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総大将のマリーさんを囮にして、僕たちが魔王へ奇襲するという無謀な作戦は決定してしまった……。
作戦は早々に行われるため、僕らは戦場を脱出するための馬車へ乗り込もうとしていた。
「タロさん、私の剣術訓練につきあってくださりありがとうございました」
「マリーさん……」
「お互い、次も笑顔で会えるように。心の光を信じてこの戦いを勝ち抜きましょう」
ああああ!!
こんなん絶対にもう二度と会えないシチュエーションじゃないか!
どうしよう、何かうまい事言わないと……。
だが、そんなものを都合よく思いつくわけもなく、僕たちは馬車へと半ば強引に乗せられてしまった。
「頼みます」
「はい。皆様もご武運を」
そして御者とマリーさんの簡素なやり取りの後、僕たちはキャンプから離れていった。
馬車はものすごい勢いで走っていく。
マリーさんらの作戦が功を奏したのか、僕たちは敵の追撃を受ける事無く、戦場からの離脱に成功した。
それからしばらく時が経ち……。
魔王の本拠地へ向かう途中の馬車内にて。
「タロ君……」
「ねえリリィお姉ちゃん、もっと他にいい方法……無かったのかな」
無事に戦場から離れられた、作戦も思い通りにいっている。
だけど、僕の気持ちは後悔でいっぱいだ。
「僕がいけないんだ……、僕さえ強かったら……」
あの時、マリーさんをちゃんと説得出来ていたら。
南方ではなく北方を攻めるよう進言していたら。
僕がもっと一人で戦えていたら。
”たられば”の話なんて無意味なのは分かっているけれど、そんな理屈で割り切れない自分に苛立ちを感じていた。
「あなたは十分強いよ」
はぁ?
僕の何が強いって言うんだ?
こんな何も出来ない、史上最強のスキルも結局他人任せな能力なのに。
もうそんな上辺だけの言葉でどうこう出来る問題じゃないんだ!
それなのに、そんな優しさ無意味なんだよ!
「慰めなんていらないよ!!」
そう思うと胸の嫌な感情はどうにも抑えられなくなってしまい、気がつくとリリィお姉ちゃんや僕の仲間たちの悲しそうな表情が目の前にあった。
「……ごめん。お姉ちゃんに八つ当たりしても仕方ないよね」
そんな彼女の表情を見た僕の心中には、憤りではなく悲しみが満ちていった。
「私の言った意味は、いつかきっと分かるから」
正直、お姉ちゃんの言っている事はよく分からない。
そんな意味深な事言うのは、ただ僕を慰めたいだけなのか?
それとも、お姉ちゃんにしか分からない何かがあるのか?
「だから自分を信じて欲しい」
「……うん」
”自分を信じる”だなんて、そんなん出来るわけないじゃないか。
”自分を信じられないから、信じられなかったから”この異世界にいるって言ってもおかしくないのに。
僕は下唇を噛んで、どうにか泣かないようにした。
馬車の中は、僕のせいで気まずい雰囲気になった……。




