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「いくよ」
お姉ちゃんは笑顔のまま、再び空を飛んだ。
そして、後方の海面へ浮遊しながら目を閉じた。
僕は言われた通り、船の縁をぎゅっと握りながら、集中しているお姉ちゃんを見る。
いい方法って一体なんだろう?
海の生き物を呼んで、船を岸まで引っ張ってもらう?
それとも、風を操って船を動かす?
といっても、この世界にそんな大きい生き物がいるかどうかも分からないし、風があっても帆の代わりになるようなものなんてないし……。
僕はそう考えている時だった。
お姉ちゃんは閉じた目を開くと、体を屈ませて海面へ両手を勢いよく当てた。
すると、海面は激しく波打ち、本来そこには存在しなかった海流が生まれ、船はその流れに乗って進みだした。
「おおお!! 進んでる!!!」
まさか海そのものを操るなんて!
お姉ちゃんは流石だ!
で、でも……!
ちょっと勢い強くないかな……!
「大丈夫かな?」
「う、うん……」
リリィお姉ちゃんに心配かけるの嫌だから”うん”とは言っちゃったけど。
正直、あまりに大丈夫じゃないかも……。
ううっ……、また速度があがってきた。
次揺れたらやばいかも。
海に投げ出されたら……、そんなのいやだ!
だが僕の思いをあざ笑うかのように、船はどんどん加速していく。
それにともない波にぶつかった時の衝撃は大きくなっていき、縁を握っていた手は痺れ始めて感覚を失いだす。
「う、うぅ……、もうつかまるの限界!」
そして耐え切れなくなった僕は、波がぶつかり船が揺れた時に手を離してしまった。
「うわあああ!!!」
このままじゃ落ちちゃう!
折角リリィお姉ちゃんに出会って、大陸を脱出してこれからだっていうのに!!
も、もう駄目だー!
死ぬっ!!
僕は、自身の異世界での人生の終わりを確信した時だった。
…………。
…………。
…………。
あ、あれ?
死んでいない……?
それに、背中に何か柔らかいものがあたっているような……?
僕は、恐る恐る目を開けていく。
「ひぇっ!!」
な、ななななんで浮いてるの?
僕も魔法が使えるようになったの?
どうして?
あっ……。
「お、お姉ちゃん?」
どうやら、僕が船から投げ出されて海面に叩きつけられようとした瞬間、リリィお姉ちゃんが僕を助けてくれたようだ。
しかし、僕の両脇を持ったまま飛ぶお姉ちゃんの表情は、どこか辛そうだ。
「このまま飛んでいくよ」
「う、うん」
お姉ちゃんは飛ぶ速度をさらにあげ、一気に大陸へと向かう。
す、すごいスピードだ。
目を開けるのもやっとなくらい風が強い。
「くぅ……」
僕は、じりじりとお姉ちゃんの手が離れていく事に気づいてしまう。
ひぇ、ここで落ちたらやっぱり生きていけない!
お願いお姉ちゃん、僕を落とさないで!
頑張って……!!
その願いが届いたのか。
手が離れた瞬間、新たな大陸の海岸へと滑り込むように、僕とお姉ちゃんは着地した。
「うわあ!」
「きゃあっ!」
だが、勢いを殺しきれず突っ込んだせいで、砂まみれになってしまった……。
う、うーん……。
砂浜の砂がクッションになったおかげで怪我はしなかったけども……。
「大丈夫? お姉ちゃん……」
「はぁっ、はぁっ、うぁっ、はぁっ……」
お姉ちゃんは仰向けのまま、息を整えようと何度も深く呼吸をしている。
すごい息が乱れているけど、大丈夫かな……?
それにしても、お姉ちゃんなんだかえっちだ……。
って僕は何を考えているんだ!
いけない、いけない。
「ふぅ……、ぎりぎりだったよ。でも無事ついたね」
どうにか呼吸が落ち着いたお姉ちゃんは、上体だけ起こしていつもの優しい笑顔で僕の方を見た。
「うんー」
いつみても素敵な笑顔だなぁ。
こんな人が僕の隣に居るなんて、今でも信じられないや。
新しい大陸にも無事到着したし、よかったよかった。
「ちょっと休憩してから行こう」
あれだけの速度で飛んで、さっきまで息を切らしていたくらいだ。
もう少し休息はとったほうがいいよ。
「ありがとうね、タロ君」
「ううん、お姉ちゃんこそお疲れ様だよ」
こんなにも僕のために頑張ってくれた。
本当にありがとう、リリィお姉ちゃん。
「ふふ、どういたしまして」
僕のそんな気持ちが伝わったのか。
お姉ちゃんも、僕に笑顔を見せた。
僕はそんなお姉ちゃんがたまらなく愛しく感じてしまい、大きな胸へと飛び込んだ。
お姉ちゃんは何も言わず受け入れると、僕の頭をそっと撫でてくれた。




