上げを行った。メテオシャワーフェスの労をねぎらうためだ。参加したグループとは札幌の居酒屋などで行ったが、セイレーンの面々でやることにしたのである。

 

 店の名前はエコモマイといい、若い夫婦が経営している。元は年寄り夫婦が経営していたが、閉店することになった。それをセイレーンが買い取り、美咲のファンが経営することになったのである。

 店主は東京に夢を見て旅だったが、夢に破れ地元に帰ってきた。女房も同じ境遇で美咲たちが後押ししたのである。


 店のメニューはなぜかハワイ料理で、ハンバーグと目玉焼きをライスに乗せたロコモコや、マグロを使ったポケという料理などが並んでいる。他にも色々なメニューがあるが、日本向けに味付けしてある。

 店もハワイを意識した装飾品が並んでおり、店主もアロハシャツを着ていた。元は和食専門だったが、美咲からハワイに行けと言われて行ったのだ。そこで影響を受けたのである。店名のエコモマイはハワイの言葉でいらっしゃいを意味する。

 たまに女房がウクレレを演奏したりするが、今日はなしだ。


 今日はセイレーンの面々で貸し切りにしていた。


「いやー、無事終わってよかったですよ」


 岩佐康いわさ やすしがハイボールの入ったグラスを掲げる。反社会団体に暴行を受けた康だが、検査の結果問題なしとされた。だが右側にいる秋本美咲あきもと みさきは左肘で康を突っつく。


「何が無事で終わったよ。あんたが入院したとき、私がどれほど心配したか、理解してないでしょ? ねぇゆうさん?」


「そうね。康ちゃんは普段はヘタレでヘロヘロだけど、美咲ちゃんが関わると勇気100倍になるからねぇ。女の子なら速攻で落とされるわね。私も落ちかけたわ」


 オネェの日髙雄二ひだか ゆうじがいたずらっぽく笑った。すると美咲は烈火のごとく怒りだした。


「康あんたねぇ!! ゆうさんを誘惑するんじゃないわよ!!」


「はっはっは、美咲は相変わらずやきもち焼きだな。私はいいのかな?」


 オナベの緒方真世おがた まよが答えた。リーゼントに黒メガネ、髭を生やした宝塚ジェンヌに見える。しかし美咲は首を横に振った。


「真世さんはちょっと違う気がするんですよ。心が男なのは理解できるけど、康の好みとは違うみたいな」


「ほう、では俺と明宏はどうなのかな?」


 ゴスロリマッチョの石原克己いしはら かつみが隣にいる関羽ひげを生やした丸い男、田亀明宏たがめ あきひろの肩に腕を回した。二人はゲイカップルである。一応偽装結婚しており子供もいる。


「二人はお似合いのカップルだからね。康が二人を寝取らないか心配です」


「寝取らないよ!! なんで俺が二人に懸想していると思っているんだよ!!」


 康は激怒するが、美咲はつんとした態度だ。


「ふーんだ。あんたの好みを私はよーく知ってますよーだ。こんなにかわいい美咲ちゃんに対して、一本も指を触れないのはどういうわけよ。ひとつ屋根の下で暮らして数か月たっているのに、全然手を出さないじゃない」


 美咲はハムスターのように頬を膨らませた。それを聞いた克己たちは驚いていた。


「お前ら、まったくやっていないのか? てっきり地方の動物園でやってから、猿みたいにやりまくっていたと思っていたが」


「それは本当のことですのよ」「家の中はそんな匂いひとつもないんですもの」


 赤いメイドの富沢利奈とみざわ りな久川寿子ひさかわ ひさこが答えた。二人は動画の撮影と録音を担当しているが、家事も担当している。


「へっ、へへーんだ。もう私はいたしたもんねー! もう康は私から離れられないし、焦る必要はないんだもんねー!!」


 美咲は余裕ぶっているが、目が泳いでいる。セイレーンの面々は知っていた、彼女はヘタレであると。康は仕事は優秀だがこちらもヘタレだ。つまりヘタレのカップルがこれ以上進展する可能性が低いのである。


「……やれやれ、彼の入籍を決めたのは正解だったな」


 克己がつぶやくと、店に誰かが入ってきた。しかし店主は何も言わない。予め入店することを知らされていたようである。

 入ってきたのは小柄な女性であった。金髪で日焼けしており、メイクも濃い。白いシャツにへそ出ししており、短パンは見せパンのひもがはみ出ていた。ピンクのサンダルを履いている。

 手にはブランド物のハンドバッグを掲げていた。


 しかしよく見ると彼女は胸がない。まったいらだ。実は彼は男である。男の娘なのだ。


「あっ、おにぃみーっつけ!!」


 その人物は康に抱き着いた。まるで恋人のように体を密着させていた。それを見た美咲は真っ赤になる。


「なっ、あゆむどうしてここに!!」


「そうよあんたなんでここに来たのよ!!」


 康と美咲は彼を知っていた。岩佐歩いわさ あゆむそれが彼の名前である。


「あーしは今日からセイレーンの一員になったもんねー。しくよろ~」


 歩は右手でVサインを作ると、右目をつむり、舌を出してポーズを決める。見た目は黒ギャルにしか見えないが、中身が男とは思えない。


「はあ!? そんな話聞いてないし!! それにあんたはムジナックス所属でしょうが!!」


「いいや、彼はもうやめたよ。俺が採用したんだ」


 美咲が憤っていると、克己が声をかけた。それは青天の霹靂であった。


「なんで私に許可なく採用しているのよ!! というかよく事務所が認めたわね!! あんたは一番の稼ぎ頭だったでしょうが!!」


「まーそうだよねぇ。ムジナックスでなかったら認めてくれなかったのは事実だしぃ。たぬきっちゃんもあーしの意志は尊重してくれたしねー」


 たぬきっちゃんとは木常狸吉きつね たぬきちのことだ。彼は芸能事務所ムジナックスの副社長を務めている。表の業務は妻が支えてくれたのだ。

 ちなみにムジナックスはVチューバを手掛けている。歩は人気ナンバーワンのVチューバ、玄姫くろひめやすもであった。


「あーしはおにぃと離れるのが我慢ならなくなりましたー! これからは恋に生きることにしたわけよ。もちろん今までの機材やモデリングはあーしが引き取ることになったんで、よろぴくね~」


 歩が明宏にウインクした。明宏は見た目は筋肉質で胸毛が濃い体育会系だが、ウェブデザインや動画の投稿などは彼が行っている。


「おう、任せておけ。事務所には撮影用の部屋もあるから安心していいぞ」


「明宏さんが受け入れているということは、他の面々も知っているということですね?」


 明宏の態度に疑問を抱く康。全員肯いた。康と美咲以外誰も知らされていなかったのだ。


「これは康ちゃんと美咲ちゃんのためなのよ。だって二人きりだと絶対手を出さないでしょう? そこに歩ちゃんが加われば二人は危機感を抱くわけよ。もちろん歩ちゃんの幸せを願っているわよ?」


 雄二がにっこりと笑いながら説明した。康と美咲にとっては余計なお世話としか言いようがない。しかし二人が全く進展しないのも事実だ。


「というわけでおにぃと一緒だね。これからは毎日おにぃの部屋に忍び込んで、起こしてあげるからね」


「待ちなさいよ!! なんで男のあんたが康を起こすのよ!! それは私の役目よ!!」


「ふーん、タレントがマネージャーより早く起きるんだー? おにぃなら絶対担当タレントが寝ている間に起きていると思うけどね?」


 歩に言われて美咲は言い返せない。さて店主は料理をさらに追加した。フリフリソースを塗って焼いたフリフリチキンに、白身魚のフライであるマヒマヒ。スパムむすびや塩もみした牛肉のピピカウラなどが並んである。


「詳しい話は後だな。今はメテオシャワーフェスの打ち上げだ。歩ちゃんも大変だったろう」


 真世が歩をねぎらった。歩はEARTHHALLで出演していたのだ。Vチューバも参加するなど多種多様性で盛り上がっていた。


「まあねぇ。あーしとしてはおにぃと同じが良かったかなー?」


「人気ロックバンド「RYU-SAY」のボーカリスト、リュウヤや、アイドルグループの「Riser☆s」のメンバー壱星もいたはずですよね?」「他にもアイドルグループのwing guys やジストペリドも参加してましたが」


 利奈と寿子が尋ねると、歩は不機嫌そうであった。すると二人はすぐ頭を下げる。


「申し訳ありません」「歩さんは好きな人に振り向いてもらえれば満足でしたね」


「そそそそそ、そんなことないし!! もう、照れるなぁ!!」


 歩は顔を真っ赤になって否定したが、まんざらでもなさそうだ。それをみて利奈と寿子はにっこりと笑う。幼い子供を見守る母親のようであった。


「……まあ、私の知名度だけで地元を盛り上げるのも限界があるしね。康は渡さないけど、一緒に盛り上げましょう」


「あーしもおにぃは渡さないけど、その意見はサンセーだよ。お互い尚美師匠の弟子なんだから、表向きは仲良くするよ」


 美咲と歩が握手をした。美咲は嫉妬深いが私情と仕事は別だと切り分けている。歩も同じだ。

 ちなみに尚美師匠こと横川尚美は美咲の師匠であり、歩の師匠でもある。


 歩はVチューバだが、尚美から人生の生き方を教えてもらったのだ。ジャンルは違えど芸能界の荒波を乗り越える勉強は同じである。

 歩自身自分の番組で演歌を歌ったこともあった。基本を重視し、そこからまったく異なる組み合わせをするのが尚美のやり方である。


「いや、歩は男だろう。俺が盗られるなどありえないだろ……」


 康がぼやくと美咲がかみついた。


「そんなわけないから!! あんたが高校時代から歩に甘いのは知っているんだからね!! 小学五年生の時から大人顔負けの色気を出していたし、男が好きなんじゃないかと疑ったから!!」


「ふふーん。あーしはおにぃに愛されているんだもんねー! これからひとつ屋根の下おにぃと毎日エッチできるし」


「させないわよ!! 私なんか毎晩バスバスシッコシッコとやりまくっているんだから!!」


 美咲は虚勢を張るが、全員信じてなかった。康も冷めた目で見ていた。

 これから二人を相手にしなければならないのかと、康はげんなりした。その一方でやりがいがあると感じている。

 個人事務所ゆえに大手と比べると稼げる金は少ない。今はよいが、人気が落ちれば消えてしまう。

 なので稼いだ金を生かすために投資するのだ。そうすることが自分たちが生き延びるためである。


 キツネ御殿は滅んだ。木常崑崑きつね こんこんは死亡し、烏丸からすまりあも消えた。

 だが芸能界には狂人はいくらでもいる。いつセイレーンを狙うかわからない。

 それでも美咲とその仲間たちは戦い続けるだろう。


 俺たちの戦いはこれからだ!!


 もうちょっぴりだけ続きます。

 ハワイ料理はなんとなく出しました。居酒屋にハワイ料理は新鮮だと思ったからです。


 ジストペリドとwing guysは悠月 星花様の

「僕のアイドル人生詰んだかもしんない ~ 転校生は僕の運命の歌い手?! 色気あるバリトンからハイトーンまで……アイドル底辺からの下剋上の歌 ~」の登場人物です。

https://book1.adouzi.eu.org/n5201ic/


 リュウヤと壱星はまりんあくあ様の流星群になろうぜっ!の登場人物です。


 



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― 新着の感想 ―
[良い点] いい感じの「俺たち戦いはこれからだ!」となりましたね。 ロコモコは個人的に好きです♪ [気になる点] 十話がないような気が……。
[良い点] まだやったんかい! と思わず盛大に突っ込んでしまいました(笑) 動物園であんなに大胆だったのに。 さすがに周りも呆れ気味? 焼きもちやきの美咲はちょっと可愛いなって思ってます。 焼き方が…
[一言] もうちょっと続きますか。
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