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異世界の闇軍師  作者: まさな
最終章 宮廷魔術師

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第十話 劣勢

2016/10/4 ユーイチの受け取るローブに「星のデザイン」を追加。若干修正。

「クリスタニア城、陥落!」

「ヌービア王城とも連絡が付きません!」

「ハイランドのゼノグラーペンより、援軍要請。これ以上は保たないとのこと!」

「アルカディアのマーティネイアより、王城を放棄し、レグルスへ拠点を移すとのこと!」


 天空の城の司令部では、次々と伝令が入っていたが、どれも旗色が良くなかった。

 いや、旗色が悪いどころの騒ぎではない。

 もはや最悪の状況で、今日にも勇者軍勢は全滅しそうな勢いだ。


 どうしてこうなった……!?

 俺はこの状況が未だに信じられずにいた。


 魔王軍との戦いを始めて三週間―――。最初は互角以上に戦っていたのだが、トレイダー帝国が陥落してから風向きが一気に変わってしまった。

 ちょうどその時はユーリタニアの援軍に移動していて、トレイダー帝国の救援に間に合わなかったのだ。

 それでトリスタンと連携が取れなくなり、ワイバーン部隊が魔王軍の空軍部隊に足止めされると、こちらの勇者軍勢は制空権を失い、電撃戦の要である飛空艇も使いづらくなった。

 何しろ敵の数が圧倒的に多い。こちらは装備で勝っているとは言え、連続で戦闘を仕掛けられると疲労が溜まる。サロン草など筋肉痛の薬草は用意していたのだが、疲労回復は薬では難しい。極上(エクストラ)級を使えばすぐに回復できるのだが、そう言う貴重な薬は疲労に使っていたらすぐに足りなくなってしまう。


「くそ、ここまでとはな…」


 俺は自分の甘さを呪った。ハーピー軍団との戦いで疲労の怖さ、大軍の怖さは知っていたはずなのに。


「お館様、作戦を第二段階(フェーズ)へ移行させましょう。人類が生き残れば、それでいいのです」


 セリオスが簡単に言ってくれるが、第二フェーズとは、万が一に備えた頭の体操のようなシミュレーションであって、実際に採れる方法とは言いがたい。

 総人類生存計画において、もちろん俺は全員の生存を理想としているが。セリオスの言う通り、人類が存続できればそれも勝利条件である。

 つまり、天空の城に一部の人間が避難し、後は全員見捨てる(・・・・・・)と言うことだ。

 この計画を提案したのはトリスタンの軍師、アイネ=フォン=オラヴェリアである。

 総人類生存計画は各地の賢者によって補完されている。いくつかの点に置いては俺の理想と異なるモノとなっているが、計画のクラウド化を考えた時点で、それも予想はしていた。


「お前な…それをやったとして、地上はもう取り返せないぞ」


「いいえ、お館様さえ生きておられれば、挽回の余地もありましょう。なんならその子孫でも良いのです」


 天空の城を拡張すれば、収容できる人数も増えるだろう。食料をどうするかという問題もあるが、増えないよりは増えた方が良いに決まっている。

 だが、それは最終手段としたい。


「まだだ。各地には地下シェルターと三ヶ月分の非常食を備えている。それが尽きる直前でも回収は可能だ。天空の城は防衛行動優先で行くぞ」


「分かりました。しかし、準備は整えておきますので」


「勝手にしろ」


「は。直ちにゼノグラーペンへ向かう。ヌービアには飛空艇を出して偵察と王族の回収に当たれ。アルカディアにも飛空艇で援軍を送るぞ」


 セリオスがてきぱきと指示を出すが、挽回と言うよりは対症療法的な行動に過ぎない。


 俺はいったん、指揮をセリオスに任せ、ハイランドに援軍に向かう間、自室で対策を練ることにした。


 どうやってこの劣勢をひっくり返すか。


 新しい魔法で行くか?

 だが、伝説級の呪文を使えるのは世界でも十人程度しかいない。

 魔力消費は気にしなくても良いのだが、同時展開ができるのは十カ所までと言うことだ。


 だが、魔王軍は世界中で攻撃を仕掛けている。百カ所以上だ。

 戦力を集中させ、防衛範囲を絞るか?


 しかし、それも敵軍の繁殖力を考えると、迂闊に穀倉地帯も渡すわけにはいかない。

 ゴブリンやオークは瞬く間に増えてしまうのでさらに魔王軍の数が増して不利になる。


 焦土作戦……これは勝利した後が困るから、最後の手段にすべきだな。


「ふうう…」


 クロとエリカもその場にやってきたのだが、俺に良い考えが浮かばないのだと察して黙り込んでいる。

 ミオが何か思いついてくれれば良いが、彼女は今、天空の城の制御をやってくれているからな。期待はしない方が良い。


 ノックがあり、ティーナが部屋にやってきた。

 メリッサが一緒だ。


「お茶でも飲みましょ」


 そう言ってにっこり笑うティーナだが、こういうところがコミュ力なんだろうな。


「ああ、そうだな」


 俺もすぐ同意して紅茶を一杯、もらう。

 クロやエリカもそっとティーカップに口を付ける。

 このところ、連戦に次ぐ連戦で、こうしてゆったりと時間を過ごすことは無かった。



「私はユーイチを信じてるわ」


 ティーナが紅茶を飲みつつ、そんな事を言い出す。その微笑みに気合いや切迫感などは無い。


「期待には応えたいけど、状況は良くないぞ」


 俺は軽く肩をすくめて言う。


 ここで負ければ後が無い。

 だが、良い手が思いつかない。

 劣勢で時間も限られている。


 宮廷魔術師となり、総人類生存計画の中心にもいる俺は、国家を超えて大勢の人間を動かす立場にある。

 ゲームなら、一か八かの捨て身の攻撃や、実験的な試行錯誤もできるだろう。

 だが、このリアル世界において、やり直しは利かないし、一つの作戦のミスで何百何千という兵士が命を落とす。

 国が滅びれば万単位の民衆がモンスターの餌食となる。

 

 これは遊びでは無いのだ。

 重大な任務だ。

 真面目に、真剣に取り組む必要がある。


 しかも事は慎重に素早く判断しなければならない。

 最善の方策を。

 起死回生の一手を。


 実際、トレイダー帝国の放置は戦略ミスであり、皇帝をすげ替えたり暗殺してでもどうにかすべきだった。

 いや、悔いても仕方ない。それはもう手遅れであり、変更可能な部分では無いのだ。


 ここからどうすれば挽回可能なのか―――


 額に脂汗がにじみ、頭痛がしてきた。


 だが、ティーナは頷くと、こちらに手を伸ばし、俺の手を優しく握ってくれた。


「ええ、それを分かった上で言ってるの。上手く行かなくてもあなたの責任じゃ無いし、ここまで本当に良くやってくれたわ」


 そう言う穏やかな口調のティーナはどこか晴れやかな顔をしていた。



「ま、ポカもいくつかあったが、やれることはやってきたんだよなぁ」


 俺も肩の力を抜いて言う。



 ありとあらゆる最悪の事態を想定し、邪神との決戦に備えてきたのだ。

 リセットボタンがあるとしても、次は疲労回復の薬草を栽培することくらいしか思いつかない。

 それは戦線を維持するのには役立つが、攻勢に出るほどの効果は得られないだろう。


 攻勢―――。

 攻勢!?


「そ、そうか、俺は大事なことを見落としていたぞ!」


 俺はティーカップを片手に持ったまま椅子をガタン!と鳴らして立ち上がった。

 紅茶がこぼれたが、そんな事は気にしてる場合じゃあ無い。


「ええ?」


「中央司令室に行く! みんなもそれを飲んだら来てくれ」


「いえ、すぐ行きましょう!」


「はい!」

「フン」


 クロとエリカもすぐに立ち上がり、俺達は司令室に戻った。


「全員、そのままで聞いてくれ。これより作戦は第三段階(フェーズ)へ移行。邪神の封印を目的とした行動に入る」


 俺は宣言した。

 総人類生存計画は第四段階(フェーズ)まであり、第三段階(フェーズ)で邪神を封印したあとは、各地の復旧復興が最終段階として想定されている。

 邪神の封印は初めから綿密に計画されていたことであったが、状況が劣勢にあることで要諦を失念していた。


「おお、その手が有りましたね。敵の親玉を討ってしまえば、後は烏合の衆です。軍団とならぬなら、モンスターなど恐るるに足りません」


 セリオスも笑顔になる。


 勝利条件は人類の存続。

 そのための条件がいくつかあるが、何も魔王軍全軍と戦う必要性は無いのだ。

 元々この世界にはモンスターが当たり前にいて、人類は常に戦ってきた。生き残ってきた。

 だから、その状態に戻すことが出来れば、人類の勝利である。


 そして、戻すためには邪神を封印する必要がある。


「邪神を探せ! 必ず、どこかにいるはずだ」


 俺は家臣団のブレーン達に命じる。


「ははっ!」


「直ちに各地にも通達します」


「ああ、頼んだぞ、セリオス」


「はっ!」


 俺自身も小型飛空艇に乗り込み、魔法チームも一人ずつで手分けして探知(ディテクト)の呪文を使う。


「いないな…」


 ミッドランド国内にはいなかった。

 条件付けは『邪神アルヴォーシス』、女神ミルスもそう言っていたし、名前に間違いは無いはずだ。


「妾の経験で言えば……その手の悪玉は地下におるのう」


 リーファが言う。


「ふむふむ」


 古き魔剣の経験則だ。別にラスボスが空にいても良いのだが、魔王城の玉座の間やら、ラストダンジョンの最下層と相場が決まっている。


「あっ、ラタコンベか」


 西大陸にあるという超有名な巨大ダンジョン。一層の広さは端から端までが十キロ以上におよび、文字通りの大迷宮である。

 四十九階層までは確認されているが、未だに最下層へ辿り着いた者はいない。

 否、最下層まで行き、生還した者がいない。


 危険すぎると判断した俺は、地下四十九層の踏破されたエリアまでしか部下に行かせていない。俺ももちろん、行ってない。


 すぐにそのまま西大陸へと飛び、ラタコンベの上空で探知(ディテクト)を使ってみたが。


「当たりだ。くそ、やっぱ全部攻略しておかないとダメだったか」


 だが、邪神が復活する前に行っても何も起きなかっただろう。


 時期が来たのだ。


 俺は天空の城に戻り、すぐさま攻略(アタック)チームの選定に入った。



「まず、高レベルで冒険に熟練している者、装備の良い者が第一条件だ」


 俺は言う。


 低レベルはもちろん論外だ。

 高レベルであっても、ダンジョンに一度も潜ったことが無いような騎士や剣士はダメ。

 罠もたくさん有るし、迷宮には迷宮の戦い方がある。狭い場所でモンスターと戦った経験が無いと、馬上戦闘とは勝手が違うから付け焼き刃でどうにかなるモノでも無い。

 装備はオリハルコン・シリーズを与えてやってもいいが、使い慣れた装備が望ましい。これは履き慣れた靴でないと靴擦れが起きるのと同じ理由だ。


「その中で、部隊の指揮を執っている者は除外する」


 そりゃ高レベルを全員投入したいのは山々だが、今も魔王軍との激闘を繰り広げているからな。優秀な指揮官を外す訳には行かないのだ。

 従って、トリスタンのワイバーン部隊のイザベル隊長、アプリコット騎士団のアリシア団長やルフィー、ルーグル王国のロックス、副将軍のルークお兄様、この辺りは連れて行けない。ルークお兄様は超強いんだが、仕方ない。



 その条件で合致する者が直ちに集められ、天空の城の庭に集結した。


「へっ、ついにこの剣でピットとの約束を果たすときが来たようだな。ピットには妹がいてな――」


 聞いてもいないのに、長々と語りを始める『疾風のグリーズ』。緑色の鎧を着た素早い剣士だ。割と防御力も高い。



「やれやれ、私はもう引退したんだがね」


 S級冒険者のアレクサンダー。茶色いマントに身を包み、中折れ帽をかぶった壮年の解説者。短剣を装備した魔法も使う剣士だ。



「我が夫の為ならば、頑張らねばな」


 アーシェ=フォン=バルバロッサ。アーロンのお孫さんで、少しピンクがかった金髪の美少女剣士。俺が作った炎の魔剣『レーヴァンテイン』の使い手だ。

 結婚相手も見つかったようで、めでたしめでたし。お相手は誰なんだろう? ちょっと気になるね。



「やあ、やあ、任せてくれ」


 トリスティアーナ武闘大会の優勝者、『青き彗星、ランスロット』。ちょっと軽い性格のようだが、腕前や戦闘理論は堅実だ。『エクスカリバー』も自分で手に入れているし、勇者筆頭候補と言って良いだろう。青い鎧に羽を付けて、格好良い。



「腕が鳴るな」


 ハウラー子爵。オールバックの髪型で、曲がったことが嫌いな若き武人。彼は冒険も嗜んでいて、レベル上げも真面目にやっていたから頼りになる。ディープシュガー侯爵を討つときにも重要な役割を果たしてくれ、俺に協力的な貴族だ。



「これも神の思し召し。邪神は必ず倒します!」


 異端審問官のユリア司祭。白きローブに身を包んだ聖職者。茶髪のロングヘアの見た目は優しそうな美人なのだが、どうにも職業柄か芸術への理解が不寛容である。ま、今回は本業として心置きなく頑張ってもらおう。



「ほ、ホントに邪神を倒したら、限定バージョンを作ってくれる?」


 俺の盟友のオルタ司祭。いちいち新作はまだかとウザかったので、あちこちのダンジョン攻略を命じていたら、やたら強くなりやがった。



「ハーイ、よろしくネ!」


 オエッ! 紫色のウインク攻撃をモロに食らってしまった。アイシャドーがやたら濃いスカーレット。なぜラトゥール座の演技指導の主任の彼がここにいるのか理解不能だが、革鎧を着て、ダガーを腰に差しているとなると、シーフとしての参加なのだろう。




 そしてもちろん、我らが冒険者仲間(パーティーメンバー)もいる。

 ティーナ、リム、リサ、クロ、 エリカ、ミネア、レーネ、ミオ、クレア、そして俺だ。


「妾も忘れてもらっては困るぞ」


 魔剣リーファも俺の腰にぶら下がっている。くれてやったオートマタ2号ちゃんは飽きた様子で、まあいい。



「おい! 上を見ろ。あそこ、あの飛空艇、まずくないか?」


 誰かが言い、庭の上を見ると、小型飛空艇がスピードを緩めずにこちらに突っ込んでくる。

 まさか、モンスターに乗っ取られたか?


「警戒態勢! 出でよ(サモン)! オリハルコン・ゴーレム!」


 俺は城の防衛部隊を呼び出したが。


「待って! あの人は味方よ!」


 ティーナが飛空艇から降りてきた青いドレスの女性を見て言う。


「ああ、良かった! 間に合ったわ! ティーナちゃん、お久しぶり!」


 貴族のご婦人と言った感じの女性が走って来るが、戦闘員では無さそうだ。ティーナとは知り合いのようだが。


「ええ、お久しぶりです、ステラ叔母様。どうしてここに?」


「これ。うちの人が届けてくれって。ラタコンベの攻略メモよ。うちの人の手書きだけどね」


「ええ? ジャン叔父様、ラタコンベにも潜ったことがあるんですか?」


 ティーナが少し驚いたが、ああ、ファーベル侯爵のお使いを頼まれたのか。ダンジョンの攻略メモはありがたいが、ファーベル侯爵も行動範囲が広いなぁ。


「ええ、うちの人は虫がいると聞けばどこにだって行っちゃうわよ。結婚した私が言うのもなんだけど、あの趣味だけはホント嫌ね!」


 むむ、この人とファーベル侯爵は結婚してたのか。ちょっと驚きだ。


「ああ…ええ、ありがとうございます。これ、ありがたく使わせてもらいますね」


「ええ、虫型モンスター対策はそれでバッチリだと思うわよ。他は知らないけど。それとあなたがユーイチ君ね」


「はい」


「ふふ、ティーナちゃんの隣にいるからすぐ分かったわ。あなたにはコレ。うちの人が若いときに使ってたローブよ」


 真っ赤なローブを手渡された。ううん、赤かぁ…。しかも宝石がちりばめられてて、派手だなぁ。星のデザインがデカデカと。


「ま、見栄えはいいから、式典か何かに使えるでしょう。要らないなら捨てても良いわよ」


「いえ、頂いておきます。ありがとうございます。侯爵様によろしくお伝え下さい」


「ええ。じゃ、私はもう行くわね。このお城、ラタコンベに向かっちゃうんでしょう?」


「ええ、まあ、すぐじゃ無いですけど」


 それでもステラは危険なところはごめんのようで用事を済ませるとさっさと飛空艇に乗って帰っていった。



「じゃ、ランスロットをリーダーとする一軍(ファースト)チームと、ティーナをリーダーとする二軍(セカンド)チームでいいな」


 俺がチーム分けをする。人数的に二つのチームで良いだろう。


「待って。なんで私達がファーストじゃないのよ?」


 ティーナが納得行かないと言う顔で聞いてくるが、分かってるのかね?

 この作戦の一軍チームは邪神と戦闘するんだぞ?


 俺としては総人類生存計画の一環として協力もやぶさかじゃ無いが、露払いだけやりたいんだが。

 一軍が邪神に勝てないようなら仕方ない、二軍が出張って戦う。


 だがそれを聞いてアレクサンダーがニヤッと笑った。


「そりゃ、私らファーストチームが先に道を切り開いて、君たちが無傷で最下層に辿り着き、邪神とやり合う。そういうことだな? ユーイチ君」


「え? いや、アレクサンダーさん、そーゆーコトじゃ無くて――」


「ああ、ごめん、そういうコトね! じゃ、頼むわよ、ランスロット」


 俺がきちんと説明しようとするが、ティーナは勝手に納得してしまった様子。


「ああ、任せておけ。だが、僕らが先に邪神を倒しても別に良いだろう?」


「もちろん」


 ティーナもそこは履き違えていないので笑顔で頷く。

 まあいいか。ランスロット達が先に片付けてくれれば言うこと無しだ。

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