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 元居た大陸が見えなくなり、見回しても水平線しか見えなくなった頃。

 リリィお姉ちゃんは目を閉じて集中すると、魔法の力で縛られていた縄を解いた。


「これでよしっと」

 僕はその様子をじっと観察した。

 そして魔法をかけるには、”意識を研ぎ澄ませてる事”と”かけたい相手に手の平をかざす事”の二つの条件だということが分かった。


 審問官達に使えなかったのは、たぶん意識の集中が出来なかったからだろう。

 あんな状況で集中するなんて、出来たら神業だ。


「ありがとうお姉ちゃん、助かったよ」

「いえいえ」

 僕は縛られていた手首に、少しだけ痺れと痛みを感じつつも笑顔を見せると、お姉ちゃんもまた優しい表情をしてくれた。


「それにしても……、どこへ向かっているんだろう?」

「私にも分からないねえ」

 転生前の世界にあったモーターやエンジンなんてものは、当然この世界には無い。

 かといって帆がついているわけでもないし、僕の知らない不思議な力でどうにかしているような気配も無い。

 船はただ、流されているだけだ。


「ねえ、この船って食料も水も無いよね?」

「そうね」

 船には僕達以外に、他に荷物や道具は載せていない。


「今は晴れているけど、嵐が来たらひとたまりもないだろうし……」

「うーん……」

 さらにこの船、そこらじゅう腐食していて、とても長い期間航海出来そうにないくらいボロボロだ。

 嵐は勿論、少し大きな波が来たらあっという間に転覆するかもしれない。


「鮫とか、この世界固有の危険生物と出会ったら、こんな小さな船じゃ立って戦う事も出来ない……」

「流刑って……、てっきり島流しだと思ってたけれど、これじゃあ海に放置が正解だね」

 あれ?

 実はもしかして、かなりピンチな状態かな……?

 なんとかしないと……。

 なるべく早く陸地へ到着する方法……。


「あ、そうだ。お姉ちゃんの魔法で空を飛ぶ事って出来る?」

 ゲームやアニメの中で、登場人物が魔法を使って空を飛び、好きな場所へひとっとび!というのを見た事があった。

 もしかしたらリリィお姉ちゃんも、それが出来るのかな?


「ほおほお、やってみるね」

 お姉ちゃんはそう言いながら、胸の前で手を合わせて喜ぶ。

 そして座ったまま目を閉じ、合わせていた手と腕を大きく開いた。


「…………」

 ただ目を閉じて、意識を集中しているだけなのに。

 たまに吹く風で長い銀髪がなびくだけなのに。

 どうしてだろう、この人はそんなごく普通の現象すら、絵になってしまう。


 リリィお姉ちゃんの集中している姿に、僕が心を奪われていた時だった。


「おお!!」

 お姉ちゃんの体はゆっくりと浮いていき……。


「ちょっと不安定だけど、なんとかなるかも」

 全身が完全に浮いたころでお姉ちゃんは閉じていた目を開くと、広げた両手をふわふわと少し動かしながらそう言った。


 空を飛ぶなんて初めての事なのに、こうもすんなりと出来てしまうお姉ちゃん。

 うーん、やっぱり凄いなぁ。


 でも、魔法で空を飛ぶ事が出来るなら、船に乗る必要はもうない。

 あとは、僕にもその魔法をかけてもらって、二人で一緒に飛んでいけば解決だ。


「じゃあ、僕にも……」

「ごめんねタロ君。あなたにも試してみたんだけど、駄目みたい」

 そう思っていたが、やっぱりそんな上手くはいかなかった。

 お姉ちゃんの魔法は、一見万能そうに見せかけて意外と穴が多い……。


 ああ駄目だ、僕は何を考えているんだ。

 お姉ちゃんは、僕を守ってくれているのに!


「ごめんなさい、役立たずで……」

「ううん! 大丈夫だよ! だからそんな悲しい顔しないで!」

 そうだよ、本当の役立たずは僕なのだから。

 リリィお姉ちゃんがそんな顔してちゃ、僕も不安になっちゃうよ。


「そうだ。もっと上空に飛んでみて、近くに島か大陸がないか見てきてもらってもいい?」

 自分勝手な身勝手な考えに強く反省すると、僕は多少慌てながらも周囲の情報収集をお願いした。


「うん、分かった」

「あんまり高く飛び過ぎないようにね、あと飛んでいる鳥にも気をつけて」

「心配してくれてありがとう。じゃあ行ってくるね」

 お姉ちゃんはいつもの優しい笑顔を見せながらそう告げた後、天高く飛んでいった。

 一人残された僕は、さっきの自分の考えを振り返り、一つ大きくため息をついた。

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