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だいたい、気をつけろって言われてもなぁ。
転生者のスキルの代償?
そんなの今更言われても……。
だいたい、異性を僕好みに変えるスキルに何の代償があるって言うんだ。
城を出た僕は、ふと遠くの景色を見る。
異性を僕好みに変えるスキル……か。
本当にそれが史上最強のスキル?
……未だに納得がいっていないのは、僕の頭が固いだけかな。
そう思いながら、今後の身の振り様を考えていた時だった。
「待って!」
「まつにゃ!」
「まってよ!」
背後から聞きなれた声が聞こえてきた。
僕は何も言わず振り返った。
そこには、リリーシアとマーフィとクスクスがいた。
「あ、ああ……」
国王の話から、この人達には悪気が無いのは分かった。
僕から離れたのも、全部あの悪趣味な国王の仕業というのも知った。
「一緒に行こう。タロ君」
「行くにゃ!」
「いくよっ!」
それでも、素直に彼女たちを許す事が出来なかった。
「ごめん、ちょっと一人にさせて」
だから僕は、気持ちの整理をつかせるために彼女たちから離れると、一人で宿に戻った。
王都内の宿にて。
僕は借りた部屋にあるベッドに座り、床を見た。
”私たちに自分の好きなキャラクターの仮装をさせて、楽しかった?”
”所詮は君の自己満足。私たちの事なんて考えていないんでしょう?”
玉座の間で、リリーシアに冷たく言われた言葉が頭の中で反響する。
「はぁ……」
僕はそれをどうにか振り払おうと、ため息を大きくついて髪をぐしゃぐしゃと掻いた。
分かっている、分かっているよ。
あの言葉が全部心からの言葉ではない事は!
でも、あの時のリリーシアの冷たい眼差しが頭から離れられないんだ……。
くそう、僕はどうすればいい。
このまま何も無かったかのように振舞う?
駄目だ、僕の気持ちが収まらない。
なら、いっその事彼女たちから離れる?
でも、離れても僕一人じゃ何も出来ない。
無力な自分が情けない。
はぁ、なんかいろいろ考えるのもめんどくさくなってきた……。
このまま眠って解決しないかな……。
僕はもやもやした気持ちから逃げるために体を仰向けにすると、目を閉じてわざと意識を眠らそうとする。
そんな最中、扉をノックする音が聞こえた。
「タロ君、入るね」
その後、扉がゆっくりと開くと、いつもの穏やかな笑顔をしたリリーシアが現れた。
僕は思わず上体を起こした。
「横……座るね」
リリーシアはそう一言だけ言うと、僕の横へ座る。
この時、彼女のほんのり冷たい腕があたった。
「…………」
「…………」
二人並んで座っても、お互いに無言だった。
僕は何を話しかければいいか分からなかったし、リリーシアも僕に話しかける言葉が思いつかなかったんだろう。
ただ時間と空気だけが、気まずくこの部屋に滞留している……。




