表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/433

29

「いくよ」

 お姉ちゃんは笑顔のまま、再び空を飛んだ。

 そして、後方の海面へ浮遊しながら目を閉じた。


 僕は言われた通り、船の縁をぎゅっと握りながら、集中しているお姉ちゃんを見る。


 いい方法って一体なんだろう?

 海の生き物を呼んで、船を岸まで引っ張ってもらう?

 それとも、風を操って船を動かす?

 といっても、この世界にそんな大きい生き物がいるかどうかも分からないし、風があっても帆の代わりになるようなものなんてないし……。


 僕はそう考えている時だった。


 お姉ちゃんは閉じた目を開くと、体を屈ませて海面へ両手を勢いよく当てた。

 すると、海面は激しく波打ち、本来そこには存在しなかった海流が生まれ、船はその流れに乗って進みだした。


「おおお!! 進んでる!!!」

 まさか海そのものを操るなんて!

 お姉ちゃんは流石だ!

 で、でも……!


 ちょっと勢い強くないかな……!


「大丈夫かな?」

「う、うん……」

 リリィお姉ちゃんに心配かけるの嫌だから”うん”とは言っちゃったけど。

 正直、あまりに大丈夫じゃないかも……。


 ううっ……、また速度があがってきた。

 次揺れたらやばいかも。

 海に投げ出されたら……、そんなのいやだ!


 だが僕の思いをあざ笑うかのように、船はどんどん加速していく。

 それにともない波にぶつかった時の衝撃は大きくなっていき、縁を握っていた手は痺れ始めて感覚を失いだす。


「う、うぅ……、もうつかまるの限界!」

 そして耐え切れなくなった僕は、波がぶつかり船が揺れた時に手を離してしまった。


「うわあああ!!!」

 このままじゃ落ちちゃう!

 折角リリィお姉ちゃんに出会って、大陸を脱出してこれからだっていうのに!!


 も、もう駄目だー!

 死ぬっ!!


 僕は、自身の異世界での人生の終わりを確信した時だった。


 …………。

 …………。

 …………。


 あ、あれ?

 死んでいない……?

 それに、背中に何か柔らかいものがあたっているような……?


 僕は、恐る恐る目を開けていく。


「ひぇっ!!」

 な、ななななんで浮いてるの?

 僕も魔法が使えるようになったの?

 どうして?

 あっ……。


「お、お姉ちゃん?」

 どうやら、僕が船から投げ出されて海面に叩きつけられようとした瞬間、リリィお姉ちゃんが僕を助けてくれたようだ。


 しかし、僕の両脇を持ったまま飛ぶお姉ちゃんの表情は、どこか辛そうだ。


「このまま飛んでいくよ」

「う、うん」

 お姉ちゃんは飛ぶ速度をさらにあげ、一気に大陸へと向かう。


 す、すごいスピードだ。

 目を開けるのもやっとなくらい風が強い。


「くぅ……」

 僕は、じりじりとお姉ちゃんの手が離れていく事に気づいてしまう。


 ひぇ、ここで落ちたらやっぱり生きていけない!

 お願いお姉ちゃん、僕を落とさないで!

 頑張って……!!


 その願いが届いたのか。

 手が離れた瞬間、新たな大陸の海岸へと滑り込むように、僕とお姉ちゃんは着地した。


「うわあ!」

「きゃあっ!」

 だが、勢いを殺しきれず突っ込んだせいで、砂まみれになってしまった……。


 う、うーん……。

 砂浜の砂がクッションになったおかげで怪我はしなかったけども……。


「大丈夫? お姉ちゃん……」

「はぁっ、はぁっ、うぁっ、はぁっ……」

 お姉ちゃんは仰向けのまま、息を整えようと何度も深く呼吸をしている。

 すごい息が乱れているけど、大丈夫かな……?

 それにしても、お姉ちゃんなんだかえっちだ……。

 って僕は何を考えているんだ!

 いけない、いけない。


「ふぅ……、ぎりぎりだったよ。でも無事ついたね」

 どうにか呼吸が落ち着いたお姉ちゃんは、上体だけ起こしていつもの優しい笑顔で僕の方を見た。

「うんー」

 いつみても素敵な笑顔だなぁ。

 こんな人が僕の隣に居るなんて、今でも信じられないや。

 新しい大陸にも無事到着したし、よかったよかった。


「ちょっと休憩してから行こう」

 あれだけの速度で飛んで、さっきまで息を切らしていたくらいだ。

 もう少し休息はとったほうがいいよ。


「ありがとうね、タロ君」

「ううん、お姉ちゃんこそお疲れ様だよ」

 こんなにも僕のために頑張ってくれた。

 本当にありがとう、リリィお姉ちゃん。


「ふふ、どういたしまして」

 僕のそんな気持ちが伝わったのか。

 お姉ちゃんも、僕に笑顔を見せた。


 僕はそんなお姉ちゃんがたまらなく愛しく感じてしまい、大きな胸へと飛び込んだ。

 お姉ちゃんは何も言わず受け入れると、僕の頭をそっと撫でてくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ