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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十五章 大魔導師への道

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第九話 メイルシュトローム

2016/12/2 若干修正。

 クラーケンが触手攻撃を止め何かをやろうとしている。巨体のためか、その動きはまだ緩慢だ。


「なにかしら?」


 ティーナ達もいったん攻撃の手を休め、首をひねる。

 が、俺はすぐに気づいた。


「うわぁ。メイルシュトロームっぽいぞ。早く離れろ!」


 慌てて水を引っ掻いて俺達は距離を取る。


「み、水が!」


 潮流がだんだん激しくなり、くそ、やっぱりメイルシュトロームだ!


「うわあああ!」


 人魚(マーメイド)の呪文で水流の影響をほとんど受けなくなっているにも拘わらず、俺達の体が奔流に引きずり込まれ始めた!


「まずい、このままじゃ…」


 いったん流れに引き込まれると、泳いだくらいでは抜け出せそうに無い。

 コイツの回転がいつ終わるか分からないが、船酔いは確実。

 それどころか、流れの速さによっては体が引きちぎられかねない。


 魔法チームは慌ててウォーターウォールなどを使ってみるが、流れは止まらない。


「何かないか……そうだ! 玉手箱」


 天女からもらったアクア・クリスタル。この魔力をここで使えば。


「おお、光った」


 玉手箱を開けると、アクア・クリスタルがまばゆい光を発し、水流の流れが変わる。

 が、拮抗している感じで、まずいな、どこまで持つか。


「くそっ、ダメだ。手が無い」


 俺はそう言って、悔やむ。

 メイルシュトロームへの対策を怠ったのは致命的だった。

 いや、陸で戦うという方針が、危険と想定したメイルシュトロームへの唯一の対策であったのだ。


「ええ? そんな」


 パーティーに重い沈黙が訪れるが――― 



「それがしに掴まれ!」


「ソードフィッシュ!」


 もうとっくに逃げてたと思ったが、まだいたのかよ!

 だが、コイツの速さなら、あるいはこの奔流から逃れられるかもしれない。

 俺達はその長い槍のような口先を握り、しっかりと掴まる。

 さらにリサとミネアがロープで固定した。


「では、行くぞ!」


 ソードフィッシュが全力で泳ぎを開始し、うおっ、はえっ!


「よし、いいぞ、抜け出せそうだ! コレはいいな!」


 レーネは気に入った様子だが、速すぎて怖いぞ……!


「か、海面へ向かってくれ!」


 俺はすぐに言う。とにかく海の中から逃げないと。


「承知!」


 なんとか渦の外に逃れ、海面へ顔を出せたが、後ろを見ると、巨大な渦が出来上がっており、あれに巻き込まれていたら大変な事になっていたと思う。

 俺達はそのままソードフィッシュに掴まって砂浜近くまで運んでもらった。


「ありがとう、ソードフィッシュ」


 ティーナがパーティーを代表して礼を言う。


「礼は要らぬ。それがしはそれがしの役割を果たしたまで。勇者達よ、後は頼むぞ」


「ええ」


 カッコイイ魚だ。

 後でイシーダにソードフィッシュの話を伝えて、酒場で謳ってもらうとしよう。

 サザ村にもでっかい銅像を建てて……いや、猫耳族の標的(エサ)になっては事だ、それはよしておこう。



 俺達は砂浜に上がり周りを確認するが、ここはサザ村とは離れており、周囲に人影も無い。


「よし、場所も問題無いな。ここでクラーケンと戦闘を行う」


 俺は宣言。いつも逃げてる訳じゃ無いぜ?


「ええ、やりましょう!」


 クラーケンも俺達を追いかけてきて、最初に触手が伸びてくる。


「どうした、海の王よ、その程度か!」


 レーネが大剣を振り回してその触手を切り落とし、さらに挑発する。


「GYAAAAA!」


 それに苛立ったのかどうかは分からないが、海面から顔を出して攻撃してくるクラーケン。

 やたら大きいな…。

 山ほどある大きさというのがピッタリだ。


「くっ! 切りが無いわ! この触手、回復してるんじゃないの?」


 ティーナが言うが。


「いいえ、してないわ。私が確認してる。半分は切り落としたから、頑張って」


 リサが励ます。普通のイカは十本足だが、こいつは何本足があるのか、見当も付かない。


「まだ半分…くっ、ええい! せいっ!」


 ティーナも気力を振り絞って剣を振るい続ける。

 だが、これだと先に疲労が極限に達して、動けなくなりそうだ。


「ティーナ、前衛チームを二つに分けて、片方は休憩しろ」


「うーん…分かった。じゃ、レーネ、ここをお願い。私とリムが先に休憩するわ」


「任せろ!」


 レーネ一人で触手と対峙するのは厳しいので、魔法チームも援護。

 ミオはその間にゴーレムを量産し始めた。


「レーネ、もっと下がれ」


 途中、俺は指示を出す。


「ああ、そうだったな」


 クラーケンはまだ海の中にいる。頭だけ海面から出しているが、完全に陸の上に引き込まないと、地形効果も出にくいはずだ。

 ま、奴のメイルシュトロームはすでに封じたので、危険はぐっと下がった。


「ぐっ!」


 クラーケンも触手をムチのように振るってレーネにダメージを加える。


「レーネ、もう良いわ、交代!」


 ティーナが疲れた頃合いを見計らって、前に出る。


「ああ、任せた」


 さすがに疲れた様子でこちらにやってきたレーネに薬草を渡しておく。


「ふう、大分、陸に上げたな」


 レーネがサロン草を腕に貼りつつ、クラーケンの方を見やる。


「ああ。もうちょっとだ」


 クラーケンはかなり前進していて、体の半分以上は海から上がっている。普通のイカは陸に上がったら弱ると思うが、コイツは使徒だからか、弱る気配すらない。

 だが、どう見てもイカだからな。

 海の中よりは絶対マシだ。


 陸に上げたら、ストーンウォールで固めたり、ファイアウォールでタコ殴りにしてやんよ!


 俺は勝利を確信していた。


 ―――が。


「あっ! クラーケンが退()いていくわ!」


 ティーナが叫ぶ。


「な、なにぃ?!」


 ボスが逃げて良いのかよ! それは無いぞ!


「どうするのだ、ユーイチ」


 レーネが問うが。


「ちぃ…こっちに水場を作る! それで海側から攻撃だ」


「「「 了解! 」」」


 アースウォールで砂浜をごっそり削り、海水を引き込む。

 前衛チームは再び人魚(マーメイド)の呪文を体にかけて、海の中に入って攻撃開始。


「GYAAAAA!」


 クラーケンも思ったよりダメージが深刻なのか、俺達の攻撃を嫌がり始め、逃げようと移動を開始する。体が浅瀬に入ってしまっているので、その動きはかなり遅い。

 これが海中だったら、あっと言う間に逃がしてたな。


「あっ、あかん、そっちに行かせたらダメや!」


 ミネアが叫び、どうしてかと思って見たら、サザ村がすぐ近くに見えていた。


「くそっ、村の近くに来ていたか」


 戦闘に集中しすぎていて、気づくのが遅れてしまった。


「くっ、あっちへ行きなさい、七星閃光セブンス・シャイニング!」


「ここから先は通行止めだ! 虚空斬!」


「ニャー、向こうへ行くニャ! とりゃあ!」


 前衛チームが必死に攻撃するも、まずいな、動きが止まらない。俺はリサに指示を出した。


「リサ、村の人に避難するよう、伝えてくれ」


「分かった」


 彼女が頷いて走って行く。サザ村の村長には事情を話し、クラーケンには近づかないように言ってあるから、すぐに対応はしてくれるはず。

 念のため、俺は探知(ディテクト)で周囲に人がいないかを確認。


「んっ?」


 反応があった。赤いポイントの場所を見やると、そこには金髪ネコミミが座り込んでいた。

 んもう、なにしてんのよ!


「そこのネコミミ! さっさと逃げないか!」


 拡声器(スピーカー)の呪文も使って呼びかけるが、どうやらクラーケンのあまりの大きさに腰を抜かしてしまったようで、立てない様子。


「まずい、触手が行ったぞ!」


 レーネが叫ぶし。


「くっそ!」


 俺はこの場からウインドランサーの呪文を使って触手を穿つ。新しく開発しておいた風属性の単体攻撃呪文だ。上級呪文で魔力消費が激しいのであまり使いたくはないのに。

 魔法チームが一斉に攻撃をしたが、触手は次から次へと伸びてきて、切りが無い。


「誰か、あのネコミミを避難させてくれ!」


 ミネアに頼もうかと思ったが、彼女はちょうど、反対側にいてダメだ。


「アタシに任せるニャ!」


 近いリムが返事をして走って行く。何とかギリギリだったが、間に合った。

 やるな、リム。

 俺も一緒にそちらへ行き、アイアンウォールのシェルターを作る。


「よし、もう大丈夫だ。しばらここで大人しくしててくれ」


「う、うう、あ、ありがとう」


「ニャ、ミーシャがお礼なんて、初めて聞いたニャー」


 そう言えばここの村の人間はリムの知り合いだったな。今まで礼も言ったことが無いなんてどうかと思うが、ま、礼は礼だ。



「さて、陸に上がったな?」


 俺はクラーケンの位置を確認してニヤリと笑う。

 逃げるつもりか、最後の悪あがきか、とにかく奴は自分から死地へ入り込んだ。


「ミオ、クロ! やれ!」


 魔法チーム三人で一気にアースウォールを使い、クラーケンの足場を持ち上げて水を排出する。

 四人目のエリカはMP切れでお休み中だ。


 ストーンウォールを使い、クラーケンの体を固定しようとするが、それは軟体動物ゆえか、ちょっと上手く行かない。

 仕方ないのでファイアウォールを使い、持続ダメージを与えに掛かる。


「よし! 行ける!」


 陸の上で完全に動きが鈍ったクラーケンは、炎から逃れられずにダメージをどんどん蓄積。

 逃げようとする方向へファイアウォールを設置してやると、炎を嫌がって方向転換。

 最初からこの魔法で誘導すれば良かったのだが、まあいい。


「あとはのんびり~」


 果報は寝て待て。


「ダメじゃ! 妾の出番が無いではないか」


 俺の腰にぶら下がっている魔剣リーファが喋った。


「ええ? しょうが無いなあ。じゃ」


 魔剣を鞘から抜いて、適当に、えい。


「くっ、もうちょっとやる気を見せろと言うに……仕方ないの、ていっ!」


 魔剣が自らの力で動き、俺の手から離れて凄い勢いで飛んでいき、クラーケンに突き刺さった。


 ボフンと白い煙となって魔石と化す。


「よし、クリアー!」


 俺達は飛び上がって勝利を喜んだ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「我々、勇者はー、労働待遇の改善をー、要求する!」


 拳を掲げてシュプレヒコールをする俺。


 相手はもちろん、女神ミルスだ。


『ええと、ですが、無事に勝利しましたよね?』


「ギリギリだったじゃないですか! どう見てもレベル適正が合ってない。コレがブラウザゲーだったら、掲示板は炎上、運営がお詫びしてレアアイテムを配るくらいの問題です」


『はあ』


「最低でもあとレベル20は上げた後で呼んでもらわないと。メイルシュトロームも、アクア・クリスタルで防ぎ切れてないし」


『ううん…そこまでのレベルは必要無いかと思いますが…。アクア・クリスタルに関しては、アレは別の役割があるのです』


「じゃ、なおさら対策が甘かったじゃないですか。こっちは死にかけたんですよ!?」


『分かりました、次からは善処しましょう』


「約束ですよ? 破ったら、もう勇者は辞めます」


『困りましたね……それでは邪神が勝利してこの世界は滅んでしまうかもしれません』


「そこを対処して、そうならないための方策を考えるのが神様のお仕事だと思います。もしあなたが対処できないのなら、上司である主神ファルバスに報告して指示を仰がないと。ほうれんそう、報告、連絡、相談はお仕事の基本ですよ!」



『う、ううん、はい』


 たとえ、相手が神であろうとも、俺の生存ルールは妥協しないぞ!


「ユーイチ、いくら何でも失礼でしょ。本当に申し訳ありません。後で叱っておきますから」


 ティーナが割り込んでくる。


「叱るのは良いが、なんで君が勇者筆頭じゃないのか……死に急ぎすぎるからかもなあ」


「ええ? そんな事は無いけど」


「いーや。あるね。さて、じゃ、ロフォールに帰るか」


『あっ…』


「むむ」


 ミルスが何か言い掛けたが次の使徒の事か。


『いえ、次は急ぎの使徒ではありません。まだ猶予はあります』


「ならのんびり行きましょう。ちなみに、次はどこですか?」


 早めに対策を立てておきたいからな。行き先だけは聞いておこう。


『エルフの里です』


「ふうん? エルフの里……ハッ!」


 美少女だらけの里と聞いて、のんびりしていられようか、否! 断じて否!


「こうしちゃいられない、ティーナ、次の啓示だ。エルフの里に向かうぞ!」


「ええ? ふぅ、そう言うことね」


 やる気の無さそうなパーティーを俺は鼓舞し、次の目的地を目指した。

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