第十五話 天空の城
ペーターの親父さんの情報通りなら、アルヴヘイムの東北東20キロの地点にラピ○タは存在する。
「本当にお城があるのかしら?」
ティーナはまだ信じていない様子だが。
「ま、探すだけは探してみればいいでしょ」
と、リサ。
「そうね」
「おっと!」
ぐらっと機体が揺れ、俺は慌てて操縦桿を左に倒して機体の安定を取る。
ぐぐぐーっと風に流されるが、ふう、なんとかなった。
「アテンションプリーズ、当機は現在、乱気流の多い空域を飛んでおります。乗客の皆様はシートベルトを腰の低い位置にしっかりと着用して下さるようお願い申し上げます。今日もユーイチ・エアー・フライト、UAF一便をご利用頂きまして誠にありがとうございます。私は当機の機長ユーイチでございます。皆様のお手荷物は上の棚などしっかりと固定される場所にお入れ下さいませ。携帯電話など電波を発信する電子機器の使用や化粧室での喫煙は法律で固く禁じられております。ご注意下さいませ。また法律により機長の指示に従って頂けないお客様は空から放り出すのでご注意下さい。では、ただいまから非常設備のご説明を申し上げます。安全のしおりが前側の椅子のポケットに入っております。早めにご確認下さいませ。お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか? とお呼びすることもございますので、回復役の方は速やかに手を挙げて頂くようお願い申し上げます。当機はアルヴヘイム発、天空の城行きでございます。現地到着予想時刻は午前九時、現地の天候は不明、お降りの際は忘れ物などございませんよう、お気を付け下さい。それでは快適な旅を」
「「「 長い! 」」」
チッ、ワガママな乗客だ。
「ミオ、レーダーの様子はどうだ?」
そんな高度なモノは付けていないが、気分だ。ミオには探知の呪文で周囲を探ってもらっている。
「ん、周囲に問題なし。南東に鳥の群れがいるけど、離れて行ってる」
「おお、鳥はヤバいからな、気を付けないと。バードストライクでエンジントラブルを起こしたりコクピットの視界不良を招くおそれがある。ま、この飛空艇なら問題無いんだけど」
「ん」
「雲の中を飛んでるなんて不思議ですね」
クロが弾んだ声で言う。そうだろう、そうだろう。いつもモンスターとの戦闘で殺伐としてるから、こう言う息抜きも必要だ。
「天空の城についたら、もっと良い景色が見られるぞ、クロ」
俺はニッとして言う。
「わぁ。早く行ってみたいです」
「いつも思うけど、ユーイチは天空の城には一度も行ったこと無いのよね?」
ティーナが確認するが。
「無い」
「この男は…」
リサが呆れた声を出すが。
「うるさいな。俺はペーターの親父さんを信じるし、わざわざ女神様が啓示をお出しになったんだ、良い景色で無いわけが無い」
「はいはい」
「言っておくけど、私達は使徒と戦いに行くんだから、そこ、忘れないように」
リサが釘を刺してくるが、俺だってそこは忘れちゃいないさ。
「分かってる。あと、城に着いたら例のキーワードは絶対に使っちゃダメだ。分かってるな?」
三文字の恐ろしい滅びの呪文。
「分かってるけど、なんでそんなに天空の城について詳しいのかしら? 変なの」
ティーナが肩をすくめるが、ふふ、ま、日本人なら天空の城は知ってて当たり前だ。ゲームの方でも出てくるしな。
「ん、ユーイチ、反応有り。二時の方向」
「よし、ナイスだミオ」
出発前に時計方式の方角を教えておいた甲斐があった。
俺は操縦桿をゆっくりと倒し、ワイヤーで繋がっている補助翼を動かす。フライ・バイ・ワイヤ方式―――では無い。アレは電気信号にいったん変換して遠隔装置を動かすモノだからな。
だからこの機体を操縦するには結構な力が要る。
操縦桿を大きめにして力が伝わりやすいよう工夫はしたが後はレベルによる力業だ。ペーターの親父さんの設計より一回りデカい分、補助翼も大きくなり、力も必要になっている。
「あっ、城が見えたわ!」
ティーナが言い、コクピットのガラスの向こうを俺も目を凝らして見る。
え? どこ?
空しか見えないんだが……。
仕方ないので、俺は探知を使う。ああ、見えた。ティーナの奴、よくあんな小さいのが見えるね。
そちらへ進んでいくと、城は次第に大きくなり、風も強くなってきた。雲に包まれていないのが残念だったが、風のバリアは本当に有りそう。
カタカタカタカタと機体が揺れてくる。
「どう、ユーイチ、大丈夫そうなの?」
リサが聞いてきたが、ううん、設計上、呪文で強化もしてるし、かなり激しい風でも空中分解は無い、はず。
「分からん。風で飛ばされると、呪文で補助してどうにかする必要があるけどな」
「ええ、それは魔法チームを頼りにしてるわよ」
「ああ」
「任せなさい!」
エリカが腕まくりしてやる気を見せるが。
「あんまり呪文の無駄遣いはするなよ? 戦闘になるだろうからな」
俺はそう注意しておく。
「む、分かってるわよ、フン!」
ガタガタガタガタと、さらに揺れが激しくなってきたので、俺は指示を出してエリカに風呪文を使ってもらい、それで機体を安定させた。
「よし、抜けたぞ!」
乱気流を突破し、風が静かになった。城の庭園部分に着陸を試みる。
浮遊の呪文も使い、後部車輪から綺麗に着地。……止まった。成功。
「さ、降りるわよ」
リサが言うが、その前にレーネがドアを開けてタラップから降りていた。
「なるほど、城だな。面白い!」
「本当にお城ね……どうやって浮いてるんだろう?」
ティーナの疑問はもっともだが、多分、デカい飛空石が、真ん中にあるんだろう。
見てみたいが、まずは周囲の安全確認をしないとな。
「ロボットのお出迎えは……むっ!? 何も無い、だと?」
探知の呪文も使うが、向こうに鳥と蝶がいるだけで、他には何もいない。
「おかしいな…」
「どうしたの?」
「いや、あるべきモノが、無い」
「そう」
「とにかく、探索してみましょう。行くわよ」
リサがそう仕切って、ま、建物の中にいるかもしれないし、確かめてみないとな。
俺の予想を裏切り、城は無人のようで、誰もいない。
「人もいないようだな。ま、空を飛んでいれば無理も無いか」
レーネが言うが、この城に畑を作れば……ちょっと難しいかな。
「あっ、ちょっと待ってや」
ミネアが通路の途中で立ち止まり、屈んで何か床を調べている。
「罠?」
「ううん、これ、鳥の羽や。けっこう、大きいで?」
ミネアが拾った白い羽は確かに四十センチくらいと大型の鳥を予想させる。
「気を付けていくわよ。上にも」
リサが警戒して言う。
「ああ」
ライトの呪文も唱えて、城を歩いて中枢とおぼしき場所に向かっていく。
「多分、この先が玉座の間だと思うわ」
リサが予想して言うが、確かに、正面に大きな両扉が見える。位置からしても、この城の中心にほど近い場所だ。地図の呪文で大まかな位置は掴んでいる。
「じゃ、準備は良いわね?」
「……仕方ないな。本当なら、ここにはケインとかを寄越すつもりだったんだが…」
俺は頭を掻くが、ロフォールの防衛、セルン村も守ってもらう必要があったからな。
「もう来たんだから文句言わない。後で好きなだけティーナのおっぱいでも見れば良いでしょ」
「おお!」
「ちょっと、リサ、勝手に私のお…オホン、体を安売りしないで」
胸を隠したティーナは見せてくれない様子。チッ、ケチ臭いリーダーだぜ。
「じゃ、いいわね?」
真面目にリサが全員の準備を確認する。
「いつでも構わんぞ」
と、レーネ。すでに大剣を抜き放っている。
「はい、大丈夫です」
にこにことクレア。
「任せるニャ」
リムも手斧を持って、みんな準備万端だな。
俺も今のうちに物理バリアなどの支援魔法を唱えておく。
「行こう」
樫の杖を握りしめて、両扉に浮遊の呪文を掛けた。
レーネとリムが鉄の鎖を引っ張り、ティーナを先頭にして玉座の間に踏み込む。
―――そこには。
「EEEEEEEE!」
「うわああ、な、なんか変なのがいたぁ!」
俺は総毛立つ。
玉座に座っているのは人では無い。
人の形をしているが、人で無いモノ。
背中には大きな翼があり、体には銀の鎧を装備しているが、顔や頭が変にのっぺりしていて、キモい。
昆虫にありがちな奇形だ。
目は無いようで、口だけがある。
身長は一メートル八十と言ったところか。翼は広げると横に四メートルくらいは行きそうな感じだが、だらりと下げていて羽ばたいてはいない。
色は白い。石膏の像っぽくもあるが、無機質なのか有機質なのかよく分からない感じだ。
右手には槍を持っている。
頭の上には光る円盤のようなモノがあるんだが…なんだろ?
「使徒よ!」
リサがそう言うなり、いきなりボウガンを撃つ。
ま、そうだろうな。話し合いが出来るような雰囲気でも無かったし。
だが、その矢は正体不明のソイツの首筋に当たったが、カンッと弾き返された。
「チッ、防御が高いわね」
「EEEEEEEE!」
あっ、コイツ!
鳥人間は魔力を発動させ、無詠唱で攻撃呪文を使ってきた。
「そ、そんなっ!」
クレアも動揺するが、それは紛れもない、ホーリーアローの聖魔法だ。
白き閃光の矢。
クロが二重のマジックバリアをすでに掛けていたが、それを突き抜けて飛んできた。
バチッと電撃に似た感覚があり、多少のダメージも食らってしまった。
「くっ! 気を付けろ、コイツは魔術も使えるし、前衛として武器も使ってくるタイプだ。聖属性は効かないぞ。闇属性が有効―――天使だ!」
俺はその正体を見破り、皆に告げる。その後で薬草モグモグ。
「絶望よ、怨嗟よ、慟哭よ、悪夢を呼び起こさん! ナイトメア!」
さっそく、ミオが闇属性の呪文を使ったが、精神系はコイツには効かないと思う。案の定、黒い闇は一瞬でかき消された。魔法防御もかなり高そうだな。
「ミオ、精神系はダメだ。他のを使え」
「ん、了解」
「雨よ凍れ、嵐よ上がれ、雷神の鉄槌をもって天の裁きを示さん! 落ちよ! サンダーボルト!」
エリカは俺の指示に関係なく、電撃系。
「くっ、ええ? レジストされた!?」
エリカが驚いているが、ダメージはあまり行かなかった様子。
「EEEEEEEE!」
天使はお返しとばかりにエリカに向かってホーリーアローを飛ばしてきた。
だが、エリカの魔法防御は高めなので、ダメージはそこまででも無い。俺は薬草を投げたが、チッ、エリカの奴、無視して呪文の詠唱に入りやがった。
「くっ、なら―――我を恐れよ。命脈を絶ち、闇に沈め。血よ凍れ、息を止めよ、デス!」
今度はエリカの死の呪文。闇属性の呪文ではあるが、ボスには厳しいと思われ。
「エリカ、それは禁止。呪文を無駄遣いするな」
俺は指示しておく。
「もう! 分かったわ。効きそうに無いし」
俺は暗闇の呪文を唱えたが、ううん、元々、目の無い奴にこれ、有効なのかね?
魔法はきちんと発動し、効くには効いたのだが。
動きは特に変わりが無い。意味が無かった…。
「せいっ!」
「いえええい!」
「ニャー!」
前衛チームが三方からコンビネーションを使って斬りかかるが。
「EEEEEE!」
「きゃっ!」
「うおっ!?」
「ニ゛ャー!」
槍を大きく水平に薙ぎ払って、綺麗にカウンターを決められてしまった。
うわ、槍術もレベル高ぇ!
「そんな。うちらのレベル74もあるのに、それでも足りん言うん?」
ミネアが信じられないと言う顔でつぶやいた。




