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異世界の闇軍師  作者: まさな
最終章 宮廷魔術師

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第四話 へぼ画家の経済政策

経済政策の話が面白くないと思われる方は、◇◆の印まで読み飛ばして下さい。ユーイチが提言した政策が実施されたという理解で、シナリオは掴めると思います。


2016/10/8 最終章第八話「汚職問題」に解決編のようなモノを追加しました。

 ミッドランド王国は誰かさんの公共工事や消費者のニーズの拡大などにより、空前の好景気を迎えている。

 しかし暴走気味のインフレは放置しておくとなんだかヤバい予感がする。


 そこで俺は王宮にティーナと二人で向かい、宰相や王宮の高級官吏達を相手に現状認識を議論し、対策の提案を行った。



・女性に家事を奨励し、雇用の流動性を減らす

・傾斜生産(基幹産業に集中し、不要な投資は禁止)

・徴兵

・道路建設(うち46%以上を労働者賃金とする)

・住宅建築への補助金

・増税否定

・貯蓄は労働とパンをもたらす。

 『浪費は国家建設のサボタージュである』

・物価ストップ令

・労働時間の制限

・余暇の奨励(スポーツ、演奏会など)

・職業訓練の義務

・社会的に公平な税に

・大規模店の出店を制限して中小店を守る

・中小企業への融資制度を整える

・価格統制により物価を安定させる

・農家を保護



 とある(・・・)国で実際に行われた実績あるインフレ対策である。

 

 女神ミルスと交渉して啓示で教えてもらった。

 彼女は「コレは色々と問題が多いから…」と言って最後まで渋っていたが、今回限りと言う約束でウンと言わせた。

 いつの時代、どこの国の政策かは彼女の要請によりこの世界の人々には内緒だ。

 女神様とのお約束である。


 このうちのいくつかは、すでに俺が試みて失敗に終わっているのだが、提案だけはやっておかないとな。

 通貨の切り下げ、デノミネーションは金貨では難しいと判断して提案もしていない。

 レンテンマルク札を刷れないと言うのは非常にキツイのだが、仕方ない。この世界はまだ紙幣は流通していないのだ。大商人のロバートにも意見を聞いてみたが、俺の借用書と言うことであれば金を出すが、その借用書を他の商人同士が決済に使うことは無いだろうとのこと。

 『T4作戦』のようなヤバ過ぎる政策も止めておく。


 この経済政策のポイントはいくつかあるが、増税によらないインフレ対策は俺の理想と見事に合致する。

 また女性に家事を奨励するのは、むしろ逆の政策を考えていた俺にとっては目から鱗だ。

 社会的に公平な税というのは『言うは易く行うは難し』で、中身が問題なのだが、そこは俺とこの国の良識の範囲で定義することにする。


 労働時間の制限はそのまま実行すると暇人が増加し、治安の悪化をもたらすため、スポーツや演奏会などのレクリエーションとセットでなければならない。

 中小企業を優遇するということは、資本や経営の集中を阻害し、効率の低下や国際競争力のあるグローバル企業の登場も遅らせることとなるが、一方で多数の従業員の生活を安定させることにも繋がる。

 現代日本の中小企業の割合は99%で圧倒的に中小企業が多い。(従業員数の割合は大企業31%、中小企業69%)

 ミッドランドも大きな商会より小さな商会が多い。

 今のミッドランドは国際競争力よりもインフレ対策、国民の生活の安定が求められる。


 中小店を守るというのもその方向性だろう。

 大規模な店が郊外に出店して、品揃えも良いし価格も安いし便利が良いからと、みんながそちらに行き、商店街が潰れたら、今度は大規模な店も赤字になって撤退してしまった―――。

 そんな焼き畑農業のような経済では結局誰も得をしない気がする。

 持続可能な商売をやってもらわないとね。


 住宅建築への補助金はすでに俺達の領地でもやっているが、家を建てると家具の購入も同時に進み経済の波及効果が大きい。

 

 徴兵もネルロみたいな無駄遣いする奴を軍隊に放り込んで慎ましく生活させれば浪費が減るという事だと俺は考えた。

 民衆の反発が怖いから今までは避けていたが、邪神との最終決戦に生き残らないと、意味が無いものな。

 ここは俺も覚悟を決める。


 物価ストップ令は実効性が疑問なのだが、国家がスローガンとして掲げることで人々の意識を変えると言うことでもいいだろう。

 やるだけやってみる感じだ。


 この経済政策が今のミッドランドに適していて成功するかどうかは、誰にも判らない。

 女神ミルスは未来を確率的に予知する事が出来るが、彼女は結果を教えてくれなかった。

 この政策を教えてくれたんだから、どうせ成功しちゃうんじゃないの? とも思えるのだが、かなり渋ってたからな。

 俺が「ヤダヤダヤダ、教えてくれなきゃ勇者も領主も辞めるぞー」という駄々と脅しで引き出したモノだから、下手すると失敗の政策の可能性だってある。

 ミルスにとっては邪神の敗北と人類の存続が最優先事項であり、人々の暮らしはその次である。



 さらに、このとある(・・・)国の経済政策に加えて、ミッドランドでは輸出に力を入れ、重商主義を採用することとした。

 重商主義とは金貨を国内に貯め込むことが富(幸福)になるという考え方で、輸出を多くして輸入をなるべく減らし、自国に有利になるように保護貿易を行うのだ。


 だが、18世紀のイギリスの経済学者アダムスミスはこの考え方を批判し、国民にとっての富(幸福)は輸出によってではなく、輸入品が消費されることによって初めて生じると言う。輸出は外貨を得るための手段に過ぎないということだ。


 一理あると思うが、じゃあ、輸入をガンガンやれば幸せになるのかと言うと、それもね。

 円高の日本は産業の空洞化が言われて久しいが、国内の雇用がどんどん海外へ逃げていけば、オランダ病という他の事例を見るまでも無く、経済にとって悪だと分かるはずだ。

 一方で円高で輸入業者は儲かるし、海外旅行好きの人には幸福をもたらす。『国民』という、ひとまとまりの幸せで判断する事は出来ないのだ。必ず利害は対立する。


 だが、どうするかは選ばなければいけない。ミッドランドでは国外を旅行する者は一般的で無いので、海外旅行という少数派の利益は切り捨て、国内の生産者を重視。

 そのための重商主義でもある。


 あと、ミッドランドがトリスタンより良質な金貨を流通させたことで、どうも金貨が国外へ流出している可能性が高いんだよな。残念ながら外国との取引の統計がミッドランドには無いので実態は不明。

 良貨を流通させた思惑とは逆になってしまったと言うことになるのだが、そうであるなら、対策も取る必要がある。


 これらを宰相を交えて議論したが、おおむね王宮側の賛同を得ることが出来た。


 経済政策はすぐさま実行に移された。

 結果が出るには少し様子を見なければならないが、上手く行かないようならまた考えるしか無い。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 領地に戻った俺はオリハルコンの武具の作成にひたすら取り組んだ。

 何せ兵士に行き渡らせるには数が要るからな。

 可能なら人類の戦士全員に行き渡らせたい。邪神が復活するまでには。

 ロフォール騎士団とヴァルディス騎士団用のモノは鎧は赤色にして赤備えとしている。



「ユーイチ様、また新しい鉱石を見つけましたぞ」


 家臣のマグスが俺の工房にやってきて言う。目が相変わらず怖い。カッと睨まれてる感じだ。


「どんなヤツだ?」


「二つありますが、一つはコレです。アルカディアで見つけました」


 マグスが懐の袋から拳大の鉱石を取りだして見せてくる。


「ふむ…」


 やや褐色の石だが、バームクーヘンのような縞々が付いている。


 それを受け取るが、ずっしりと重たい石だ。さっそく分析(アナライズ)してみる。



【名称】 ウーツ鉱石

【種別】 鉱石

【材質】 ウーツ鋼、岩

【耐久】  5148752 / 5148905

【重量】 2 

【総合評価】 S

【解説】 特徴的な縞模様が入った鉱石。

     頑強でミスリルを超える硬さを誇るが、

     重い。

     また特殊な魔力性質を持っており、

     衝撃を与えると不思議な振動を

     衝撃を受けた方向へ返す。



「んん?」


 解説がちょっと分かりにくいが、何か不思議な力が有るようだ。


「それを床に落としてみて下さい」


 マグスがそう言うので、手を放して鉱石をその場に落とす。

 当然、鉱石は床に落ちる。


 ―――すると。


 キィイイイン、という変わった音がして、石の床がピシッと音を立てたかと思うと、ボコン! と粉々になった。

 鉱石の方は壊れていない。


「うわ、なんだこりゃ。凄いな」


「アルカディアでは呪いの石として放置されていますが、何かに使えると思いまして」


「ああ、これは剣やハンマーにすると面白そうだよな。しかし、どう言う原理なんだ…超振動…いや、波紋?」


 疾走する波紋ッ!と言うことにしたいが、あれは確か生命エネルギーの神秘だったはず。厳しい修行で呼吸法を身につけないとダメだからな。やはり超振動という解釈にしておこう。


 さっそく、アイアンウォールの呪文で鉱石をナイフの形に変形させ、不純物の岩は取り除く。床の石をストーンウォールでブロックに変形させて、試し切りしてみる。


 カツンと、ナイフを石に当てると、やはりキィイイインと音を発して、石が砕けた。


「うん、これはイケるな」


 硬い敵には凄く有効そうだ。ストーンゴーレムとか。


「もう一つ、こちらはクリスタニアの大洞窟のアダマンマイマイという魔物のドロップ品です。ファーベル侯爵から届きました」


「おお、ファーベル侯爵かぁ。あの人には俺が下級騎士の地位に昇進した時に、叙任の儀式で世話になったんだ」


 マグスは知らなかっただろうから、説明しておく。


「左様でしたか。この瓶も一緒に送られてきたので預かっております」


「んん? これは?」


 蛭やウジ虫みたいなのが小瓶の中でうねうねしている。数匹だからまだいいが、ちょっとキモい。


「は、手紙によると、人間に寄生して、宿主が死にかけると傷を塞いでくれるそうです」


「うああああ!」


 寄生虫かよ!

 鳥肌が立った俺は、速攻でデスの呪文を発動させ、瓶の中の虫を殺した。


「ふう。二度と虫は送ってくるなと返事を書いておいてくれ」


「分かりました」


 不死身になれるのかも知れないが、人間に寄生するヤツは色々と危ないから。

 しかし、なんちゅーモノを見つけてるんだか。多分、ファーベルはへっちゃらなんだろうけど、無駄に色んなレベルが高そうだよなあ。



 武器は他にもアクアが見つけてきた隕石を鍛えたり、ユーリタニア国にあると言う上質な鋼を鍛えたり、色々と金に糸目を付けずに各地から色々なモノを集めている。

 邪神に何が有効かは不明なため、どんな相手でも対応できるように準備しておく必要があるからな。


 結果―――。


 世界樹のダンジョンから手に入れた硬い枝からは槍が出来た。

 『グングニルの槍』と名付け、世界樹のダンジョン千五百層全てを踏破(クリア)した『疾風のグリーズ』に渡しておく。 


 隕石から作った剣は鞘から出すと常に炎を纏い、こちらは『レーヴァンテイン』と名付けてアーシェに装備してもらった。

 アーシェも「コレは凄い魔剣だ」と言って感心してくれたが、祖父のアーロンには内緒にしてもらった。もちろん大将軍であるアーロン閣下にもちゃんとしたオリハルコンの剣を献上しているのだが、「こんな凄いモノを作りおってからに!」とド突かれたし。


 ウーツ鋼からは『大剣グラム』

 超振動の追加効果で叩き斬った相手を破壊するとんでもない武器になった。レーネに装備してもらう。彼女も「面白い!」と言って気に入ってくれたし。彼女好みの重量もある。


 ワイバーン部隊隊長のイザベルがトリスタンの港町の近海でサーペイントを発見して倒したのだが、そのドロップから赤い骨が出てきたので、俺が依頼を受けそれを加工してやり、『ゲイボルグ』と名付けた。

 赤い投げ槍だ。

 永久強化(エンハンス)の専用魔法も開発し、命中率を高くし、投げても後で手元に戻って来る仕組みにした。必中とまでは行かないが。

 もちろん、青い鎧とセットだ。


 ユーリタニアの上質な鋼からは現地の鍛冶職人が日本刀によく似た刀を作ってくれた。

 俺が切れ味強化のエンハンスを掛け『村正』と名付けることにする。

 盲目の剣聖グスタフさんに使ってもらう。


 珍しい八本足のユニコーンがいたので『スレイプニル』と名付ける。

 ティーナに懐いたので、彼女の愛馬とした。黒に着色しようとしたら双方から激怒されたので止めておいた。白色だ。


 あと、ランスロットがラタコンベの最下層に近い泉から『エクスカリバー』を手に入れている。

 見せてもらったがエクスカリバーは黄金に輝く剣で、切れ味も尋常では無かった。

 さすがトリスティアーナ武闘大会の覇者、勇者筆頭候補だな。

 頑張れ、マジ頑張れ。

 この世界の未来は諸君の双肩に掛かっている。


あとがき


ウーツ鋼とは別名、ダマスカス鋼とも。

木目のような不思議な模様が特徴的ですが、

実在したものをモデルにしています(超振動の特殊効果はフィクションですが)

古代インドで採れたウーツ鋼を、シリアのダマスカスで鍛えたという刀剣ですが、その技術はすでに失われているとのこと。

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