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数日後。
ソファーのあるリビングでは、パパとママと次郎が楽しそうにアルバムを見ていた。
「これってタヒチに行った時だよね?」
「ああ、そうだな」
「また行きたいわね」
うちの家は裕福で、旅行でよく海外へ行っていた。
「あれ、太郎お兄さん居たんだ。ぼうっとしてどうしたの?」
でも、僕は連れて行って貰えなかった。
「太郎、あなたまたテストの点数悪かったわね」
「ふむ、じゃあ次の海外はまた三人だな」
何故なら、旅行へ連れていって貰えるのは、勉強や習い事で結果を出せた時のみだからだ。
昔から家族の期待に応えられなかった僕は、いつも家で留守番をしていた。
「ねーねーパパ。今度はナイアガラの滝を見に行きたい!」
「ああ分かった。じゃあ早速ホテルと飛行機をとるか」
「やったー!」
僕は和やかな三人を、遠くから見る事しか出来なかった。
やがてそれすらも耐えられなくなった僕は、自室で黙々と勉強をした。
だが、塾のテストの結果は散々だった……。
さらにそれから数日が経った。
今日もまた、塾のテストで僕はあまりよくない結果を出した。
「またこんな点数をとって! 恥ずかしくないの?」
ママ、僕だって頑張っているよ。
ユリお姉ちゃんの事だってどうにか忘れようとしている。
でも、僕もう限界だよ……。
「ごめんなさい」
「謝って欲しいわけじゃないのよ、普通の点数を取ってきて欲しいの。なんでそれが分からないの?」
誰も僕の事なんて分かってくれない。
それでも頑張るしかない。
僕にはそれしか出来ないんだから……。
他に逃げ道なんてないんだから……。
でも、出来ないと悩めば悩む程、期待に応えようとすればするほど、僕の成績は落ちていった。
「はぁ……」
何もできない子供でごめんなさい。
何も期待に応えられない子供でごめんなさい。
馬鹿で要領の悪い子供でごめんなさい。
……そんな僕が、生きててごめんなさい。
僕は散々ママに怒られた後、そう思いながら自室へ戻って予習と復習をした。
だが、無意味に白紙のノートだけが埋まっていった。
その日の夜。
「太郎」
「はい」
「ここへ座りなさい。大切な話がある」
お風呂からあがった僕を、パパは呼び止めてリビングの椅子に座らせようとする。
きっと成績が悪いからだ。
また怒られるんだろうな……。
そう思いながら、重い足取りのまま歩いていき椅子へ座った。
「今まですまなかったな」
「どういう事……?」
正直、何を言っているか分からなかった。
僕の成績が悪いのに、みんなの期待を裏切り続けているのに。
どうしてパパが謝るの?
どうしてママはそんな申し訳なさそうにするの?
「お前には期待をかけすぎていた。きっと重荷だっただろう?」
「ごめんなさいね。ママも言いすぎていたわ」
「パパ……、ママ……」
僕の辛い気持ちを、パパとママはようやく理解してくれた。
何がきっかけなのかは分からないけれど、僕嬉しいよ。
僕はこの時、本当の意味で家族になれたと思っていた。
「だからもう頑張らなくてもいいぞ。お前はお前らしく生きてくれ」
「ママももうあなたには期待しないから、自由に生きてね」
だが、僕の温かい気持ちは、一瞬で冷めてしまった。
「じゃあ、もう部屋に戻っていいぞ」
「はい……」
この二人の言った言葉の意味を、僕は分かってしまった。
だから僕は何も言わず、リビングから出ていき明かりもつけないまま床に座り込むと……。
「うぅっ……、うぅぁ……」
パパやママや弟に気づかれないよう、声を殺しながら泣いた。
そして翌日以降、家族みんなが僕にたいして、どこかよそよそしくなった。




