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「町には、病気の蔓延を防ぐために検疫があると聞いたわ」

 お姉ちゃんが放った一言目は、それだった。


「そうだが、……それが何か?」

「私たちはそれを受けなくとも、町へ入る事が出来たの」

「ふむ、ただの職務怠慢だろう?」

 確かに僕たちは、特別何かをする事もなく町へ入れた。

 でもそれは騎士団副長の言うとおり、ただ兵士の人がサボっていただけじゃないのかな……。

 生死が関わっているのに、危機感なさすぎといえばそうかもしれないけど。


「そう……」

 リリィお姉ちゃんの表情は、依然厳しいままだった。

 さぼっていました!では納得しないのは分かるけど、他に何か考えでも……?


「次にあの死刑囚は、最後に家族の事を思ってあなたへ襲い掛かった」

「ああ、全く許されざる事だよ」

 そういわれれば、確かにお姉ちゃんの言うとおり、死刑囚の人は家族の事を言っていた。

 でもあれは、黒穢病をわざと取り込むよう指示した、騎士団副長への恨みから出た言葉じゃないのかな?


 そう僕が疑問に思っていた時だった。

 リリィお姉ちゃんは、今まで下ろしていた手を騎士団副長へ向ける。


 すると周囲の草や人々の服を一瞬揺れると、騎士団副長がしていたペンダントが粉々になってしまった。

 たぶん、規模こそは小さいけれど、竜巻とか真空波とかそういうのを放ったのかもしれないと思った。

 けど、所詮はゲームで得た知識なのでこの場所で言うのはやめておこう。


「ペンダントを……?」

「壊されても驚かないのね。あなた達も病気にかかるかもしれないのに」

 今はそんな事よりも、騎士団副長のしていたペンダントが壊れた事だ。

 リリィお姉ちゃんの言うとおり、こんな汚染された土地で病気から守れる、あるいは治せる方法の無い状態になるなんて、普通の人なら慌てるはずなのに。

 まさか、ここまで酷い事をしておきながら、自分もホイホイ治してもらえると思ってる……?


「そうでしょうね。だって黒穢病なんて、本当はないのだから!」

「えっ……?」

 リリィお姉ちゃんの発言は、僕の予想のはるか上をいっていた。

 黒穢病が存在しないって……、そんな馬鹿な!

 だって、さっきの死刑囚の人、症状こそ違ったけど明らかに様子おかしかったよ?


「ねえお姉ちゃん、でも町の人は治ったって」

「タロ君、私たちが町の人に囲まれた時、黒穢病だった人は居たかな?」

 僕は、病気が治った知らせを受けた時の事を振り返る。


 ”クスクスと旅芸人の言った通りだ。黒穢病が治ったんだ”


 宿屋に来た町人は、確かに黒穢病が治ったって言ってた。


 ”俺の持病だった咳と胸の痛みを、治してくれてありがとう!”

 ”うちの祖母の病気を治してくれて助かったわぁ”


「そういえば……、クスクスちゃんの力で治ったってみんな、それ以外の病気の人だった……」

 でも、広場に来て率先して報告してくれたのは、全然関係ない病気で苦しんでいた人だった。

 元々感染症にかかってた人が、自発的に言うかと言われたら疑問はあるけども……。


 でも、今まで町の人から放置されてきたスラム街の女の子は、お礼を言ってくれた。


「な、なあリリィおねえ。どういうことにゃ?」

 お姉ちゃんの考えについていけないまふにゃんは、恐る恐るそう問いかけた。


「理由や背景までは分からないけど、今はっきりした事が一つだけあるの」

 リリィお姉ちゃんは、そんなまふにゃんと僕の方を見ながらそう告げた後に……。


「この国の偉い人は、ありもしない病気を理由に無実の人々の命を奪っているわ!」

 騎士団副長の方へ、鋭いまなざしを投げかけながら言い放った。


 この時僕は、騎士団副長の眉が一瞬だけぴくりと動くのを、見逃さなかった。

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