第六話 究極のスライム
2016/11/26 若干修正。
いかにして召喚を使わず、経験値の高いスライムを創り出すか?
俺は知恵を絞り、スライムの突然変異に着目した。
スライムは雑食で、様々な物質をその体内に取り込み、消化してエネルギー源としている。
その過程で、食ってはいけないモノを食うとたまに、突然変異を起こす。
死んでしまうときも多いのだが、最弱のスライムは変異するとたいてい強くなる。
強くなれば経験値も上がるのだ。
これは進化と呼んでいいだろう。
種の進化とは異なるが、個の進化である。
では、その進化を超スピードで連続させて行えば……そう、スライムは超スピードで強くなり、経験値も加速度的に増えていくことだろう。
「ほーれ、スラ太郎、スラ子、ご飯の時間だよー」
初めは気持ち悪かったスライムも今では可愛いもので、愛情をもって接してやれば向こうも自然とエサの時間に反応して寄ってくるようになる。
ティーナに苦情を言われたので、真っ先に消臭の進化を遂げさせ、スライム特有の臭さは無い。
スライムのエサはいろんなモノを試している。
エルダードラゴンの肝、エルダータートルの肝、世界樹の葉、万能薬、ユニコーンの角、飛竜の爪など、良さそうなモノは全部だ。
きちんと分量と与えた種類と順番を記録して、最適解を求めている。
失敗続きだが、それでいいのだ。
一つ失敗して組み合わせの範囲を絞ることで、また一つ成功へと近づいていく。
研究とは地道なモノだ。
「おお、スラ太郎、お前は優秀だな」
スラ太郎は他のスライムとは違い、自分から積極的にエサを選んでいる。好き嫌いの激しい奴だ。
すでにオリハルコン・スライムまで進化しているが、コイツは俺に懐いてくれたのか、逃げたり攻撃したりはしてこない。
フフ、スライムマスター・ユーイチと読んでくれ給へ。
「今日はとっておきのエサを用意してきてやったぞ」
スラ太郎が俺の言葉を聞いて歓喜したのか、プルプルと震える。
「じゃじゃーん、ティーナのパ……オホン、危険すぎるのでここでは物体Aと呼んでおこう。手に入れるのには非常に苦労した。分かるな? スラ太郎」
物体Aは三角形のフリルの付いた絹の布である。純白だ。
タダの絹はもう試しているが効果は無かった。
だがコレならば。
「ほーれ、お食べ」
あくまで使用目的はスライムの進化である。純粋な目的である。
ま、パンツを食わせただけで進化なんてするとは思えないのだが、念のためである。
決して決して、実験にかこつけてイケナイ鑑賞に走ったわけでは無いのだ。
色々と危険なので、クロがいない時にエサを与えている。
すると―――。
「ふむ、やっぱりダメか」
スライムは進化しなかった。物体A、失敗。
ま、そんなもんだろう。
コレで進化したら、怖えよ。
ティーナが無邪気な顔で「ねえ、何で進化させたの?」なんて聞かれても教えられないし。
さて、次は何を食わせようか、俺がそう思案し始めた時―――
突如、バァーンと蹴破るようにドアが開けられた。
「探部(検察)である! 錬金術師ユーイチ、大人しくしなさい!」
「うえっ! ティ、ティーナ!」
凄く危ういタイミングだった。あと数分、ティーナが早く俺の工房に踏み込んでいれば、俺の命は無かったかも知れない。
オーケー、狼狽えるな、大丈夫、すでに証拠は残っていない。
ここは白を切り通せば、乗り切れる。
「オホン、それでロフォール子爵様、この実験室に何用でござろうか?」
俺は笑顔を見せて言う。
「私の城で下着が消えるという事件が起きたわ。犯人はあなたでしょう」
「なっ! 何でそんな決めつけを。仲間を真っ先に疑うなんて酷いじゃないか」
「ふう、理由はちゃんとあるわ。あなたが飛空艇で、わざわざ私の館では無く、近くの森に着陸したことは物見から報告が入っています。それに、正門からではなく、地中から侵入したでしょ? エリカが開発した『警戒』の呪文でお見通しよ」
「な、なんと、そんな呪文が…いや、君の館にこっそり忍び込んだことは認めよう。ちょっと君の普段の領主ぶりが気になったものでね。偵察したんだ。悪かったよ」
「そんな言い訳が通用するのかしら。ミオ、やって頂戴」
「ん」
脇に控えていたミオが一歩前に出る。
「お、おい、何をするつもりだ…」
「ん、観念する。真実を識る目よ、邪な心の偽らざる姿を現せ。トゥルー・オア・フォルス」
ひい。嘘を見破る呪文。エルフの長老が使ってたヤツだ。
レジストすれば簡単に無効化できるが、それでは嘘をついていると自分で言っているようなモノだ。
「ごめんなさーい!」
謝るしか無い。
「パーティー会議を開きます」
「うう…はい」
全員が俺の城に集合し、罪状がティーナから告げられる。
「ええ? そんな事を?」
怪訝な顔になる女子一同。
「ユーイチさん…」
クロの悲しそうな目が、くっ、心に突き刺さる。
「ニャー、ユーイチ、それはやりすぎニャ。パンツが大好きなのはよーく分かるけど」
そうじゃ無い、と言いたくなるが、この場では反論すればするだけ反感を買いそうだ。じっと大人しく耐える。
「ユーイチさん、人の物を勝手に取っていくのは法にも神の教えにも反してしまいます。めっ! ですよ」
クレアが言うが、その通りだ。
「はい」
「言って下されば私がいくらでも――」
な、何だと!
「ちょっと! クレア、そう言うの止めてっていつも言ってるでしょ」
ティーナが怒り出す。
「それで、ユーイチ、目的は下劣で個人的な性的目的ということでいいのかしら?」
リサが確認するが、そこは反論しないとな。
「いや、スライムの進化が目的だ」
「ええ? 何でスライムの進化にそんなモノを…」
「ま、どっちでもいいわ。とにかく、邪な実験で被害が出たんだから、スライムは処分、それでいいわよ」
リサがとんでもないことを言い出す。
「なっ! ちょ、ちょっと待ってくれ。レイピアの刑はいくらでも受けるが、スライムは勘弁してくれ。スラ太郎やスラ子に罪は無いんだ」
「スラ太郎にスラ子って…」
「だいたい、モンスターに愛称を付けてる時点でおかしいのよ。ティーナ」
リサが言うが、別に愛称付けてもいいじゃんね?
「ええ、探部の処分として、また、後見の貴族として申し渡します。ユーイチ、例のスライムは全て処分すること。オリハルコン・スライムについては実益があるからそのままでいいけど、怪しげな実験はもう必要ないでしょ」
「そ、そんな…」
身から出た錆とは言え、あまりの沙汰である。
俺は必死に嘆願したが、ティーナは今回は本気で怒った様子で聞く耳を持ってくれない。
仲間のみんなも呆れていて、擁護する意見は出なかった。
「……ごめんな、スラ太郎、スラ子。こうする他、無いんだ」
俺は緊急用の奥の手として用意していたスライム溶解剤を、二匹のスライムの前の皿に入れて置く。
スライムが触れれば、たちどころに水と化けてしまう劇薬だ。ただし、スライムにしか効果は無い。また、この薬品を使った場合は経験値は入らない。
万一、手に負えないスライムが出てきたときに使う目的で用意していたが、こんな使い方になるとは。
スラ子は、俺が毒など用意するはずが無いと信じ切っていたのか、すぐに皿の上の水に近づき、触れた。
パシャッと、あっと言う間に、スラ子が水になってしまった。こうなったら最後、どうやっても再生や復活は無い。
スラ太郎はそれを見たにも拘わらず、理解できなかった様子で、やはり皿に近づく。
「くそっ、知能も付けてやれば良かった。こんな、こんな…!」
俺は愛情を注いで育てたスライムの最期を見るに忍ばず、その場から走って逃げ出した。
「ユーイチ、処分は済んだの?」
城の部屋に引きこもって、魔法少女を印刷した抱き枕を抱いていると、リサがやってきた。
「ああ、自分の目で確認してくれ。あの実験のスライムは薬品で全て処分したよ。他には残ってない」
「そう。コレに懲りて、変な事は止めるのね」
そうだな、こう言う思いをするなら、スライムを作って育てるのはもう止めておこう。
「ユーイチさん、工房を掃除しておきました」
クロもやってきて言う。
「そうか、ありがとう。スライムは残ってなかったか?」
「はい。一匹も残っていません」
ひょっとしたらと思ったが、やはり片が付いてしまったようだ。ま、それでいい。
「スライムの実験はもう止めるのですか?」
「ああ。釘も刺されちゃったしな。約束でもある。オリハルコン・スライムの量産で事足りるし、今後はそっちで行くよ」
「分かりました。新しいスライムが見られないのはちょっと残念ですけど、それが良いと私も思うので」
「ああ」
何もやる気が起きなくなったので、しばらくぼーっとして過ごす。
「お館様、オルタ司祭がお見えですが」
俺の専属メイドになっているメリッサがやってきて言う。
「ええ? 新作は出来てないから、そう言って追い返してくれ」
「いえ、そう告げたのですが、お館様が落ち込んでいると聞いて、会って話をしたいと」
「んん? まあ、話は聞いてやっても良いが、今はそう言う気分じゃ無いんだよなぁ」
創作意欲はまるで湧かない。
「では、お通しします。本人に直接言ってやって下さい」
「そうだな」
オルタがやってきた。いつもと違い、俺に顔を近づけて新作新作と叫いたりせず、おずおずと部屋に入ってくる。
「オルタ、言っておくが新作は出来てないぞ。このところ忙しかったし、また作るだろうけど今すぐはやる気が起きん」
コイツはしょっちゅうやってくるので、もう俺も言葉遣いや地位も気にせず話す。オルタもそうだ。
「話は聞いたよ、ユーイチ。スライムの件は残念だった」
「いいっての。くそ、誰だよ、構わず話してるのは」
明らかに醜聞なので、口止めしておかないと。
「メリッサに事情を聞いたけど、多分、他には話してないんじゃないかな。うちのお館様は凄い人です、なんて自慢して言ってたし」
「ええ? そりゃティーナの事を言ったんだろう。皮肉だよ」
「いや、確かにユーイチのことを言っていた。色々発明もして、伝説の武具も揃えたじゃないか」
「そうだが、今日のお前はなんか、雰囲気が違うな」
「ハハ、僕も、いつもいつも新作新作なんて言ってないよ。君には色々と世話になってるし、コレでも司祭だからね。相談には乗るよ」
「うえ…気持ち悪いな。お前はそう言うコミュニーケーションは取れない奴だろ」
「そうだけど、人見知りと言うのかな。知ってる相手だと割と気兼ねなく話せるんだ。女の子はどうも慣れないけど」
「ああ…」
なんて言うか、俺の方はティーナ達のおかげで女子に免疫が出来た気がするが、それでもDTの共感を覚えてしまった。
「よし、そうだな。落ち込んでばかりでもいられない。次は動く女の子の人形を作るか!」
俺は思いついて言う。
「おお! それでこそフィギュア・マスター・ユーイチ!」
さっそくオルタと共に、設計や仕様をどうするか、熱く議論を開始した。




