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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十五章 大魔導師への道

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第二十五話 謀反

2016/9/11 誤字修正。

 大魔導師バルシアンに前衛チームの攻撃が当たらない。

 決して回避が速いわけでは無い。

 瞬間移動でも無い。


 だが、どうしてか、彼を追い詰めることができない。

 いつの間にか見失ったと思ったら、忽然(こつぜん)と別の場所から現れるのだ。


「どうなっているの!」


 何度かそれを繰り返して、ティーナも苛立つ。

 最初は隠蔽(カモフラージュ)の呪文で姿を隠しているのかと思って探知(ディテクト)も使ったが、位置を特定できなかった。リアルタイムで位置を確認するC4Iシステム(イーグルアイ)をもってしてもダメ。


 この呪文の正体を見極めない限り、こちらのダメージは入らないのかと、俺は戦慄したが。


「雨よ凍れ、嵐よ上がれ、雷神の鉄槌をもって天の裁きを示さん! 落ちよ! サンダーボルト!」


「ほほう!」


 エリカのサンダーボルトはバルシアンに必ず命中した。

 姿が見えなくとも、この場のどこかには存在しているので、敵に誘導される性質がある稲妻の呪文ならば、行けそうだ。

 ただし、バルシアンはかなり魔法防御が高く、あまり効いている感じでも無いが。


 ん? あれ、どこ行った?


 またバルシアンを見失ってしまったが。


「ユーイチ! 後ろや!」


「なっ!?」


「穿て! そして巻き付け! 地獄の大地の杖よ! ヨルムンガンド!」


 しまっ―――。


 ほぼ真後ろで、ゼロ距離からの攻撃。しかもこの呪文、大魔導師級で間違い無いはず。

 俺はとっさに俺の持つ最大防御呪文を無詠唱で使った。


 瞬時に俺の体が鋼鉄化し、動かなくなる。


 地面から無数に突き上げてくる尖った岩を鋼鉄の塊がへし折り、弾き返す。


 アイアンメイデン―――。


 それはミオの師匠、鋼の賢者と呼ばれたダグラス=エイフォードが極めた奥義。


 唱えている間は、一切の攻撃ができないが、魔術士の弱点である物理防御を克服したとも言える大魔術。


 鋼鉄と化している間の血流や復帰時の瞬間の状態が凄く気になるのだが、今のところ安全に使えている。

 ただ、魔力消費も激しいし、使いどころは難しい。

 ドラゴンの炎にやられたときに使うと多分、熱でヤバいことになるだろうし。

 それでもアス○ロンは勇者の呪文なのだ。


「そうか、鋼の弟子か。ふう、これは長引くか」


 バルシアンがため息をつく。


「今じゃ! 抜け、ユーイチ」


 魔剣リーファが言うので、俺は彼女を信じて、魔剣を抜いた。


 ブゥウウンと、一気に本気モードを出す魔剣。


「むっ、その剣は!」


 バルシアンもリーファの正体は知っていたようだが。


「たわけ! 遅いわ!」


 リーファが勝ち誇って叫ぶ。

 周囲の魔法抵抗を激増させ、魔法を阻害する効果を持つ魔剣。

 バルシアンの隠遁の魔術も例外では無く、効果が消え去った。


「ほう、素晴らしい!」


 後は剣が切り裂くのみ。バルシアンは自らの体が斬られているにも拘わらずその魔剣の効力に歓喜していた。


 崩れ落ちる大魔導師。


「クリア!」


 リサが宣言。


「「 やった! 」」


 俺達はハイタッチして喜ぶ。


 使徒とディープシュガーという難敵を一気に片付けた。   


 これで情勢は一気に俺達へ有利に動くはずだ。



「王都親衛隊である! 者共、剣を収めよ!」


 王都の治安を守る親衛隊が出てきたので、俺達は言われたとおりに剣を収める。


「ティーナ、これはいったい…!」


 白い金縁の鎧を装備したアーサーがやってきたが、彼はライオネル派閥の次期当主でありながら、今回の作戦は知らされていなかった様子。


「探部(検察)として逆賊ディープシュガーを討ったわ。バルシアンもディープシュガーへ協力した。そう言うことよ」


 ティーナが何でも無いと言う感じで答えた。


「ええ? しかし、相手は侯爵、星部(魔術省)を統べる大貴族だぞ?」


「それがどうしたの? 不正をする相手は、たとえ大貴族であろうと容赦はしないわ」


「ううん…分かった。だが、事情聴取を行いたい。王都の親衛隊の詰め所までご同行願う」


「分かったわ。でも、全員じゃ無くて良いでしょう。配下は戻らせるわ」


「よし、いいだろう。だがユーイチ、君も男爵になったんだ、連行するぞ」


「了解です」


 俺とティーナは親衛隊の詰め所に案内され、だが、丁重な扱いで拍子抜けした。

 ろくに尋問が行われる前にすぐに釈放され、どうやら上から圧力が掛かったらしい。

 国王や宰相の意向だろうな。


 方法に若干の問題があったが、より大きな問題であるディープシュガーは処分されたのだ。


 これで事件は一件落着となるかに思われたが。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「大変よ! ルーガウス子爵が謀反を起こしたわ」


「ええ?」


 ヴァルディス領で王宮から謹慎を言い渡されていた俺は、やってきて告げたティーナの言葉に耳を疑った。


 だって、子爵が謀反って、後ろ盾がいないだろ。


 ラインシュバルト、ライオネル、エクセルロット、アーロン、こう言った大貴族は謀反に加わっていないはず。

 とすると、残ったのはディープシュガーの残党やオズワードの残党だろうか?


 俺はルーガウス子爵の顔をよく思い出そうとした。前に見かけたのは今年の春、トレイダー帝国のダマン城を落とした後、ティーナが申し込んだ手合わせをルーガウスが断ったあの時だ。黒い長髪をオールバックにした若い武人。剣豪ともてはやされているようだが、愛想の悪い奴だったな。


「詳しく聞かせてくれ」


「それが、私も一報を聞いて伝えに来ただけで、詳しい事は何も」


「うーん。どう思う?」


 俺はその場にいる家臣、ジェイムズやセリオスに問う。


「ううむ、ルーガウス子爵は確かに、北部戦線で戦功を上げ、勢いはありましたが…しかし…」


 ジェイムズが言い淀む。


「解せませんね。いくら勢いがあると言っても、所詮は子爵です。アーロン卿が動く理由も分かりませんし、何かの間違いでは?」


 セリオスが言う。


 ルーガウス子爵はアーロンの親戚だそうだが、アーロンが謀反を起こす理由など無いはずだ。アーロン大将軍は王宮に不満のあるそぶりも見せていなかったし、それどころか忠臣と言った感じだった。


「分かった。とにかく、他の大貴族と連絡を取ってみよう」


 伝書鳩を飛ばしたり、飛空艇を使ってあちこちを周り、情報収集に奔走する。

 五日後、アーロン大将軍を含め、どこの大貴族もこれに加わっておらず、ルーガウス子爵の完全な独断であることが判明した。


 それなら、数日の内に鎮圧されるはず。

 そう思い、俺は大人しくして結果を待っていたが。



「アーロン騎士団が鎮圧に失敗したそうよ!」


 再びティーナがやってきて言う。


「ええ?」


 ヴァルディス領では情報が入るのが遅く、どうにも嫌な予感がしたので、俺は飛空艇を出し王都に単身で乗り込んだ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 俺が謁見の間に入ると、貴族達がざわめいた。


「見ろ、ヴァルディス卿だ」


「バルシアン卿を破ったと言うが、それほどの実力なのか?」


「火竜も倒したと言うぞ。ディープシュガー卿の不正捜査でも主要な役割を果たしたそうだ」


「今や飛ぶ鳥を落とす勢いだな」


 前は奴隷上がりとやっかみや馬鹿にする感じだったが、今回は緊張の色が貴族達に混ざっており、雰囲気が違う。謀反、クーデターが発生していると言うことで、そうなのだろうか。

 構わず俺は赤絨毯を進み国王の前に跪く。


「面を上げよ」


「ははっ」


「さて、ヴァルディスよ、余はそなたに謹慎を申しつけておったはずだが、何故(なにゆえ)、ここにやってきたか」


 国王が俺に問う。


「は、国の一大事なれば、臣下として、居ても立ってもいられず、王都王宮の無事をこの目で確認すべく一人押しかけた次第にございます。陛下のご無事を確認しました故、我が目的はすでに果たされました。いかなる処罰も覚悟しております」


「ほう」


「ふふ、殊勝なことよの。だが、今、諸侯に勝手に動かれては国に余計な動揺が走る。その程度のこと、分からぬお前でも無いと思うが」


 宰相が言う。


「は…」


「まあ、良い。兵を動かしてと言うなら容赦はせぬが、単身で様子を見に来たのであれば、大目に見ようぞ」


 国王が言う。


「ははー、ご寛大な処置、恐縮の至り」


「オーバルト、ついでだ。例の件を」


「は、しかし、今は機が熟しておりませぬ故…」


 国王が何か話を向けたが、宰相が渋る。


「構わん。ヴァルディスを宮廷魔術師とし、ルーガウスを討たせる。多少順序が逆になるが、その方が兵も付けやすかろう」


「御意。では、ヴァルディス卿、聞いての通りだ。お前が、先日、不慮の事故(・・・・・)で亡くなった(・・・・・・)バルシアン卿の後任となり、逆賊を討つのだ」


「了解致しました。忠節なるバルシアン卿の遺志を継ぎ、謹んで大役を拝命致します。直ちに討伐軍を編成し、現地に向かいます」


「頼んだぞ、ヴァルディス」


「ははっ!」


 宮廷魔術師の位はバルシアンを倒した事でいずれ手に入るだろうとは思ってたんだが、こうも早いとはね。

 王様もルーガウスの謀反には、かなり動揺したと見える。

 下っ端の俺の使い勝手が良いと言う理由もあるかもしれないが、他の人物を差し置いて俺に討伐命令が下ること自体、ちょっと変だもの。


 明らかに王宮は、他の大貴族の騎士団を動かしたくない(・・・・・・・)んだろう。

 好機と見て新たに謀反を起こされたり反乱軍に合流でもされたら―――なーんてことを心配してるんだろうが、要らぬ心配だ。 



 あまりの出来事に水を打ったように押し黙ってしまったギャラリー貴族を背にして、俺は足早に大広間を退出した。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 さて事は急を要する。

 ヴァルディス騎士団とロフォール騎士団、それにアーロン騎士団だけで討伐軍を再編成する方が勝手知ったる間柄、楽だし早いのだが…。

 これは同時に政治的なセレモニーでもある。


 俺が独走して反乱軍を鎮圧したという形になっても、後がヤバい。国王は急速に力を持つ俺を警戒しても不思議じゃあ無い。

 活躍した英雄のその後って割と悲惨だからな。

 古代ローマの英雄カエサルは最後に暗殺されちゃうし、カルタゴの英雄ハンニバルは亡命に追い込まれた。ナポレオンは皇帝になったが、百日天下で最後は病死。ヒ素による毒殺とも言われている。オルレアン解放を成し遂げたジャンヌダルクは称賛を浴びながら、なぜか異端審問裁判で有罪となり火あぶりの刑。源平合戦の立役者である源義経もそうだ。

 やはり目立ちすぎは良くない。フラグは立てちゃダメ。


 ―――なので。


「アーサー=フォン=ライオネルを呼べ」


 俺は城の廊下でその辺の衛兵に言う。


「はっ!」


 アーサーがやってきた。金髪が白い鎧によく似合うね。見た目は実に爽やかな好青年だ。


「ユーイチ、何の用だ?」


「オホン、たった今、私は陛下より宮廷魔術師の位を授かった。これより討伐軍を編成し、逆賊ルーガウスを討つ!」


「な、なにぃー!? きゅ、宮廷魔術師だとぉおおお!?」


 のけぞるアーサーの顔が面白い。思ったより上の地位みたいね。

 俺が前に勉強したところでは、ミッドランドの宮廷魔術師は魔術研究の指揮を執り、星部(魔術省)は国の魔術全般の儀式を受け持つ。

 星部という名からも分かる通り、占星術もこの世界では魔術の一つであり、国家の重大な方針を決める際にも重要な材料として扱われる。ま、ランダムの占いをバカ正直に報告するのではなく、すでに決定されている方針に対して、占星術師が(もっと)もらしい理屈を後付けするだけの話だが。験担ぎだ。

 他に戦場で参謀のような役割も果たすだろうとは思っていたが、国王の物言いの感じだと、兵を統率し将軍に指示を出せる立場でもあるらしい。

 軍師と言えばピッタリくるかな。


「ついては親衛隊から兵を借りたい」


「えっ? いや、しかし……」


「陛下のご命令である。嘘だと思うなら確認してこい」


「いや、それは確認するまでも無い。その言葉、信じよう」


「じゃ、俺はいったん領地に戻り大型飛空艇を手配してくる。いいか、アーサー、それまでに最低でも一千の兵は用意しておけよ。糧食部隊付きでな」


 ある程度の規模が無いと格好が付かないし。食い物無しで来られても困るし。


「それくらいなら可能だと思うが……」


「ならやれ。時間は無いぞ」


「わ、分かった。すぐ用意してもらう」


「それから部隊の指揮官はお前だ、アーサー」


「ええ? りょ、了解」


 若い奴の方がやりやすいだろうし。親衛隊の隊長って、どうせエリート意識バリバリの頑固者で地位の高い居丈高なおっさんだろ?

 そうで無い可能性もあるが、知り合いのアーサーの方がまだマシだ。


 討伐軍の兵力については他に当てがちゃんとあるのだが、親衛隊も入れておくことにする。

 形式として国王直属の部隊である親衛隊を使って鎮圧すれば、国王の権威も高まると言う物だ。

 タダの保身だ。

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