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たとえどんな無茶苦茶な事をしても。
クスクスちゃんの能力なら、治せないものなんてないはず!
僕はそう思っていた。
そしてそれは、クスクスちゃんも同じだったようだ。
彼女は苦しむ死刑囚へ近寄り、自身の胸の前で手を組んで祈って力を発動させた。
「痛いの苦しいのとんで―――」
力の発動の条件は、祈りを捧げて特定の言葉を告げるだけという、実に簡単で手軽なものだ。
「ヴヴヴヴヴヴァァアアアアアッッッ!!!!!!!」
だが、それをする前に死刑囚は獣のような雄叫びをあげると、クスクスちゃんを振り払おうと腕を大きく振ってきた。
「危ない!」
「きゃあっ!」
「ぐわぁっ!」
いたたた……。
僕が飛び込んで盾になったから、どうにかクスクスちゃんを守る事が出来た……。
「大丈夫!?」
「う、うん。ちょっと強く打っただけ……」
打ち所がよかった、背中がズキズキと痛いだけで立てるし動ける。
「あ、ありがとう」
「そんな心配しなくていいよ。僕だって役に立ちたいもの」
クスクスちゃんは無事のようだ、本当に良かった。
それにしても、なんてすごい力なんだ。
本当に病人なの?
「よくも……、俺の家族を……、お前ら……」
僕とクスクスちゃんを吹っ飛ばした死刑囚の男は、体を痙攣させながらぶつぶつとそうつぶやく。
その様は、まるでホラー映画に出てくるゾンビみたいだ。
黒穢病って、体が溶ける病気じゃないの?
なんであんなゾンビみたいになっちゃうの?
「コロス!!!!」
僕がそう戸惑っている中、死刑囚の男は大きく腕を振りかぶりながら、今までにないほど瞳をぎらつかせて騎士団副長へと襲い掛かった。
「ふむ、仕方がないな」
だが騎士団副長は、そんな異様な光景を目の当たりにしても一切動じず、ため息まじりにそう言いながら腰に下げていたサーベルにゆっくりと手をかけると……。
「ふん」
死刑囚の男と一気に間合いを詰め、すれ違いざまに鞘から抜いたサーベルで瞬時に切り捨てた。
…………。
…………。
…………。
…………。
そして、ほんの少しお互いが動かない時間を経た後、死刑囚の男の体から大量の血が噴き出した。
「ギィィヤヤアアアアアアアア!!!!!!」
男は悲鳴をあげながら、死ぬ直前の甲虫のようにのたうちまわると、やがて動かなくなった……。
僕は、目の前の凄惨な光景を、ただ見る事しか出来ずにいた。
だがそれ以上に、気になった事が一つあった。
それは、先ほど騎士団副長が見せた行動だ。
あれってもしかして居合斬り……?
なんで、こんな中世風な世界で日本の剣技があるの……?
「手間をかけさせてすまなかった。やはりあの町の住人には全員死んでもらう」
「そんな!」
結局、治療が出来る事を見せられなかった。
でも、あんなやり方間違っている!
それに、クスクスちゃんの能力は本物だよ!
くそぅ……、どうすればいい?
どうすれば、分かってくれる……。
「……何か言いたい事でも?」
「リリィお姉ちゃん……」
どうにか町の人を救おうと考えている中、今まで黙っていたリリィお姉ちゃんが、騎士団副長へ二歩ほど近寄る。
この時のお姉ちゃんは、魔法を使う時と同じくらい真剣で、どこか近寄りがたい感じがした。




