第十一話 大魔導師の呪文
2016/8/27 誤字修正。誰の台詞か分かりやすいように描写を追加。
「エリカ、ここもいないわよ」
リサが振り向いて言う。
「ええ? じゃあ、向こうの家よ」
みんなは次の家に向かったが、俺はある予感がして、目の前の老婆の石像に分析の呪文を試す。
エルザ Lv 43 HP 250 / 258 MP 626 / 642
【弱点】 特になし
【耐性】 風
【状態】 石化
【解説】 トリスタンのエルフ。
里の長老衆の一人で、
上級魔術士。
世界樹の世話人でもある。
エルフは通常人族の倍の寿命を持ち、
美しい容姿と尖った耳を持つ。
自然主義者。
「うえ、やっぱりかよ。石化かぁ……」
石化を使ってくるモンスターがいることは知っていたが、石化した被害者を見るのは初めてだ。
これ、すぐ回復できるのかね?
「クレア、ちょっと来てくれ!」
ひとまず俺の手持ちの薬草ではお手上げなので、司祭であるクレアを呼ぶことにする。
「はい」
「石化を回復させる魔法はあるか?」
「えっ? ああ、そう言うことでしたか。ええ、全身は見るのも初めてですが、足の石化を治したことはありますし、今の私の力なら出来ると思います」
「治したとき、後遺症や問題は発生しないのか?」
「ううん、全身の方は分かりませんが、足の方は特には何も」
足が完全に治ったというのなら、多分、行けるだろう。
このまま長く石化状態のままでいても、生命や後遺症の危険が有るかもしれない。
「分かった。じゃ、頼む」
「はい。女神ミルスよ、清め払い給え。大いなる治しよ!」
淡い光が包み込んだかと思うと、灰色だった老婆の彫像に本来の色が付いて、動き出した。
「ぬう、コカトリスッ!? んん?」
老婆は呪文を使うつもりだったか、そう叫んで俺に右手をかざしたが、すぐに違うと気づいてくれた。
「大丈夫、私達は敵じゃ有りませんよ。ここにはコカトリスはいません」
俺がそう言って老婆を安心させる。
「そうか、ふむ、して、奴はどうした?」
「いえ、それが、私達が来た時には、いないようでしたが。ああ、それより里の人達の石化を全員治療しないと。多分、全員が石化してます」
俺は知っている事実をありのままに話した。
「ぬう、わし一人ならともかく、他の連中もやられたか。そうか、お前が回復してくれたか。礼を言う」
老婆がクレアを見て言う。
「いいえ、お気になさらず。お体の調子はいかがですか? 全身の石化を解いたのは初めてなので」
クレアが体調を心配して老婆に聞く。
「ふむ、問題は無さそうじゃ」
体を少し動かした老婆は、見た目よりは元気そうだ。
「じゃ、村の人を」
「ええ」
「ニャッハッハッー! これだけ石像がたくさんあるなら、一つくらいぶっ壊してもイイニャ!」
などと危険人物が危険なことを言い出すし。
『オイ! 止めさせろッ!』
俺は慌てて念話でみんなに伝えるが。
『大丈夫、私が止めたわ。ふう』
ティーナが止めてくれたようだ。俺もほっとしてそちらへ向かう。
もちろん、リムは正座させてティーナがお説教。
「いい? よそ様の家の物を勝手に壊すのは、絶対にダメよ」
「はーい……分かったニャ」
壊していたら死人も出ていたかも知れないし、エルフの村の協力も得られず、色々と面倒な事になっていたと思うが、リムも悪気があったわけでは無いので、器物破損未遂のみで注意して終わりにしてやった。本人も反省の色があるしな。
その間にクレアが、この里のエルフを石化から全員回復させ、俺達は長老衆との会合に臨んだ。
「まず、此度の治療に里を代表して謝辞を述べようぞ。人族の冒険者達と、フランジェの司祭よ」
樫の杖を持った厳めしい顔の老エルフが言う。長々とした白いあご髭の爺様。
「いえ、冒険者として人として当然のことですから、お気になさらず」
ティーナがさらりと返すが、ちょっとあざといかもね。異種族でも仲良くしましょうね、という意図が言葉に入っている。
「フン、我らを狩っておいて、『人として当然』とはな。人族は舌が二枚あると言うが、どうやら真のようだ」
エルフの長老はやはり歓迎ムードじゃ無いみたいだな。
「人族とエルフ族の不幸な戦は私も存じておりますが、私自身はエルフを手に掛けたことも有りませんし、狩るつもりもありません。嘘はついてません」
ティーナがはっきりと言うが。
「嘘か真かはこれから決まること。お前達が仲間を連れてこないと保証するものは何も無い」
「ううん…」
「まあ、そのくらいでよかろう、オーラフよ。この人の子らは我らを助けてくれたのじゃ。放って置かれたら、世界樹もどうなっていたことやら」
脇のテーブル席に座っていた老婆が言う。最初にクレアが石化を解いたお婆さんだ。分析では、確かエルザと言う名前だったか。
「フン、世界樹の管理者は何も我らだけでは無いわ」
長老のオーラフは鼻を鳴らしてそんな事を言うが、自分達が石化のまんまでも困っただろうに。
「世界樹なんてどうでもいいでしょ。助けてもらったんだから、礼くらいきちんと言えば良いのに」
俺達の後ろにいたエリカが言う。
「礼はすでに言った。エリカよ、お前は村の掟を破り、人族をここに招き入れた。相応の覚悟はしておろうな?」
「うっ…」
「待って下さい。エリカは最後まで村の場所を喋ろうとはしませんでした。ここの場所はこの大魔導師ユーイチがオリジナル魔術でちょちょいのちょいで見つけた物です。まぁ、エルフの皆様方にその魔法を信じてもらおうとは思いませんがね」
俺はそう言って挑発を試みる。
村の掟がどの程度の罰か知らないが、女神ミルスの啓示に基づいてやってきたのだから、エリカの責任を問うのも可哀想だ。
それにエリカは俺達の大切な仲間だしな。
「む…フン、人族の魔術士風情が、大魔導師を自称するか。これはとんだ道化よの」
「ユーイチは上級魔法も覚えているし、長老よりも凄いわ。魔法もどんどんオリジナルを作ってくるし」
エリカが長老への反感からかもしれないが、俺を持ち上げるのでなんだか変な気分だ。
「よかろう。では、その呪文とやらを披露してもらおう。ただし、嘘だと分かれば、エリカよ、お前の罰は口を封印し、二度と喋れぬ事となろうぞ」
「フッ、いいわ、ユーイチ、見せてやりなさいよ」
「ああ。――我が地図となりて道を示せ、マッパー!」
まずは小手調べ。この村を見つけたのは探知の方だが、それは俺のオリジナル魔法では無いから、いちゃもんを付けられないよう、止めておく。
「……それが上級の魔法と言うのか? 人族の間では」
「いいえ。この村を探すのに使った呪文をまずは披露させて頂いたまで。その陶器の壺、お借りしても?」
大魔導師級の呪文、フレアを使ってエルフの長老達をびっくりさせたいが、いきなり攻撃呪文はマズいだろうし、別のモノにしておく。
「よかろう、使ってみろ」
「では。――柔らかきは硬く、硬きは柔らかなり。石よ、我に従え、ストーンウォール!」
ピラミッドの王が使っていた古代魔法。
壺がぐにゃりと曲がって、エリカの像となった。
「おおっ!? 古代魔法か」
「しかもコレは禁呪ではないか」
「ウォールでここまで細かく扱うとは…!」
この場に長老衆が五人いるのだが、そのうちの三人が驚きの声を上げ、残る二人も眉を動かした。フフ、どうですかね、俺の魔術は。
しかし、ストーンウォールを知ってるなんて、エリカはなんでこの人達にきちんと魔法を教わらなかったのやら。
「そんなもの、オリジナルとは言わんな」
長老が渋い顔で言う。そして杖をかざした。
「オホン、固く流れたる石の水よ、有るべき姿に戻れ! ストーンフォーミング!」
おそらく彼の即興の独自魔法だろう、俺の聞いたことが無い魔法文字でエリカの像を壺の形に戻した。
くっ、さすがはエルフの長老、無駄の無い呪文で、洗練されている。魔力消費もウォール系より低いと見た。
だが、俺のオリジナル魔法はここからだぜ?
「では、ここからは私のオリジナルを披露致します。――固き光沢の塊よ、其は、変幻自在にして不動なり! アイアンウォール!」
鉄のエリカ像をテーブルの上に出す。
「ぬう! コレは鉄だと!?」
「ウォールは鉄も出せたのか!」
「信じられん…!」
「ほほう、やりおるねえ」
アイアンウォールはエルフの長老衆も知らなかったようで、ま、こんな木の掘っ建て小屋で暮らしてたら、そんな発想も出なかったに違いない。
「いかがです?」
「どう? この呪文はユーイチが自分で一から開発したんだから!」
エリカも自慢げだ。
「……むう」
長老は無詠唱で樫の杖を動かし、鉄のエリカ像を消し去った。ただ、呪文詠唱しないと言うことは、オリジナルの呪文では無いのだろう。
「エリカよ、正直に言うのだ。これはおそらく、他の里のエルフから教わったモノであろう」
杖を床に立てて手を置いた長老はエリカを見据えて言う。
「ハァ?」
「あの、口を挟ませて頂きますけど、私達は他のエルフに会ったこともなければ、他の里の場所だって知りません。なんなら、他の里と連絡を取って頂いてもいいですけど」
ティーナが、憤然として呆れているエリカの代わりに言う。
「そんな手間を掛ける必要は無い。――真実を識る目よ、邪な心の偽らざる姿を現せ! トゥルー・オア・フォルス! な、なんじゃと?」
長老がエリカに向かって杖をかざしたが、ほほう、虚偽を見抜く呪文、コレは使えそうだわぁ。
ジジイも真実が分かって驚いた様子。
「うぬぅ…条件設定を間違えたか? あるいは、今日は体調が優れぬのか…」
「オーラフよ、いい加減に認めた方がええ。この人の子は確かに優れた魔術士、大魔導師と言って差し支えなかろう」
長老衆の一人、エルザが微笑みながら言う。この婆様は、割と俺達に好意的だな。
「ならんならん! 大魔導師とは大魔導師の呪文が使えねば、そうと認めるわけにはいかん! 適当なオリジナル呪文などでは認められぬわ!」
怒り始めたオーラフは典型的な頑固ジジイだ。
「外へ出ろ、小僧」
「望むところです」
家の外に出て、まずオーラフが空に向かって呪文を唱えた。
「天界を追放されし怒れる炎の巨人よ、放て! ファイアボール!」
「あっ! アレは!」
俺は驚く。
直径二メートルくらいはあろうかという大きな火の玉がゴウッと音を立てて勢いよく飛んでいく。
俺がこの世界の初陣で見たあの火球にそっくりだ。同じ呪文と見て間違い無いだろう。
「オホン。では、コレと全く同じモノを唱えて見せよ。ただし、レベルがその域に達しておらねば、自らが炎に包まれて命を落とすぞ。大炎上じゃ!」
「…ちなみに、オーラフ様のレベルはいかほどで?」
レベル74もあれば、行けると思うが、念のために俺は確認しておく。
「それは教えられん」
「65じゃ」
オーラフは拒否したが、婆様が横から教えてくれた。
「エルザ!」
「いいではないか。それくらい。ま、レベル50が目安じゃの。人族なら、魔力の基本値の関係で、もう少し高いレベルが必要かもしれんが」
「ああ、それなら、大丈夫ですね。私はエルフとそう変わらない能力ですから」
エリカの魔力の基礎能力値は12、俺より一つ上というのが少し悔しいが、人族の中では俺ほど高い人間を他に見た事が無い。
「では、試してみるのだな」
オーラフが言い、俺も頷く。
「天界を追放されし怒れる炎の巨人よ、放て! ファイアボール!」
おお。オーラフが唱えた火球より、一メートルくらい大きな火球が轟音を立てて凄い勢いで飛んでいった。
「なっ―――!?」
「ん、天界を追放されし怒れる炎の巨人よ、放て! ファイアボール!」
ミオも試してみたかったようで、俺と同じくらいの大きさの火球を飛ばした。多分、大きさはレベルが大きく関係しているな。
「天界を追放されし怒れる炎の巨人よ、放て! ファイアボール!」
負けず嫌いのエリカも当然、唱える。
その間、呆然としていたオーラフがようやく我に返ったようで呻く。
「ば、バカな…人族がこれほどの力を持つなど…あり得ぬ!」
オーラフはなおも認められない様子だ。だが他のエルフは素直に感心していた。
「あの若造、やりおるの」
「大したもんだ」
「凄い魔術士達だねぇ」
「じゃ、長老様、次はどんな呪文を使えばいいですかねぇ?」
この際だから、どんどん大魔導師級呪文の魔法文字を見せてもらおう。タダで。ヒヒ。
「ならば――いや、古式に則った大魔導師の試験では、世界樹のダンジョンの第千五百層に向かい、そこにあるという幻の泉を見つけ出し、フェアリーの謎かけをクリアし、さらに世界樹の枝を―――」
「あー、いいです。そう言うのは要らないです。別に大魔導師じゃなくても良いです」
俺は手のひらを素早く振って言う。
やたら面倒そうな試験をしてまで、大魔導師の称号は欲しくない。
だいたい、千五百層って何よ?
どんなマゾゲーだよ。
「ぬう…」
「さて、何じゃったかの……おお、そうそう、エリカの村の掟の件じゃが、不問で良いの、オーラフ。この者らであれば、この里を見つけ出すのも容易じゃろうて」
エルザが言う。そう言えば、その話の流れで大魔導師試験っぽいことしてたんだよな。
「むむ…」
渋い顔の長老だが、反論は出来ない様子。
「では、誰か、食事の用意をしておやり。エリカの冒険仲間と聞いたし、我らの命の恩人、それに、女神ミルスが遣わした勇者と来れば、無下に追い返すわけにも行かんさね」
「むっ、エルザ、なぜそれを」
「お前さんが、黙りを決め込んでおるから、ミルスが私に啓示を与えたんだよ。女神に余計な手間を掛けさせおってからに」
「だが、こ奴らが勇者などと、どうにも信じがたい」
「信じるかどうかは関係ないよ。我らはミルスの導きにただ従えばそれで良いのじゃ」
「………」
「さぁさぁ、食事の準備を! 勇者のご一行だよ!」
エルザが手を打って号令を掛け、それでエルフ達も納得したか、すぐに動き始めた。




