第十七話 ロフォール領の結果報告
2016/12/2 若干修正。
結論だけを言うと、俺達は間に合わなかった。
「そんなバカなッ! ケイン! 嘘はダメだぞ」
俺は怒りを込めて言う。
「い、いえ、信じられないのも無理はありませんが、お館様、事実ですから」
「そんな言葉、信じられるものか! スレイダーンの兵数は一万二千だったんだな?」
「はい。騎兵五百と、歩兵一万一千、糧食隊が五百、総勢で一万二千です。対するこちらはロフォール防衛騎士団が一千二百、ヒーラギ騎士団が三百五十、アーロン騎士団が三千五百、カーティス騎士団が千五百、ヘイグ男爵の援軍が八百。総勢で七千三百五十でした」
戦力としては負けている。
二倍までとは行かないが、それに近い数字だ。
「それで、こちらの負傷者は?」
「戦闘中は負傷していたのですが、戦が終わったときには全員、薬草で回復したので、ゼロです」
「死者は?」
「ゼロです」
「いやいやいや…致命傷とか、あるだろ? 一撃とか」
「普通はありますが、空軍が敵の位置を先んじて把握していたため、一方的な奇襲に成功しました。敵は戦意もほぼ喪失していたようで、まともに戦うこともせずに敗走したわけで……」
「うーん。まあ、そこは後で調査するが、ひとまず、ここセルン村は無事だったし、良くやった、ケイン」
「は、ありがたきお言葉」
「いや、俺は王様じゃないんだし、今まで通り、言葉遣いは適当で良いぞ?」
「はあ」
「兵士の前ではビシッとな」
「はい、それはもちろん」
ま、普段からビシッとしてないと、付け焼き刃じゃ、どうせボロが出るんだろうけど。
「じゃ、ちょっとセルン村のみんなの様子を見てくる」
「はい、みんなユーイチ様が帰ってくるのを首を長くして待ってましたよ。美味しいモノが食べられないって」
「それは俺じゃ無くて料理を、だな。まあ、いいが」
「ああ、でも、みんな本当に心配してましたよ。無事に帰ってくればいいなって」
「ふむ」
俺はセルン村のみんなを心配し、セルン村のみんなは俺の心配をしていたか。
お互い、大事な存在と言うことで、絆も生まれてきたのかも知れない。
いや、どうだかね。
とにかく俺はケインを連れて、ジーナ大ババ様の家に向かった。
「あっ、お帰りなさい、ユーイチ様」
エルがちょうど家にいて、俺が帰ってきたと聞いて家で待っていてくれた様子。
うん、待ってくれている人がいるって、なんかいいね。
しかも、水色の髪のお下げの美少女とくれば、お風呂か食事か私の三択を出してもらいたいくらいだ。
「ねえねえ、お土産は? お土産」
コイツはいらんけど。茶髪のチャラい感じの女。
「ほれ、ベリル、お前にはこの指輪をやろう。土産だ」
天空の城で手に入れた財宝の一つを渡してやった。魔力ゼロの単なる装飾品で、貴金属ではあるが、俺にはあまり価値が無い。
「わっ! ええ? それって婚約指輪なわけ? ちょっとちょっとぉ、大人しい顔して割とやるときはやるじゃん!」
「アホ、単なるプレゼントだ。婚約指輪なんかじゃないぞ。やっぱり別のにするから返せ」
「ヤダ! もうもらったもんー、キャハハ」
ベリルがそう言って、笑いながらサッと逃げていく。うぜぇ…。
「おい、俺の指輪はねえのか?」
「ネルロ、お前は別に指輪なんか欲しくないだろ。今度、代わりに肉を食わせてやる」
「おお! 約束だぞ、ユーイチ! そうだな、またあのレストランがいいな」
贅沢を覚えさせすぎたか。農民は生かさず殺さず、だったな。最低でもマナーを覚えてもらわんと、あそこに連れて行く気にはなれん。
ま、生産は上がってきたから、マナー講座でも開いて『農民も活かして殺さず』、ネルロにも高級肉くらい食わせてやるか。
「俺の留守中、問題は無かったか?」
そう聞いたが。
「な、なんもねえぞ?」
オイ。今、あからさまに動揺しただろ。
「何があった?」
ネルロでは無く、隣のエルに聞く。
「それが、スレイダーンが攻めてきたって聞いて、ネルロったら森に逃げ出しちゃって」
「んん?」
「い、いや、敵が近くにいないか、確かめに行っただけだっての。別に怖がってじゃねえよ」
「そうね。私がそっちは北だから、スレイダーンの来る方だって教えたら、今度は南に向かって逃げていったけど」
エルがジトッとした目で言う。
「ぐぐぐ」
「ネルロ、お前は体格が良いんだし、レベルも結構高いんだから、率先して村人を守らないとダメだろ?」
「そう言われても、俺ぁ、兵士じゃねえんだよ」
「ま、そうだな、評価は下げるが、罪には問わないでおいてやる」
「ええ? 罪って」
「敵から逃げたら罰を受けるの知らなかったの?」
エルも敵前逃亡罪くらいは知ってる様子。
「な、なんだと…い、いや、知らんぞ」
「じゃ、覚えとけ。そうしないと戦にならないからな。ま、俺は民間人や非戦闘員に戦わせるつもりは無いから安心しろ」
「ああ…」
「大ババ様、ただいま戻りました」
他に喫緊の報告は無いようなので、きちんと正座して挨拶。
「うむ。して、そっちの首尾は上手く行ったのかえ?」
「ええ、無事に用事を済ませてきましたよ」
この場にはネルロがいるので使徒の話は止めておく。また逃げ出しそうだし。
「そうか。なら、ご苦労じゃった。村もこの通り、無事さね。畑の種類も増えて、収穫も増えておる」
「それは何より」
「すべて、お前さんのおかげじゃ。いや、男爵様じゃったの」
「ああ、そこはお気になさらず」
「そうだぜ、クソババァ、ユーイチと俺らはツーカーの仲だしよ」
などと馴れ馴れしく首に手を回してくるので。
「親しき仲にも礼儀あり、と言うぞ。ケインッ、この不届き者を一日、屋敷の牢にぶち込んでおけ。罪状は長老と男爵に対する侮辱罪だ」
「はっ!」
「お、おいぃ! じょ、冗談だよな、ユーイチぃ! 俺は狭くて暗いところはダメなんだって! か、勘弁してくれ!」
ケインの部下の兵士二人に引きずられていくネルロ。
「アレで少しは反省してくれるといいんだけど」
エルが肩をすくめるが、ま、しばらくは大人しくするだろう。
ついでに、セルン村に牢屋も作ってしまおう。ネルロ用という訳でも無いが、拘束が必要な時もあるだろうからな。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺はティーナの屋敷でぐっすり眠ったが、やはり、住み慣れた部屋のベッドが一番良いわー。
マットに適した植物を下に敷き、布団も羽毛に変えている。シーツももちろん高級品だ。
目覚めも快適。朝の十時だ。
思い切り背伸びをして、黒いローブを着込み、食堂に行き、リムやレーネと一緒にのんびりと朝食を取る。
「ユーイチ、しばらくはロフォールにいることになるのか?」
レーネがパンをかじりつつ聞いてきた。
「ああ。ミルスの話じゃ、しばらく遠征は無しだ。ま、国王陛下から領地をもらったら一度そこへ行かないと行けないが」
「ふむ、そうだな。ま、その時には付き合ってやろう」
「うん、ありがとう」
「ユーイチ、デザートが欲しいニャ!」
「ほれ」
リムに猫の実のお代わりを出してやり、俺は食事をゆっくり味わって食べる。
人間、余裕が無いと良いアイディアなんて出ないからな。
「さて、まずは大神殿を作るか」
クレアと約束したし。それに聖水を販売するのに、観光のお土産として付加価値を付けるのがベストだと俺は判断した。聖地になれば、巡礼者も大勢ここにやってくるに違いない。
金策だ。
三千二百万ゴールドを今回の冒険の分け前としてもらっているが、予算は多ければ多い方がいいからな。金は腐らない。
世界一のドでかい大神殿を作ってやる!
もちろん、デカいだけじゃなくて、きちんと芸術的価値も高い物にするつもりだ。これはヒーラギ男爵やロフォール子爵の名声を高め、ミッドランドの神殿関係者にも恩義を売るためである。邪神との戦いで各国の指導者に影響力を及ぼせるようにしておかないと、作戦も準備も上手く行かないだろうしな。
そのためには何が必要か?
資金や建材は余裕だ。いざとなれば石壁や鉄壁の呪文でいくらでも建材は出せるし、ゴーレムも使える。
今回の遠征で手に入れた大量の世界樹の葉も、貴族や大商人達に生き返りの効能の噂を裏で流して高値で売りに出したのでかなり儲かった。ヒヒ。
だから本当に必要なモノ、それは優れた設計者だろうな。
建築物、特に巨大なモノになれば当然、専門知識や熟練の経験が必要になる。
どこぞの馬の骨とも知れない奴に任せるわけにはいかないのだ。
だが、どうやってそれを探すか。
公募はやりたくないんだよな。たいてい、そういうのに応募してくるのは、目立ちたがり屋だったり、仕事が来ない無名だったり、実力が足りない連中だ。
真に実力があれば、ひっきりなしに仕事の方から舞い込んできて、いつも忙しくしているだろう。
そういう忙しい人物を探せばいいわけだが、生憎と俺にはこの世界の建築に関する知識は無い。
詳しい奴を探してみるか。
「あっ! ユーイチ、遅い。決裁が溜まってるんだからね!」
ティーナの執務室に行って聞こうとしたら、俺を見るなり指差してくるし。
「オホン、ロフォール卿、確かに私はあなたの部下ではありますが、自分の家のことはご自分でなさって下さい。私はもう済ませましたよ?」
落ち着き払って言う。俺はヒーラギ男爵として国王から正式に爵位をもらったし、ティーナの直属の家臣というわけでは無くなってるからな。
「くっ、だってそれは、あなたはセルン村の一つだけでしょ。こっちは街が四つに村は十七もあるのよ?」
「だったら、執政官なり補佐官なり、人を雇えよ」
「ううん、でも、自分でやらないと、タールみたいなのが来ても困るじゃない」
「そうだが、報告書を出させて、定期的にチェックしてれば大丈夫だと思うぞ」
うちはエルとトゥーレとジーナ大ババ様に任せておけば、まず問題無い。
「…ええ、考えておくわ」
「それで一つ聞きたい事があるんだが、ティーナ、この世界の有名な建築家って知らないか?」
「ええ? 私はそう言うのはちょっと…知らないわね」
「そうか。うーん、誰に聞けば良いかな。本を調べるのもちょっと面倒なんだが」
「何を建てるつもりなの?」
「大神殿」
「ああ、そう言えばクレアと約束したって言ってたわね。じゃ、神殿の人に聞いてみたらどうかしら?」
「おお、それもそうだな。や、邪魔したね、お仕事、頑張って」
「むぅ、手伝ってくれないんだ…」
「悪いが、俺も忙しいんだ」
「ふう、仕方ないわね、よし!」
気合いを入れたティーナは、頑張るなぁ。きっと彼女は名領主となることだろう。うんうん。
俺は適当でいいや。
「建築家、ですか…フランジェの建築家に伝手はあるのですが、様式も少し違うと思いますし、ミッドランドの建築家がいいかもしれませんね」
神殿関係者であるクレアに問うたが、そんな答えが返ってきた。ま、それも道理だな。
だが、俺はミッドランドの神殿で知り合いってのは…いや、いたか。
「と言うわけで、ユリア様、コレも何かの縁、手取り足取り、ご指導頂けると、ぐひひ」
「むっ…私はあなたがおかしな事をしてないか、監視の任務に就いているだけで、馴れ合いをするつもりは一切ありませんから」
異端審問官のユリアがちょうどロフォールの神殿にいると聞いたので、俺は頼みに来たのだが、なんだかつれない感じだ。
「これもミッドランドの神殿、ファルバスの神々とその信徒のためですぞ?」
俺も真面目ぶって言う。
「む。あなたの目には邪な心を感じます」
人を見る目があるなあ。
「仕方有りません。ですが、王都ヴァイネルンの大司祭へ大神殿の計画はよろしくお伝え願います」
「ううん…、報告はしますが、許可までは…」
「いえ、私が領主として建造し、そちらに寄進するわけですから、フッ、許可など」
ちょっと小馬鹿にしたように言ってやる。そこは勘違いしてもらっちゃ困るもんな。
あくまでこの計画の主導権は俺が握る。金を出すのも作るのも俺だからだ。
下手に口出しされると計画が迷走しかねないし、おかしな利権がらみで変な業者をねじ込まれても困る。
「っ! それは勝手が過ぎるのではありませんか?」
「そうですか? ま、出来上がったモノをご覧頂いてコレは要らないと言うことでしたらどうぞお断り下さい。私はフランジェの大司祭にも伝手がありますので」
お墨付きは別にフランジェの大司祭から受けても良いし、最悪、クレアに神殿の名主となってもらえばいい。
「ええ? ううん……と、とにかく、上には伝えておきます」
自分には判断が付かないと思ったか、ユリアもそう答えた。
「はい、ありがとうございます、フフフ」
可愛い女の子にプレッシャーを掛けるのは楽しいね!
だが、目的は半分しか達成できなかったので、ちと困った。
ま、建築家についてはヴァネッサにお伺いを立ててみてもいいか。大工なら何か知っているかもしれない。
そう思ってセルン村に行くと。
「おお! ユーイチ様、し、新作はまだですか!」
むさ苦しい小太りの司祭が興奮したように俺の下へ走り寄ってきた。
「ああ、オルタ司祭、まあ、あなたでも良いんですがね…」
コイツも一応、神殿関係者だし、何か建築家について知っているかも。知らなくても、他の司祭に聞いてもらうとしよう。
「ん? 何がですか?」
「ま、じゃあ、せっかく来て頂いたのだし、お茶は出しますから、応接室の方へ」
オルタを俺の工房の隣に建てた応接室へと招き入れる。




