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僕は困惑した。
その理由は大きく二つあった。
一つ目は、単純に唐突すぎて理解が追いつかなかったという事。
二つ目は、”僕の仲間のリリィお姉ちゃんが実はユリお姉ちゃんだった”みたいな展開を内心期待していて、それがばっさりと否定された事だ。
「あ、ああっ……」
まさかユリお姉ちゃんも転生してた……?
って事は、前の世界で命を落とした……?
あんなに優しかった人が、この世界では恐怖の象徴である魔王になってる……?
しかも、奪うスキルを持っている最悪の災厄……?
お、おちつけ。
おちつくんだ僕。
「き、聞きたい事がある」
僕は何度か深く呼吸して気持ちを落ち着かせようとした後、ユリお姉ちゃんに対して剣を向けたまま話しかけた。
「うん、何でも聞いて」
ユリお姉ちゃんは、あの時と変わらない優しい笑顔でこちらを見ながらそう答えた。
彼女に向けた剣の先がぶるぶると震えている事に気づいた僕は、もう一度深呼吸をすると……。
「本当にユリお姉ちゃんなの……?」
僕は息を飲み込むと、恐る恐る問いかけた。
「うん、そうだよ」
その質問に対してお姉ちゃんは、何の迷いもなく優しい笑顔で答えた。
そんな表情に僕は一瞬気が緩んだ。
だけど、ここがどういう場所なのかを思い出した僕は、剣をぎゅっと強く握りしめた。
この人はそうだよって言っている。
雰囲気は確かにユリお姉ちゃんそのものだ。
でも、僕を惑わそうとしているのかもしれない。
この世界を滅茶苦茶にするくらい酷い奴なら、そのくらいはしてくるはず。
「ここに来る前は”彩宮ゆり”って名前だったよ」
そう思っていた矢先。
お姉ちゃんは、転生前でかつ養子となった後の姓名を告げた。
「ユリお姉ちゃん……」
こんなの答えられる人なんて、本人しかいないじゃないか。
だとすれば、今目の前に居るこの人は、紛れもなく僕が好きだったお姉ちゃん……。
もしも本当にそうだったなら、僕はこの人を傷つける事なんて出来ない。
そう思えば思うほど、全身から力が抜けるのを感じる。
だが、僕の中にある疑惑が芽生えると、再び力を振り絞る事が出来た。
「……僕の仲間はどこへ行ったの?」
本物のユリお姉ちゃんだったら、僕の仲間に酷い事は絶対しない。
はぐれた事が分かれば、百歩譲って知らないとしても、探す事に協力してくれるはず。
だって、この広い城のどこかには居るんだから!
「一緒についてきた女の子の事?」
「うん、四人居るよ」
「……分からないわ。ごめんね」
ならば次は、協力してくれるかどうかを話してくるかだ……。
もしも答えがイエスなら、紛れもなく優しいユリお姉ちゃんだ、信用できる。
でも答えがノーなら、その時は僕だって……!
そう思いながら、僕はゆっくりと剣を構えつつ、お姉ちゃん?へと近寄っていった。
「私だけじゃ嫌なの?」
「えっ」
突然、今まで笑顔だったお姉ちゃん?の表情に悲しみが満ちる。
僕はそんな変化に、心が揺らぐと共に持っていた剣を手放してしまった。
「そんな事はないよ! う、嬉しいよ……」
「ならそれでいいじゃない。私は太郎君だけ居ればいいよ」
な、なんで……。
そんな事、軽々しく言わないで……。
「そうだ、私とここで暮らそう? そうしたらずっと一緒に居れるよ」
口から内臓が出そうなくらい、僕の胸がドクドクと強く鳴っている。
け、剣を拾わなきゃ……!
でも、からだが……、うごかない……!
なん……で!!
「一緒にご飯食べたり、お話したり、遊んだり……」
なんなのこの気持ち。
まるでお酒飲みすぎて酔ったような感覚なんだけど、気持ち悪いどころかすごく気持ちいい……。
ま、まさか。
これが第四の大陸で出会ったマキナが言っていた事……なの?
「本を読んだり、お風呂だって一緒に入ってあげる」
い、いやだ……。
こんなの違う……。
僕の知ってるお姉ちゃんなら、こんな事しないし、望まない。
こいつは敵だ、偽物なんだ!!
「それとももっと楽しい事も――」
「うわああああ!!!!!!! うるさいうるさい!!!!!!!!」
僕は”魔王”の呪縛から逃げるために、力いっぱい大声で叫びをあげながら頭を何度も振ると、ふらふらになりながらも落ちていた剣を拾い、再び構えをとった。
「太郎君……」
「僕の仲間はリリィお姉ちゃんとまふにゃんと、クス子とミャオだけだ!!」
そして自分に言い聞かせるように、僕の仲間の名前を強く言い放った。




