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松明を持った集落の人たちが、ゆらりゆらりと僕たちへと迫ってくる。
この時、長も、巫女も、大人も、子供でさえも、瞳の中に狂気を宿らせていた。
まさかこんな結末だなんて!
僕はそう諦め、リリィお姉ちゃんへ抱きついた時だった。
「うにゃあああ!!!!」
今まで困惑していて動けなかったマーフィちゃんは、近くの樹木を思いきり引っ張ると、それを迫ってきた集落の人々へぶつけたのだ。
集落の人々は、ドミノ倒しのように倒れていき、もみくちゃになってしまう。
それと同時に、持っていた松明を手放してしまった結果、火は草木へと燃え移ってたちまち広がっていった。
そして、人々の包囲に隙間が出来ると、マーフィちゃんは軽やかな身のこなしで、集落の人を蹴り飛ばして道を作ってくれた。
「今のうちに逃げるにゃ!」
「うん」
「ええ」
マーフィちゃんが作ってくれた起死回生の瞬間を、無駄には出来ない。
僕とリリィお姉ちゃんは頷くとお互いの手を握り、先行するマーフィちゃんの後を追った。
「む、逃げたぞ! 追え! 追うんだ!」
「長! このままではこのあたり全てが焼け落ちてしまいます!」
「ぐぐぬ……、仕方ない。まずは消火を急げ!」
逃げる僕達の背後から、そんな叫び声が聞こえてくる。
僕はその声に振り返る事なく、集落から脱出した。
それからしばらく歩き……。
僕たちは、集落から離れた大きな樹の洞へ到着する。
「今日はここで休むにゃ」
そこは、くぼみがちょうど雨風をしのげるようになっていて、野宿するには都合がいい場所だったので、邪魔な枝や葉をどけて寝床を作り始めた。
「ねえマーフィちゃん」
「どうしたにゃ?」
「あの、お父さんや集落の人の事……」
マーフィちゃんは、この一日で自分の父親と今まで慣れ親しんだ故郷を失った。
こうやって明るく振舞っているけれど、心の中じゃ悲しいはず。
そう思って本音を聞こうとしたが……。
「とーちゃんのカタキはおいらがとった。だからとーちゃんの事はもう大丈夫にゃ」
彼女は、腰に両手を置いて鼻を鳴らしながら、そう告げただけだった。
「さあ、もう寝るにゃ! おやすみ!」
「う、うん……」
やっぱり強がっているようにしか思えない。
故郷の事、何も言わなかったし……。
僕は目を閉じて眠ったマーフィちゃんを見つつ、近くの川へ一人で向かった。
そして僕は川へ到着すると、草がふかふかに茂っている場所へ座り、木々から漏れる月明かりが川の水を反射してきらきらと輝く様子を見ながら、この大陸で起きた事を振り返っていく。
「いろいろあったけれど……」
マーフィちゃんは、集落内では巫女として、凄腕の狩人の娘として期待され続けてきた。
でも彼女は、それに応えられなかった。
だから罵声を浴びせられていたし、暴力も振るわれてきた。
それは紛れもなく、僕の転生前の過去と同じだった。
もっとも僕は、マーフィちゃんみたいにはなれなかったけど……。
リリィお姉ちゃんの時も、僕の過去の再現だったし、……偶然なのかな?
それとも、僕が気づいていないだけで他に理由が……?
気づいていないといえば、僕に与えられた史上最強のスキルも未だに分からない事が多い。
”自分が気にした異性を、自分好みのキャラクターに仕立て上げる”だけども、本当にそれだけなら修道院でガラの悪い男を追い払った時の説明がつかない。
もしかして、史上最強のスキルって、実は僕が知っている以上に凄い内容なの……?
「あ、あの……」
僕がいろいろ考え事をしていた時だった。
背後から、マーフィちゃんの声が聞こえてくる。
「うん? どうしたのマーフィちゃん」
「う、えーっと……」
さっき寝たんじゃなかったのかな?
何か用でもあるんかな?
なんか様子が変だけども……。
「体が変にゃ! だから助けて欲しいにゃ!」
「えぇ……、どういう意味なの……」
そんな大雑把に言われても!
助けてって、僕は何をすればいいの。
どうやって僕が様子がおかしいマーフィちゃんに対して、困惑している時だった。
「む、むぅうう!! タロの馬鹿!!」
マーフィちゃんは顔を真っ赤にしながらそう言うと、突然迫って僕の唇を奪った。
しばらくの沈黙の後、マーフィちゃんは僕から離れると、じっとこちらを見つめてくる。
この時の彼女の息づかいは荒く、瞳は潤んでいる。
「……そういう事、したいの?」
「……うん」
どうしてそうなったかは、僕には分からなかった。
ただ、リリィお姉ちゃんとは別の人と過ごす特別な夜が、訪れようとしている事だけは分かった。
「分かったよ」
僕は、マーフィちゃんの小さな体に抱きついた。
そして、まだ幼さ残る彼女と特別な夜を共に過ごした……。




