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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十五章 大魔導師への道

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第八話 クラーケン

2016/12/2 成長しないエリカを若干修正。

「じゃ、くれぐれも、俺達が陸に上がってから作戦を開始して下さいね?」


 俺としては浜辺に上がる前にクラーケンを連れてこられても困る。そこはしつこく念押ししておく。


「くどいでござる。作戦はもう分かったから、貴殿らはさっさと浜辺に行くがよろしかろう」


 忍耐強そうなメカジキもちょっとイラついてきた様子なので、その辺にして俺達は潜水艇に戻り、海上を目指す。


「水圧とか、潜水病とか、大丈夫かなぁ」


 いざ地上へ戻る段階となって、そこにようやく考えが回る俺。迂闊。


「相変わらず心配性ねえ。体の調子も悪くないし、アンタだって悪くないでしょ?」


 リサが言うが。


「いや、海から出てみないとそこは何とも」


「大丈夫よ、ユーイチ、女神ミルスが案内してくれた場所でしょう? そこは神様も考えていらっしゃるわよ」


 ティーナが楽観的に言う。


「だといいが、神は往々にして地上の細かい事は気にしないと思うが」


「んー、でも、今回の作戦は神様にとっても結構大事やと思うけどな」


 と、ミネア。


「女神様なら大丈夫だと思います」


 と、クロ。


 不遇のこの二人がそう言うなら、俺としても女神を(うたぐ)るのはこのくらいにしておこうかと思った。

 ミルスが何らかの手違いをしていたとしても、すでに潜っちゃってるしな。

 対応のしようが無い。

 気にはなるが、これ以上考えても時間の無駄だ。

 とは言え、潜水艇の中にいる間は他にすることも無いから堂々巡りでもいいんだが。

 運転はミオがやりたいと言ったので彼女に任せている。そちらは心配ない。



「ん、後方から急速接近する物体有り。探知(ディテクト)に反応」


 ミオが不穏なことを告げた。


「なにっ!? ま、まさか」


 俺は慌てて地獄耳(ビッグイヤー)の呪文や透視(シースルー)の呪文で海中の周囲を探る。


「連れて来たでござるが、ちと早すぎたか」


 メカジキが潜水艇の周りを周回しながら言うし。 


「はええよ! まだ海の中じゃん!」


「貴殿らはもう陸に上がった頃合いだろうと天女様が言ったのでな。それより、来たぞ」


「くそっ!」


 連絡方法を考えておかなかった俺のミスだ。タイミングもきっちり時間による設定にすべきだった。

 全員そろって腕時計をリセットする儀式、アレがこれほど大切だったとはな。


「くっ、じゃ、外に出て――」


 そう言って天井のハッチに手を掛けるティーナを俺は慌てて止める。


「バカ! ここはウミガメも天女もいないんだから、水が入ってくるかも知れないだろ!」


「ええ? でも、このままじゃ」


「今は態勢が悪い。ミオ、全速力で陸を目指せ。蛇行しても構わん」


「了解。みんな、しっかり掴まる」


 俺達は耐圧の補強用に繋げてある支柱を掴み、衝撃に備える。

 加速でGが掛かり、体が後ろに持って行かれそうになった。


「見えたぞッ! お、大きい…」


 窓から後ろを覗いていたレーネが、彼女らしからぬ感想を漏らすし。

 十メートルとか、そんなレベルじゃないんだろうな。

 透視(シースルー)の呪文でも、奴の体の一部しか捉えていない。


 ガンッと、潜水艇に何かがぶつかってきた。船内が大きく衝撃で揺れる。


「きゃあ!」

「うおっ!?」

「ニ゛ャー!」


「触手だ!」


 レーネが言うが、もう敵の射程内かよ!


「ん、師匠、反撃を」


「お、おお、そうだった」


 ミオが言ってくれたので俺も思い出したが、この潜水艇には武装を積んでたんだった。

 ただし、敵は後ろにいる。


「後方ハープーン一号、発射!」


 こんな事もあろうかと、前後左右上下の全方位にそれぞれ銛を発射出来るよう仕込んである。当然だな。

 アイアンウォールの呪文で留め金を変形させて外し、ゴーレムの力で押し込んでおいたバネによって強力な銛が弾丸のように発射された。

 バキュッ、バキュッとちょっと変わった音を立てつつ、銛がクラーケンの巨体に吸い込まれていく。


「命中したが、効いてないぞ?」


 レーネが言うが、ハープーン一号の真価はまだこれからだ。


「エリカ!」


「分かってる! 雨よ凍れ、嵐よ上がれ、雷神の鉄槌をもって天の裁きを示さん! 落ちよ! サンダーボルト!」


 エリカが十八番(おはこ)の呪文を唱え、銛を避雷針として利用する。それが無くても海中だからな。塩水なら電気を良く通す。

 もちろん、この潜水艇には絶縁体の層を隔壁に仕込んであるから、感電の心配も無い。魔力は通すけど。


「GYAAAAA!」


「うおあっ!?」


 耳障りな咆哮を上げるクラーケン。くっそ、地獄耳(ビッグイヤー)で音量を上げてたから、大音量できやがった。


 ティーナが俺を見て口をパクパクさせて何か言ったが、さっぱり聞こえない。


「これで、どうですか」


 クレアが俺の状況を察して回復魔法を無詠唱で使ってくれた。


「助かる、もう大丈夫だ」


「だが、ユーイチよ、エリカの呪文、白い煙を出して効くには効いたが、アレでは倒せんぞ」


 レーネが言う。エリカは先ほどから稲妻呪文の連続攻撃をかましているが、触手の攻撃も止んでいない。


「ああ、次の武装だ。魚雷一号、全弾、発射!」


 誘導推力はもちろん魔法。誘導装置の製造なんて俺には無理だから。

 だが、ウォーターボールの呪文できちんと魚雷は誘導され、クラーケンの巨体に向かっていく。


「全員、衝撃に備えろ!」


 俺はそう指示を出してから、次の呪文を唱える。


「光れ! 太陽に近き灼熱よ、黒き災いの瞳をもって、全てを溶かせ! フレア!」


 トリスタンの武闘大会でS級冒険者のアレクサンダーさんが唱えていた呪文。

 上級呪文のさらに上位らしくMP消費は50ポイントとかなり激しいが、威力はそれに見合う物が有る。

 なにせ、超高温で鉄すら蒸発させ、第四形態のプラズマにまで持って行くからな。

 大魔導師級の呪文だ。


 カッ!

 と、閃光が走ったかと思うと、急激に白く光るシャボン玉のような球体が膨張し、爆発した。それが水圧によって再び押し込まれて収縮する。最後に潰れて白濁した煙のような水が周りに拡散していく。


「GYAAAAA―――!」


「行けるぞ! 凄い威力だ。どんどん撃て、ユーイチ」


 レーネが興奮したように言う。


「分かってる。クロ、手伝ってくれ」


 魚雷はまだまだ飛んでいくが、俺一人だと手が回らない。


「分かりました」


 魚雷の装填数は全部で30発。

 だが、アイアンウォールを習得した俺達は、鉄の塊をMPが続く限り、いくらでも出せる。

 MPも千の大台に乗ってるから、太陽火炎(フレア)と込みで一人18発は行ける。


「あっ! なにぃーっ!?」


 だが、23発目を命中させたところで、クラーケンもやられっぱなしでは無かった。

 その長い触手を潜水艇に絡ませ、そのまま奴の口の中へと引きずり込んでいく。


「うおっ! ヤバいヤバい! ミオ、早く何とかしろ!」


「ん、全力は出してるけど、無理」


「いや、無理じゃ無くて! うわーっ!」


 俺はとっさに触手をフレアの無詠唱呪文で何本か切ったが、数が多くて切断しきれない。


 船体がギギギギギギ、と嫌な音を立てて、(きし)んでいる。

 俺達は息を飲んで動きを止め、隔壁の様子を窺うが。


「どやろ…行けるんちゃう? ユーイチ、これの強度はどんな感じなん?」


 ミネアが聞いてくる。


「公表スペックは136Mpaだ。もちろん、安全マージンを取ってそれ以上にはなってるが…」


「エムピーエーって言われてもさっぱり分かんないニャ」


 む、リムで無くても分からんな。俺もよく分かってないし。


「海底一万三千メートルの水圧にも耐えられるように設計した。だが、俺の設計だからな…」


 不安だ。


「ああ、ほんなら、二万メートルくらいの水圧は余裕で行けそうやね」


 とミネアが言うが。


「ええ? いやいやいや」


「そうね、四万メートルは行くかも」


 ティーナも言う。


「十万メートルもあり得るわよ。無駄に心配性だものね、この男は」


 リサが言うが。


「むう、いくらなんでもそこまでは行かねーよ。だいたい、なぜ安全を重視して文句を言われるのやら」


 安全こそ至高、安全こそ正義、安全は最優先。

 そこに口を挟む者共は決して許さぬ。安全のためなら死ねる!


「フン、バカだからでしょ。でも、さすがのクラーケンもこれはかみ砕けないみたいね」


 エリカがムカつくことを言うが。


「しかし、このままだと身動きも取れんな」


 レーネの言う通りだ。

 俺は思いついて耐久値を見ておこうと、潜水艇に分析(アナライズ)を掛ける。クラーケンの方はどうせ無効化されてステータスは見られないから、やるだけMPの無駄だ。



【名称】 ユーイチの潜水艇

【種別】 船

【材質】 鉄、ガラス、石

【耐久】 1206512 / 8200000

【重量】 45000 

【総合評価】 S

【解説】 錬金術師ユーイチが設計した船。

     海底25万メートルまで潜行可能。

     乗客室の外殻は二重構造の

     鉄壁による真球形状となっており、

     また永久強化魔法によって、

     極めて強靱、強固。

     常識的な力では決して潰せない。

     鉄の銛や鉄の玉を武装しており、

     魔術によって発射する。

     操縦には上級以上の魔術士が一人必要だが、

     その他9名の乗員は魔力の無い子供も可。



「ぬっ?」


 海底25万メートルって!

 予想以上の耐圧性能だった…。

 だが、その性能をもってしても、クラーケンの攻撃で耐久値が一割くらいまで減らされている!


「い、いかん、これは持たんぞ。魔法チーム、非常事態だ。脱出の用意を」


 俺は言う。この潜水艇がダメだった場合に、水中でも活動できるように呪文は開発済みだ。


「ええ? (M)(P)使い切っちゃったけど」


 エリカが言う。


「おい」


「大丈夫です、私がまだ残ってますから」


「おお、クロ。そうだな、俺やミオが唱えても良いんだし」


「ごめんなさい、次から気を付けるわ」


 エリカも反省したようだ。ま、コイツは呪文の開発で貢献してくれたからな。役割はそれぞれ、パーティーの総合力で乗り切れればそれでいいのだ。


「我らの体は人魚の如く、水は風の如く、息は水の如し。マーメイド!」


 クロが全員指定の人魚(マーメイド)の呪文を使い、これで水中でも息ができるようになった。

 耐圧も多分、大丈夫なはず。

 水が風のように感じられる魔法だからな。圧力は激減するはずだ。

 この呪文は下半身が魚になったりはしないけど。


「前衛チーム、準備はいいか?」


 俺は振り向いてティーナとレーネとリムに問う。


「ええ、いつでも」

「任せろ」

「大丈夫ニャ!」


 三人が頷いたのを見て、俺はアイアンウォールの呪文でUボートの外殻に穴を開ける。

 一気に水が入り込んできたが、大丈夫、それで足を取られる事も無いし、息もちゃんと出来る。


「邪魔だ!」


 レーネが大剣で触手を豪快に切り払い、そこから突破して外に泳いで出る。


「GYAAAAA!」

 

「チッ、気づかれたわよ」


 リサが舌打ちして言うが、触手が次から次へと襲ってくるし。前衛チームが剣や斧で対応。魔法チームも攻撃魔法を使って支援する。

 呪文を唱えてから俺は気づく。


「あー、隠蔽やノイズを使えば良かったか」


 迂闊。


「ええ? ユーイチ、逃げるつもりじゃないでしょうね?」


 などと、ティーナが咎めるように言ってくるが。


「作戦を忘れたのか? コイツと水中で戦ったらダメだ。陸へおびき出すぞ」


「ああ、うん、分かった」


 実際、前衛チームの剣術は太い触手を一瞬で切り裂いて、凄いモノがあるのだが、クラーケンの本体にはダメージがほとんど行ってない。

 あまりにもデカすぎて、少々切り裂いたくらいでは倒せそうに無い。


「よし、付いてくるわね」


 ティーナが良い感じだと言う風に頷くが。


「来なくても良いんだけどなぁ」


 俺としてはわざわざ海の中のモンスターを狩る必然性が見いだせない。

 ミッドランドは内陸部の国だし、引きこもってれば大丈夫かも知れないわけで。


「ダメよ! もう…」


 触手を切り裂きつつ、後退。

 ゴーレム部隊も使って、足止めを試みるが―――。


「むっ! 気を付けろ。何かやってくるぞ!」


 レーネが言う。

 見るとクラーケンが触手の攻撃を止め、ゆっくりとその場で体をねじらせ回転運動を始めていた。

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