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僕とマーフィちゃんは、急いでテントを抜け出して宴をやっていた広場へと向かった。
「こ、これは……!」
そして広場に到着した僕は、目の前の風景を見て愕然とした。
村の外から次々と現れる黒い物体が、まるで日食がおきた太陽のように輪郭のみを輝かせてながら、見た目を鳥にも蜘蛛にも変えて集落の人々を襲っていたのだ。
これが、ケガレ……?
「リリィお姉ちゃん!」
「とーちゃん!」
集落の人々が避難している最中、ケガレへと立ち向かう人影が二つ。
先程マーフィちゃんを叱っていた大人と、リリィお姉ちゃんだ。
「タロ君!」
「マーフィ!」
というか、さっき怒ってた人はこの子のお父さんだったのか!
でも、今はその事を考えている場合じゃない。
早くリリィお姉ちゃんに合流して……。
そう思いながらも、僕は二人へ近づこうとした。
「さっき居たテントに隠れていて!」
「さっき居たテントに隠れてろ!」
リリィお姉ちゃんは魔法で、マーフィちゃんの父親は持っていた槍で、ケガレを撃退しながらそう告げた。
「僕も戦う!」
「おいらも戦うよ!」
大切な人だけを戦わせるわけにはいかない。
その思いはマーフィちゃんも同じだったらしく、そう発言した後に前線へ向かおうとした。
「私は大丈夫だから、タロ君は隠れていてね」
「マーフィ、お前が居ても邪魔なだけだ。分かったらさっさと隠れていろ!」
お姉ちゃんはともかく……。
何もそんな言い方をしなくてもいいじゃないか。
確かにマーフィちゃんは、期待に答えられないかもしれないけれど……。
「うぅ……」
マーフィちゃんはその場に立ったまま、瞳を潤ませてうつむいてしまう。
やっぱり僕は、この子に何もしてあげられないのか?
同じ”期待はずれの子供”で、彼女の痛みも苦しみも分かるのに、見る事しか出来ないのか?
そう思っていた時だった。
「うわぁっ!」
突然、マーフィちゃんの着ていた服が強く光り輝きだす。
「これって!」
この現象、間違いない。
リリィお姉ちゃんの修道服が、今の女神のドレスに変わったのと同じだ。
まさか、マーフィちゃんにも同じ現象が……?
そう思いながら彼女を見守り続けた。
そして光がおさまると、僕の予想通りマーフィちゃんの服装はがらりと変わっていた。
「な、なにこれ……」
「その格好!」
素肌にフィットした紺色の衣装……というかスク水!?
それに猫耳カチューシャ、スク水と同じ色の半透明なケープ、マーフィちゃんの首をすっぽり覆うくらいベルト部が太い首輪、猫の顔がついているニーハイソックス。
「うぅー……、なんかぴちぴちしてて気持ち悪いぞ……」
間違いない、僕が転生前の世界で人気があったアニメ”猫猫拳夢”内に出てくる白昼猫が着ている衣装そのものだ。
僕はその作品もそのキャラクターも好きで、アニメのブルーレイを全巻揃えていて何度も見返しているくらいだ。
それにしても、何でこの時代にスク水なんだろう?
世界観に合わなさすぎるような……。
やっぱり、僕に与えられた史上最強のスキルは”女の子の衣装を自由に変える能力”だった?
「でも、よく分からないけどやれそうな気がするっ!」
僕がいろいろと考えている時。
マーフィちゃんはそう言いながら、父親の制止を振り切りケガレへと向かって行く。
確かに白昼猫は拳法の達人で、拳に力を溜めて放つ通称”居合い突き”が得意なキャラクターだ。
でも、服装が同じであったとしても、能力まで同じなわけはない。
このままじゃ、マーフィちゃんが危ない!
「マーフィ!!」
マーフィちゃんの父親も、当然僕と同じ考えだった。
突進する娘に対して、周りに敵が居ても構わず大声を出して止させようとした。
それでも彼女はケガレへ向かう事を止めず、躊躇わず。
拳をぐっと握って大きく振りかぶり、ケガレへと殴りかかった!
「ていやー!!」
少女の気合の篭った声と共に放った一撃が、ケガレの肉体に衝突すると、瞬間的に空間が歪み……。
「ギャアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
ケガレと呼ばれる謎の生命体は甲高い悲鳴をあげながら、粉々に砕けてしまった。
「お、おおお!!! おいらケガレを倒したぞ!」
「お前……!」
まさか、アニメどおりの一撃必殺・居合い突きをやるなんて!
すげえ……、すげえよ!
あれ、そういえば……。
リリィお姉ちゃんも魔法が使えるようになってた……。
「とーちゃん! おいらも戦えるんだ!」
「……何だか分からんが、あっちにもケガレが来ている。行くぞマーフィ!」
「おう!」
僕が授かった史上最強のスキルって、もしかして……。
”僕が好意を抱いた異性を、僕が知っているフィクション上の登場人物と同じ能力、格好にさせる”ことなの?
だとしたら、やばいぞ!
滅茶苦茶じゃないか!!
マーフィちゃんとその父親、リリィお姉ちゃんが次々とケガレを倒している中。
僕は自分の能力に打ち震えていた。




