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僕は胸の重さを感じながら、宴がやっていた広場へと戻った。
「タロ君、おかえり」
「うん……」
そこには、僕の帰りを待っていたリリィお姉ちゃんが、優しい笑顔で迎えてくれた。
いつもなら、その笑顔で僕の気持ちはとても温かくなるのだけど……。
不器用な巫女の怒られている姿と、その巫女が失意のまま僕に背を向けた姿がどうしても頭から離れられずにいたせいで、ぎこちない返事しか出来なかった。
「どうしたの? 何かあったの?」
「うーん、実は……」
僕の様子に気づいたお姉ちゃんは、表情はそのままにしゃがんで僕と視線を合わせてくる。
このまま一人で悩んでも仕方ないし、お姉ちゃんまで心配させるのも嫌だった僕は、先程起こった出来事を包み隠さず全て話した。
「ほむほむ、そんな事があったんだね」
「うん」
お姉ちゃんは何も言わず、僕の話を黙って最後まで聞くと、まるで深々とかみ締めるように頷きながら、僕とおでこをあわせると……。
「ねえタロ君。お姉ちゃんからのお願い、聞いてくれる?」
そう笑顔で話してきた。
お、お姉ちゃん近いよ……。
でもいいにおいだし、大好きなお姉ちゃんがこんな近いと僕……、どきどきしちゃう!
「う、うん」
そんな胸の高鳴りを抱えたまま、僕は少し困惑しながら返事をすると、お姉ちゃんは一回だけ微笑み僕へと耳打ちをした。
宴は終わりを向かえ、集落の人々は余韻に浸りながらも各々のテントへ戻ろうとしていた時だった。
「ねえねえ、神の使いってやっぱりお空に住んでいるの?」
集落の子供が、目を輝かせながらリリィお姉ちゃんへと話しかけてくる。
「知りたい?」
「うん!」
「じゃあ、大人の人いっぱい連れてきてくれるかな? みんなが集まったらお話してあげる」
「分かった!」
子供は大きく頷くと、甲高い声で周りの大人を呼び集めて行く。
「リリィお姉ちゃん……」
集落の人々が、大人や子供問わず神の使いであるリリィお姉ちゃんの話を聞くために集まる中。
僕はそんな風景を尻目に、ある場所へと向かう。
程なくして僕は、その場所へ到着する。
そこは、宴の席から少し離れた、集落の外れにあるテントだ。
僕は一つだけ大きく唾を飲み込んだ後に、テントの中へと入って行き……。
「はぁ……」
「こ、こんばん――」
中に居る少女へ挨拶をしようとした。
「うぎゃあぁっ!?」
「ひいっ!?」
だが、少女はこのテントに人が入ってくるとは思っていなかったらしく、大声をあげながら猫のようにその場で大きく飛び上がる。
僕もそんな少女の言動に驚いてしまい、自分でも恥ずかしくなるくらい変な声をあげてしまった。
暗いテントに、月明かりが差し込む。
青白い光に照らされ、少女の正体が明らかになっていく。
「な、なんだ、神の使いの従者さんかー」
「驚かしてごめん」
テントの中に一人で居た少女は、先程僕が見送ってしまったマーフィだった。
マーフィは僕だという事が分かると、ほっと胸を撫で下ろして再び座り込む。
「はぁ……、おいらはここにある武器や防具全部掃除しないといけないから……」
そしてため息を一つつくと、テントの中に置いてある無数の武具を、持っていた布で磨き始めた。
僕はマーフィを脅かしに来たわけでも、ひやかしに来たわけでもない。
折角リリィお姉ちゃんが時間をくれたんだ。
だから、僕にしか出来る事をしたい。
そう思いながら、無言で武具の手入れを行うマーフィへと近づいていき……。




