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まるで夢を見ているような。
流れに逆らえず、大海原に漂うこの感覚……。
間違いない。
ユリお姉ちゃんと第二の大陸へ向かう途中にあった、僕自身の過去を見る時だ。
また始まるの?
もしかして、大陸を移動するたびに起こるの?
僕は、この不思議な感覚について考えた。
だがそんな思考よりも、僕の過去の記憶が優先され蘇っていく……。
ユリお姉ちゃんと別れてから数日後。
「なんでお前はこの程度の事が出来ないんだ!」
僕は、ユリお姉ちゃんとの別れによるショックから抜け出せず、そのせいか勉強に集中出来ない日々が続いた。
今日もまた、テストの点数が悪かったため、パパに激しく怒鳴られていた。
「あなたは山田家の長男として、跡取りとして、立派な人間にならなければいけないよ?」
大声を出して怒るパパも怖かった。
でもそれ以上に、ネチネチとプレッシャーをかけてくるママの方が辛かった。
「うぅ……、ごめんなさい」
「はぁ、まったくどうしたというのだ……」
「情けないわねえ」
僕の調子の悪い理由を、二人は知らない。
何故ならユリお姉ちゃんの事を、パパやママには言わなかったからだ。
言えばかならず、僕の事をたぶらかした悪い女と罵ってくるに違いない。
僕はそんなの耐えられない。
誰であっても、ユリお姉ちゃんの事を悪く言う奴を許す事なんて出来ない。
でも、僕は手放してしまった……。
大切な人を、守り切れなかった……。
そんな後悔と、日々の両親からの叱責で精神的に参っている時だった。
「父さん! 母さん!」
「おお次郎か、どうした?」
僕には、年が二つ下の次郎と言う弟がいる。
その弟は、僕が怒られている最中であるにも関わらず……。
「今回の全国テストで一番になったよ!」
満面の笑みで不機嫌なパパとママにそう話しかけた。
「おお! よくやったぞ次郎!」
「さすがは山田家の子ね!」
すると、今まで険しい表情だったパパとママは、途端に明るくなった。
「確か……、前にテニスの大会で優勝したよな?」
「うん!」
「ピアノのコンクールも金賞を貰っていたしな」
「そんな大した事ないよー。うまい人がたまたま調子悪くて休んでいただけだもの」
「文武両道、才色兼備、本当にあなたは素晴らしいわ」
「えへへ……」
弟の次郎は、僕と違って優秀だった。
何をやらせても僕より飲み込みがはやく、要領もいい。
さらに見た目もいいから、ガールフレンドが尽きない時は無い。
「この一族の面汚しめ。少しは弟を見習ったらどうだ?」
一族の面汚し。
その一言は、今まで言われた厳しい言葉で、最も心に突き刺さった。
僕だって、好きで勉強出来ないわけじゃない。
パパやママの期待に応えたいし、少しでも応えられるよう頑張ってきたのに……。
でも、もう僕の頑張りを認めてくれる人はいない。
僕が手放してしまったのだから……。
「ささ、夕食にしましょうか。今晩は次郎の好きなハンバーグよ」
「やったー!」
そうやって心の中をぐちゃぐちゃにしている最中。
”家族三人”は、僕をおいて食卓のある部屋へと行ってしまった。
「…………」
僕はその三人を見送ると、自室で今日の授業の復習と明日のための予習をした。
そして勉強が終わって食卓へ向かうと、そこには僕のハンバーグは無かった……。




