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「僕たちもここから離れよう」
「そうね」
「病は怖いにゃ~」
僕たちは、史上最強のスキルの力がある。
だから大丈夫!
……なわけよなぁ、そんな都合よくいかないよなぁ。
むしろ、病気に対して無力だったら……。
僕はそう思うと、ぞぞっと背筋が寒くなった。
リリィお姉ちゃんはそれを察してくれたのか、後ろから僕へゆっくりと覆いかぶさると。
「大丈夫だよ。私がついているから」
そう、優しくささやいてくれた。
この時、背筋の寒さのかわりに胸のどきどきが止まらなくなったのも、きっとお姉ちゃんなら知っているんだろうな。
そんなささやかな出来事の後、僕たちは少し速足で宿へと戻っていく。
その道中にて。
「あれって」
僕たちの行く先の前には、先ほどの悪童たちとクスクスちゃんが居た。
「おーい! この町に病気をばらまいたのはクスクスだって!」
「違うよー、やめてよー」
「ギャハハハ!!」
「近寄るな、うつるだろ!」
そのやりとりを聞いた瞬間、リリィお姉ちゃんが温めてくれた僕の背筋と気持ちが再び凍りついた。
「やめなよ」
「あれ、旅芸人さん……?」
そして気がつくと、悪童たちとクスクスちゃんの間に入っていた。
「なんだお前?」
「……この状況でそういう事を言っちゃ駄目だ」
こいつらのしている事、悪ふざけにも程がある。
確かにお前らにとって、クスクスちゃんは友達ではないのかもしれない。
拒絶してもついてくる”ウザい奴”なのかもしれない。
でもな、それでもな……!
僕は最初の大陸と同じで、また殴られると思っていた。
悪童たちから見て、僕は明らかに年下だからだ。
それでも僕は放っておけなかった。
だって、ここで放ったら……。
そう思いながら、奥歯をぐっと噛みしめた時だった。
「はぁ、面倒くせえ」
「うざうざ、帰ろうぜ」
「しらけるわ~」
悪童たちは、僕に暴力をふるうこともなくそう吐き捨てながら言うと、つまらなさそうにその場から去っていった。
「クスクスちゃんも、言い返さないとだめだよ」
リリィお姉ちゃんは、その場に一人取り残されたクスクスちゃんに、優しくそう告げた。
「……なんで邪魔したの?」
「えっ?」
「あたしは別にそういうの頼んでいない」
「そんな……、それじゃあずっとあのままだよ?」
「あたしの居場所はあそこしかないの! 放っといてよ!」
やっぱりそうだ。
転生前の僕と同じだ。
クスクスちゃんは、僕と……同じだ。
「あっ……、待って!」
クスクスちゃんはお姉ちゃんの差し伸べた手を握らず、走ってどこかへ行ってしまった。
「…………」
リリィお姉ちゃんがやった事は正しいと思うし、今ならその気持ちも分かる。
でも、転生前だったら、たぶん僕も同じ反応をしていた。
「リリィお姉ちゃん、ありがとうね」
「どうしてタロ君がお礼をいうの?」
「えっ、うん。なんとなく……かな」
この時僕は、いつも通りお姉ちゃんの手をぎゅっと握った。
お姉ちゃんの手は、どこか冷たかった。
僕たちは、何とも言えない雰囲気のまま、宿へと戻った。
だが宿に到着した瞬間、状況はより悪い方向へと進んでいる事を思い知る……。




