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巨人は、自らの腕で迫りくるヤドガさんを叩き潰そうとした。
だが、ヤドガさんはそれをすべて避けていく。
流石は集落一番の狩人と言われているだけはあるや、イケメン戦士リュートにも負けていない!
もしも、ここで武器があったなら……。
ひょっとしたら、勝てたのかもしれないのに。
「はぁっ、はぁっ……」
やがて呼吸は乱れて、全身汗だくになった時……。
「!!」
疲労と無理な動きによって体勢を崩したヤドガさんの足は縺れ、その場でよろめいてしまう。
「とーちゃん! 危ない!!」
娘の叫びが空しく響くと共に、彼は巨人の剣によって潰されてしまった……。
「とーちゃん! とーちゃん!!!」
勝負は誰の目から見ても決していた。
それでもマーフィちゃんは、巨人へと近づこうとした。
このまま行けば犬死してしまうと思った僕は、マーフィちゃんを羽交い絞めにして止めた。
「はなせー! はなせよおー!!!」
マーフィちゃんは動きを止めず、どうにか巨人のもとへ向かおうとした。
その時だった。
今まで意識を集中していたリリィお姉ちゃんの目がかっと開き、両手の平が巨人の方を向くと、巨人は光の柱に包まれてしまった。
今まで、集落最強の戦士の攻撃を弾いてきた巨人の体はみるみる蒸発していく。
巨人は地団太を踏みながらもがき苦しむと、やがて動かなくなりその場に倒れてしまった。
「ごめんね、もうちょっと早かったら……」
リリィお姉ちゃんは、とても悲しそうな表情をしながら軽く握った手を胸にあてた。
意識は集中していても、今までの惨状は分かっていたんだと思う。
「マーフィちゃん、帰ろう」
「うっ、うぅっ……」
僕は倒れた巨人の方を振り返りつつ、涙をぽろぽろ零すマーフィちゃんをなだめて、ここから早く離れようとした。
ケガレのボスは倒した。
だからもうケガレは現れないし、集落も安心だ。
……でも、集落の人がヤドガさんやリラお姉ちゃんやリュートを失ったって知ったら、きっと悲しむに違いない。
そう思い、心を痛めながら集落へ戻ろうとした時だった。
「オオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!」
リリィお姉ちゃんの魔法を受けて倒したはずの巨人が、雄叫びをあげながらゆっくりと起き上がってきた!
「まだ立ち上がるの!?」
しかし、お姉ちゃんの魔法による攻撃は無駄ではなかった。
巨人の体を覆っていたケガレはすべて灰になって消滅し、本体と思われる赤紫色の皮膚が見えていたからだ。
多分、次同じ攻撃をしたら巨人は倒せるかもしれない。
でも、お姉ちゃんが魔法を使うには時間がかかる。
どうすれば、どうすれば……!
「マーフィ……ちゃん?」
そんな絶体絶命の最中、今までただ泣くだけだったマーフィちゃんが、僕の手を振り払い……。
「だあああ!!!!!」
大声をあげながら、巨人へと特攻していった!
いけない!
いくら巨人が弱っているといっても、マーフィちゃん一人じゃ勝てるわけない!!
この時リリィお姉ちゃんは、再び意識を集中させていた。
僕はそれを横目で見ながらも、急いでマーフィちゃんを追った。
再び立ち上がった巨人は、拳を振りかぶりマーフィちゃんを叩き潰そうとしてくる。
くそっ、間に合わない!!!
「おいらの魂、この一撃に注ぎ込むッ!! 唸れ! 轟け!」
そう思っていた時、マーフィちゃんも拳をぐっと強く握り、大きく振りかぶると……。
えっ、そのセリフ……。
まさか、マーフィちゃん……?
「そして、慄き跪けぇぇぇっっっ!!!!」
そう叫びながら、振り下ろされた巨人の拳の動きに合わせるように、自身の拳を突き出した。
巨人の拳とマーフィちゃんの拳がぶつかり、大きな地鳴りと衝撃波が落ちていた小石を蹴散らしていく。
僕は吹き飛ばれたが、後ろにいたリリィお姉ちゃんが捕まえてくれたおかげで、どうにか山からの転落は免れた。




