第十三話 絶望の淵
「槍が来るわよ!」
リサが注意を促し、全員が間合いを取ったが、邪神の槍は伸びた。
「ぐっ!?」
「レーネ!」
レーネが太ももをやられ、その場に倒れ込んだ。
「アレは避けても無駄じゃ。必ず命中する。そう言う因果よ」
リーファが言う。
なら、ダメージコントロールをしないとな。
「受け取れ、レーネ!」
俺は千分割のコントロールで極上ポーションをぶん投げた。
「助かる!」
レーネはぶつけられて割れたポーションの青い液体を浴び、重傷からすぐに復活する。
「あかんよ、リム、早く躱して!」
ミネアが注意する。
「ニャ! しまったニャ!」
リムが邪神が振り下ろす斧を正面から防御で受けてしまった。
「ぐっ!?」
リムのHPが一気にイエローゾーンまで削られた。完璧に手斧で受け止めたのに、このダメージ量。
「斧はどんなモノでもダメージを与える。アレで武器が破壊されんとは、お主の用意したオリハルコンとやらは凄いのう」
ダメージはそこそこ大きいが、これなら薬草でも充分だな。
「リム!」
「ニャ! パクッ、ゴックン」
俺のぶん投げた薬草ボール(百束分)を一口で飲み込むリム。だから噛めよ…。
HPの回復のタイムラグを心配したが、すぐにリムのHPバーは満タンまで回復した。
行ける。
俺が邪神ともやり合える感触を得たとき―――
「あっ」
「クロ!」
クロは邪神の鞭を回避したが、槌の同時攻撃を躱しきれない。
俺達の五重の物理バリアはすでに鉄と同等の硬さを得ているが、その青い魔法バリアが次々と破壊されていく。
いかん、間に合え!
「全知全能の神が鍛えし絶対の盾よ、我らを守り給え! アイギス!」
俺は詠唱で伝説級の呪文を使い、最強の物理バリアをクロの前に展開した。
その白く輝く魔法の盾が邪神の槌を受け止める。
ズン! と重力波が生じて空間が揺らいだのが感じられた。
「やった! 止めた!」「やったニャ!」
ミネアとリムが喜ぶが。
「無駄じゃ。アレはいかなるモノも砕くぞ」
「ええ?」
リーファの言葉通り、俺が開発して用意していたとっておき、『絶対の』物理バリアすらもあっさりと砕け散った。
矛盾~。
「ん、ウインドボール!」
ミオが風玉の呪文でクロを槌から引き離そうとする。
だが、その風玉も途中で消滅し、どうやら槌に砕かれた様子。
槌が無情にもクロに迫る!
「クエッ!」
クロが騎乗している白き大鳥、マリアンヌが一声鳴いて地面を強く蹴った。
「あっ!」
消えた!?
動体視力の呪文で強化している俺の目でも追い切れないスピード。
槌がそのまま地面を砕いたが。
「ふう、助かったわね」
ティーナも気が気でなかったようで、ほっとしてため息をついた。
クロはマリアンヌの急激な動きには翻弄された様子。気絶していたため、俺が駆け寄って気付け薬を嗅がせて回復させてやった。
「ありがとうございます」
「いいや。気にするな」
だが、槌の対処方法ははっきりしたな。
躱してしまえばいい。
どんなモノでも砕けると言っても、槌の特性として命中率はやはり悪い様子。
「バッカじゃないの。やられる前にやれでしょ。雨よ凍れ、嵐よ上がれ、雷神と風神をもって天の鳴動となれ! サンダーストーム!」
エリカが『いのちをだいじに』『慎重に行こう』『まずは様子見』『とにかく様子を見る!』という俺の作戦を全て無視して呪文攻撃を行った。
ま、いずれ仕掛けるつもりだったし、呪文の効果も確かめたいところではあったのだが。
「くっ!? 効いてない!?」
完全に無効化されたな。レジストとも違うのだが、変な阻害のされ方だった。
「アレに魔法を使うときは注意せねばならんぞ。なぜなら―――」
リーファが言い掛けるが、すぐに俺は理解した。
邪神が杖を構え、口をパクパクと動かしている。声は出ていないが、俺は邪神が唱えている口パク呪文を正確に理解した。
「同じ雷撃呪文が来るぞ!」
俺はそう言ってレジストのために身構える。すでにマジックバリアは唱えてあるので、出来る事はそれだけだ。
「きゃっ!」
「ぐっ!」
「ニャー!」
「チッ!」
「うう!」
魔法チームは完璧に抵抗してダメージを大きく軽減したが、前衛チームと斥候チームは結構なダメージを食らってしまった。
おいおい、エリカより攻撃力が高いじゃないか。基礎能力値の魔力が百とか有りそうだよな。
「女神ミルスよ、我が願いを聞き入れ給え。大いなる癒やしよ!」
複数の仲間が同時にダメージを受けたので、ここはクレアの出番。俺も二つくらいならポーションの同時投げが出来るが、コントロールが乱れる可能性も出てくるし、無理する必要は無い。
クレアのグレートな魔法は全員指定で発動し、瞬時にダメージを回復した。
さすがに魔力消費も激しかったようでクレアは懐から極上マジックポーションを出しているけども。
「上等! なら、これはどう? 雨よ凍れ、嵐よ上がれ、美しき酒呑の雷鬼よ、黒き浮気者を打ち据えよ!」
エリカが少し変わった魔法文字の呪文を唱えるが。
「ぎゃー!」
なぜか俺もダメージを受ける雷撃呪文。
しかも、邪神の方はまた呪文を無効化してノーダメージと来た。
「エリカ、その系統の魔法は止めなさい」
リサが真面目にストップを掛ける。
「む、行けると思ったのに…」
邪神の方は口をパクパクさせて、呪文のトレースをやったが、俺だけに発動。
「ぎゃー!」
二連続って、勘弁して欲しい。リーファの魔法抵抗が無かったら、生きてないぞ。
高速モグモグでHPを回復させているが、追いついてないし。
「せいっ! くっ? 弾かれた!?」
ティーナがその間に邪神に近づいてレイピアで攻撃したが、それが通らない。
「任せろ! うおりゃ! なにっ!?」
レーネの大剣グラムも邪神に触れることすら敵わず、撥ね返される。
お、おいおい…まさか。
「リム、やれ!」
俺は確かめるべく、攻撃を指示。
「ガッテンニャ! ほいっと! ニャッ!?」
リムの手斧攻撃も弾かれた。
「まずいわね…私のボウガンもダメだわ」
リサのボウガンの矢も命中する寸前で弾かれている。
「うちの投げナイフもあかんな。ショートソードは試すまでも無いなぁ」
ミネアも言うが、物理攻撃が効かない敵なのか?
「クレア!」
俺は最後の望みを掛けて、だが、自信を持って指示を出す。
「はい。――天上の星々よ、燦めく生命の輝きよ、星神の慈しみにおいて天翔る成就とならんことを! ホーリー・コメット」
やはり邪神には聖属性だよね!
どう見ても闇属性の相手、相反する属性なら行ける…はずだ。
どうせなら、大ダメージを与えて瀕死になったところでトドメとして使いたいところではあるが、出し惜しみするまでも無い。極上マジックポーションさえあれば、伝説級の呪文も何回でも使用可能だ。
白く輝く煌めきが邪神に降りかかり、俺は奴の悲鳴を楽しみに待っていたのだが。
「な、なに? そんな、バカな…」
聖属性の伝説級レベルの魔法をもってしても、邪神には傷一つ、付いていなかった。
………。
「ユ、ユーイチ、指示を。どうすればいいの?」
ティーナも今の状況が理解できているからだろう。声が上ずっている。
まずいな、リーダーが狼狽えてしまうと、パーティーの士気にも関わる。
「まだ慌てるような時間じゃ無い」
俺は両手を使って、頼れる男を精一杯演じる。
「でも!」
「シャラップ! とにかく、時間を稼ぐぞ」
攻撃を集中させて相手のレジスト障壁を突破する方法も考えられるが、それだと防御がおろそかになってしまう。
「分かった!」
みんなは俺を信じて従ってくれたが、やべえ、万策尽きてるわ。
何せ、攻撃が全く通用しないんだもの。
「リーファ、お前の力でもアレはダメなのか?」
いつもなら自分から「妾の出番」と言ってくるコイツが黙りなので、こちらから問うた。
「うむ、アレには敵わんかったの。閃光の矢筒ならあるいは、と言うところかのう」
だが、その危険すぎる兵器は俺が封印中だ。いや、正確には故障中なんだけど。修理とか無理。
「悪い、待たせた!」
上からランスロットが飛び降りたのだろう。凄い勢いで落ちてきた。
ドシン! と着地して顔を歪めてるが、無理しなさんなっての。
「ほれ」
後頭部に極上ポーションをぶつけてやり、回復させる。
「痛いじゃないか。合図してくれればキャッチしたんだが」
鎧の飾りの羽が汚れたのを気にした様子で、おしゃれな勇者候補はハンカチで汚れを拭いている。
「それより、上はどうなの、ランスロット」
ティーナが聞く。
「ああ、まだ戦ってるが余裕が出た。ふふ、世界中から名だたる冒険者が集結してるぞ」
ここに集結していた俺達以外にも、まだまだ勇者候補はいたようだ。
「ま、僕が来たからにはみんなは休んでてくれ」
格好良い台詞を吐いて、ランスロットが聖剣を抜く。
全てのモノを切り裂くと言われる神の奇跡。
それは何も邪神アルヴォーシスの専売特許では無い。
伝説のエクスカリバーとなれば、俺達の攻撃を全て無効化した邪神と言えども、タダでは済むまい。
「行くぞッ! 奥義! 『ぶつ切り』!」
しまったぁ! ランスロットの奥義のネーミングセンス、矯正を忘れてたぁ!
これで邪神が倒されてしまっては、もの凄く格好悪い。
イシーダに謳ってもらう際には、ねつ造して技のネーミングを変えさせたくなるくらいだ。
やめて! それで片を付けないで!
そう願ってしまった切実な俺の空気をどこかの支配神が読んだのか。
「なっ、弾かれた!?」
ランスロットの攻撃も通用しなかった。




