第十九話 リニア鉄道と、天空の城を作る。
2016/12/2 若干修正。
大神殿は大まかな部分が完成し、あとは細かい装飾や壁画や彫像を残すのみとなった。
あとは画家や彫刻家に任せておけば良いのを作ってくれるはずだ。
大神殿の外周部は正方形とし、一辺の長さは2kmに及ぶ。敷地面積は400万平方メートルだ。
俺の知る限りミッドランド一、東大陸でも最大の神殿だ。
二週間足らずでここまで作ったので、計画を聞きに来たユリアが腰を抜かしてアワアワしていた。フフフ。
さすがにここまでデカいと歩くのがキツイので、乗り物として大トカゲや大鳥やゴーレムを建物内で運用する事も考えている。
もちろん、大神殿の地下にも移動用にあるモノを通すつもりだ。
地下鉄。
地上に鉄道を通すことも考えたが、この世界ではモンスターがうろついてたりするから、頑丈な機関車にして護衛も付ける必要が出てくる。
スピードも障害物や事故の発生を考えたらなかなか出せない。
だが、これが地下なら入り口を警備するだけでモンスターや不審者の侵入や妨害は防げるからな。
もちろんトンネルは石壁や鉄壁の呪文でがちがちに補強しておく。
モグラ型モンスターや崩落対策もバッチリだ。
俺には、ウォール・シリーズの強い味方がいるから、この手の土木作業はお茶の子さいさいになりつつある。
熟練度や土木スキルもガンガン上がるし、楽しいぜー。
魔法チームのみんなにも、セルン村やティーナの屋敷の地下を繋ぐトンネルを掘ってもらっている。
しかも、蒸気機関では無い。
いきなりリニアだ。
ゴーレム発電機はすでに開発しているので、それを車体に積み込み発電させ、あとはストーンウォールで綺麗に整形した磁石を交互に並べれば多分、行けるはず。
飛空艇を手に入れてしまったので、移動手段としてはそれほど必要でもなくなったのだが、一般人や物資を大量に輸送したり、定期航路だと、リニア鉄道の方が便利かもな。
それに何事にも予備の手段を用意して置けば、一方が不測の事態で使えなくなっても致命傷にはならない。
地下トンネルに降りると、ちょうどミオが向こうからやってきた。
「ああ、どうだ、ミオ、そっちは」
「ん、セルン村からティーナの屋敷まで磁石を並べてみた。車体が無いと調整が必要になると思うから、車体も作ってみた」
「早いな…おお、これがそうか」
木製の新幹線っぽいモノが線路の上にある。先頭車両のみだが、先端が細長くなっていて流線型だ。
「ん、設計図通りに流線型。空気抵抗も考えてある」
本当は模型を作って風の流れがどうなるか実験しつつやるつもりだったが、ま、磁石の具合を確認するのが先かもな。車体の形はまた後からでも調整可能だろう。
「どれ、乗ってみるか」
「ん。まだ動かしては無い」
「ああ。じゃ、動かせるのか?」
「多分」
「よし」
俺はすでに浮いている車体に乗り込む。万一、電源が何らかの原因で落ちた場合でも事故らないように、中央部分の列には最初から永久磁石を反発の向きで組み込んである。
車体の床と壁と天井に磁石が組み込まれ、理論上は安定しているが。
不安だなぁ。上手く行くかな。
強力な磁石を使っているためか、俺達二人が乗り込んだくらいでは揺れたりもしなかった。
前側にはガラス窓があり、その前方は明かりの魔道具で明るく照らされている。ま、目視では異変を察知したときにはもう遅いから、探知を使用しつつ運転する予定だ。
後方にはゴーレムと大きな発電機。ゴーレムはパワーがあるから余裕で回せると思うが、もう少し小型軽量化した方が良いかもな。
「やってみてくれ」
「ん」
ミオがゴーレムに合図を出し、ゴーレムがハンドルを回して発電機を回し始める。
「GHAAA!」
ゴーレムは高レベルなのか、勢いよくハンドルを回しているが、一向に前に進まない。
「ん、失敗、ストップ」
ミオが、いったんゴーレムを止めた。
「電流はちゃんと通ってたみたいだな」
俺が言う。その点は分析の呪文を掛けて確かめた。
「ん」
後は磁極の向きと、電磁石の出力が問題か。
「出力の方は、冷却するといいかもな」
詳しい理論は俺も知らないが、超伝導だ。冷やした方が電磁石は強くなる。
「ん。じゃ、やってみる」
再びゴーレムを動かし、今度は氷壁でモーターの周りを冷やしてみる。
「おっ? 動いた」
すうっと、少しだけだが車体が前に移動した。だが、加速せず、そこで止まったまま。
「ん、惜しい」
「磁極の転換が必要だろうな。分かっちゃいたんだが…」
スピードに合わせて交互にN極とS極を入れ替えることで磁極が連続的に引き合い、初めてリニア鉄道になる。N極とS極を入れ替えるためには、電流のスイッチを作って、中央部以外、レールの両端の磁極を逆流させる必要があるが。
複雑な仕組みになりそうで、そこは設計段階でも先送りにしていた。
スイッチ切り替えの仕組みはモーターのブラシにもあるのだが、この回転の仕組み使うとなると、せっかくの浮いた車体にタイヤなんかを連結したりと、不格好になりそうで嫌なんだよな…。
いや? 何もタイヤで無くてもいいのか。
導線をアイアンウォールで引き延ばして、切った先端をゴーレムの肘にくっつける。これでコイツがハンドルを回す度に、スイッチが切り替わる仕組みだ。
「どれ、もう一回」
「ん」
「GHAAA!」
「ストップ、ストップ、タイミングが早すぎだ」
いったん止めさせ、導線の位置を肘の内側に付け替えて、調整する。
「よし、いいぞ」
もう一度。
「GHAAA!」
「おお、進んだ!」
少し進んだところでタイミングがズレ始めたので、また止めて導線を微調整して、具合の良い場所を見つけた。
「おおお…」
「ん、思った以上の加速」
タイムとカウントの呪文で磁石の数を数え、スピードを割り出す。
現在、時速225キロ。
本家のリニアにはまだまだ及ばないが、充分な高速鉄道と言えるだろう。
面倒だからスピードメーターも開発するか。
減速はゴーレムの回転を遅くさせて、上手く停止できた。
「ん、大成功。あとは線路を延ばす」
「ああ、じゃ、悪いがミオ、後は任せて良いか?」
「ん、任せて」
「路線は設計図通りで良いが、何か問題があれば言ってくれ」
「ん、大丈夫」
さあ、次だ。
俺は手の空いた建築家を集め、交渉。彼らも予想より圧倒的に早い工事でスケジュールはスカスカらしい。
「報酬はもちろん、別に払います」
「それはありがたいですが、今度は何を作るつもりなのですか?」
「城です」
「お、おお…」
しかも、飛空石の一番デカい奴を組み込んだ、天空の城だ。
アルヴヘイムにあった城をそのまま持ってくると言う手もあるかもしれないが、変なモンスターが隠れてたりしたら嫌だし。
それに、デザインも一新したいからな。
もちろん、防衛設備もバンバン組み込んで、空飛ぶ要塞にする予定だ。
ただし、ミオは今回使わない。アイツ、ピラミッドにこっそりダンジョンを作ったり、前科があるからな。
俺は知らなかったがエキスパートモードまで用意していて、探索したスレイダーンの兵士が何人も命を落としていた。まったく。
構造の骨格部分は、アルヴヘイムの天空の城を参考にする。コアを探すときに一度魔法でマッピングしているから、だいたいの構造は把握している。
外観はトニーら建築家に任せ、見る者にため息をつかせる芸術的なモノとした。
予算は大神殿が思った以上に安く出来たので、多分足りる。
足りない場合も考えて、俺は次の金策に取りかかった。
製本だ。
紙はある。印刷用の活版も鉄壁の呪文を使えば楽ちん。
ならば作るしかあるまい。
ただし、それだといちいち魔法チームが作業しないといけないので、普通の活版印刷も作り、技術を職人に教えるつもりだ。
これでこの世界の教育水準と識字率は劇的に向上し、人類のパワーアップに繋がるのは間違い無い。
「失礼します。ヒーラギ男爵がここにおられると聞いたのですが」
偏屈そうな青年が工房にやってきた。
「君は?」
「トーマスです」
俺が採用した人材の一人だった。
「おお。じゃ、ちょうど良い、俺がヒーラギ男爵だが、活版印刷の機械を考えてくれないか」
「それはどう言うモノなんですか?」
俺は紙に図を書いて仕組みを説明していく。
「なるほど、これだとインクを鉄の板に塗れば、何枚でも写本が出来ますね!」
すぐに仕組みを理解したトーマスはやはり使える人材だ。
モーターやゴーレムも見せてやり、自動で印刷が回るように仕組みを考えさせる。
他に、単なる作業員をセルン村の手の空いた者にやらせて、まずはグランハード英雄王物語の第一巻を百部ほど印刷してみた。挿絵も俺が描いたのを付けて、文字だけじゃつまんないからな。
「出来た!」
完成品の検品も怠らない。エルやトゥーレにも手伝ってもらい、きちんとチェックしてから飛空艇で王都に運ぶ。
貴族や商人に打診してみたが、紙質が良いし、字も綺麗なので、飛ぶように売れた。
一冊百ゴールドで売ったのだが、あっと言う間に一万ゴールドの売り上げだ。日本円で二百万円である。
千ゴールドでも行けるか?
「フヒッ、ウヒヒ、ヒヒヒヒ」
笑いが止まらんー。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「次はワインだ!」
高値で売れると言ったらやっぱりこれだ。
ケインら騎士団を輸送用の大型飛空艇に乗せ、スレイダーンの王宮に強行着陸する。
「な、何奴だ!」
「出会え! 出会え!」
「なんだこの大きなモノは…!」
慌てふためくスレイダーン兵にスピーカーの呪文も使って一喝する。
「静まれ! 我が名はミッドランド王国のユーイチ=フォン=ヒーラギ男爵である。今回は交渉に来た!」
「交渉だと?」
「構わん、やってしまえ!」
スレイダーンの騎士隊長が命令を出すが。
「待て! 私が話を聞きましょう」
うえ、コーネリアスかぁ。前線にいるはずだと思っていたが、今日は王宮の方にいたか。
この切れ者の公爵嫡子だと手強いが…。
まあ、仕方ない。条件が美味くなければ、諦めるとしよう。
王宮の一室に通された。スレイダーン側の護衛は四人。こちらは十人だ。
「それで、何の交渉でしょうか?」
白髪のコーネリアスが無表情のまま問う。
「ワイン用の葡萄の木をいくつか、頂きに上がりました」
「ワイン? そんなもの、どうするおつもりか」
「育てて、ワイン造りをしようかなと」
「ううむ…ま、賠償金がそれでいいというのなら、手配しますが…」
「いえいえ、勘違いはしないで頂きたい。これは賠償の交渉ではありません。ヒーラギ男爵に対するそちらの友好を示すチャンスだと受け取って頂きたく」
「なんだと!」
護衛の兵がいきり立つが、コーネリアスが無言で手で制した。
「これは明らかに脅迫です。そのような手段で友好など育めるとは思えませんが」
「そうですか、それは残念です。ならばこちらとしても後はスレイダーン流でやると致しましょう。帰るぞ」
「はっ」
席を立つ。
「お、お待ちを」
コーネリアスが慌てて止めた。ま、当然だろうな。今回の戦ではスレイダーン側は敵に損害を与えられずに惨敗、飛空艇での輸送力も見せつけたから、今、ミッドランドと開戦を望むはずが無い。
少なくともコーネリアスはそういう計算が出来る男だろう。
「では、条件を飲んで頂けるのですか?」
「致し方ないですね。ただし、今回限り。それから、友好と仰ったからには、それなりの誠意を見せて頂きたく」
「結構。今回のスレイダーン側のロフォール侵攻に対して、私、ヒーラギ男爵は、一切の遺恨を申し立てないことをここに誓いましょう」
「ミッドランドの王宮にも手を回して頂きたいが」
「さすがに、それは無理というモノです。私は一男爵に過ぎません。ですが友好の証として、私が親しくさせて頂いているラインシュバルト侯爵には話を通しておきましょう」
「よしなに」
そのままルバニア領に行くつもりだったが、コーネリアスも同行するという。お付きの騎士がしきりにおやめ下さいと止めていたが、度胸有るよなあ。このまま俺が拘束してミッドランドに連れ帰って人質にだって出来るのに。
「いいえ、私が約束したこと、事の顛末は見届けねばなりません」
律儀な人物だ。
護衛は四人に制限し、コーネリアスを飛空艇に乗せてやった。別に飛空艇の中を見せてやっても構わない。軍事機密としては飛空石の存在だな。スレイダーンにはこんな飛空艇を作る技術など無いだろう。
「これはいったい、どのようにして空を飛ぶのですか?」
多少は驚いている様子だが、相変わらず落ち着き払っているコーネリアスが俺に問う。
「私の魔術ですよ。ふふふ」
飛空石は内緒だ。いずれ、アルヴヘイムから技術が拡散していくだろうが、トリスタンと国が離れているスレイダーンに飛空艇や飛空石が伝わるのはかなり先のこととなるはずだ。
「ううむ、それは凄いですね……」
渋い顔になったコーネリアスは、俺の力を恐れて、暗殺もしてきそうだよなあ。これ以上の自慢は止めておこう。
「ああ、そうそう、コーネリアス卿、少し、重要なお話が」
コーネリアスには邪神の存在を伝えておいた方が良い。
「む。賠償交渉であれば、これ以上は交渉出来ません。私には本来、外交をやる権限も無いのです」
「いやいや、賠償とは全く関係が無いのでご安心を。お互い、面識がありますし、ここは情報提供で友好の印として受け取って頂きたく。私は女神ミルスの啓示を受け、邪神の復活を知らされました」
「なに? 邪神ですか…」
「ええ」
ルバニアに到着するまで、事情を詳しく話しておく。
「―――とまあ、こんな話です」
「そのような事が。ううん。分かりました。国王陛下にもお伝えし、ミッドランドとは和議の交渉に入るよう、具申しておきます」
「ええ、それがよろしいでしょう。人類は邪神の前には、協力し合うべきです」
「ええ」
邪神がいなくなれば別に敵対して良いよと、言外に伝えておく。そうじゃなきゃ、向こうも色々と先のことまで考えて協力を惜しみ出すかもしれないからな。
ルバニア領に着陸し、コーネリアスがルバニアの領主と話を付け、俺は百本ほど、葡萄の木を選んでアースウォールで土ごと引っこ抜いて飛空艇に積み込んだ。
分析で良質の木だけ選んだが、それを見ていたルバニア領の農夫が渋い顔をしていた。ま、千本近くあるうちの百だったから、大目に見て欲しい。葡萄は一から育てるとなると何年もかかってしまって、すぐのことにはならないし。
「ふう、上手く行きましたね」
ケインも敵地に乗り込むとあってヒヤヒヤだったようだ。もちろん危険はあったが、負け続きのスレイダーンはミッドランドに強行に出られる状態じゃなかったし、あくまで俺は交渉に向かっただけだからな。
「じゃ、木を植えるぞ」
セルン村の何も植えていない畑の一角に、葡萄の木を植え、水と肥料も撒いておく。
ふふふ、収穫が楽しみだ。
ま、素人のにわか葡萄作りだから、失敗する可能性の方が大きいと思うが、元手はタダ、こちらは損はしてないし。
ワイン造りの専門家も探して雇っておくか。
後は……
「あ! そうそう、危険人物は立ち入り禁止だ。ちゃんと警備するんだぞ、ケイン」
「了解であります!」
ネルロ、ベリル、リム、アクア、マリアンヌ、こいつらを入れた日には葡萄酒を作る前に葡萄が無くなっちゃうからな。
現実のリニアはもっと複雑で、レールの左右のコイルが電線で連結され、車両が左右のどちらかに寄ると、近づいた側には反発、遠ざかった側には吸引力が働く仕組みだそうです。




