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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十四章 貴族でおじゃる

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第十話 ミネア

今回の話は微妙な部分があります。

ミネアがお気に入りで、穢れ無きヒロインが好きな方は……ごめんなさい。


2016/11/30 若干修正。

 クロが何者かに襲われた。


 すぐに館に向かう。警備が強化されていて、門に兵士が増えていた。

 中に入り、クロの部屋へ急ぐ。


「ああ、ユーイチ!」


 ミネアが部屋の前で待っていた。泣いたのか、ちょっと目が赤い。

 

「クロの様子は?」


「それが、解毒剤は飲ませたんやけど、植物系の猛毒の吹き矢でやられとってな。熱が下がらんし、失明の危険があるんや。今、クレアがついとる」


「むう。その植物ってのは?」


「メチルの木や。それを鉄の釜に入れて燃やさずに燻して出てきた液体を使う」


「よく知ってるな」


「うちも作ったことあるし、教わったからな。それより、クロに顔を見せてやって。口では大丈夫って言ってたけど、不安やろうし」


「ああ、分かった」


 ミネアはこの毒を作ったことがあると言っていたが、何のためだろうか。何か別のモノに転用できるのだろうか。それとも…。


「クロ、大丈夫か」


 部屋に入ると、クレアが付き添ってくれていた。クレアは軽く頷いてクロの容態が安定していることを教えてくれ、席を立つ。


「はい、すみません。犯人を追えず」


「いや、馬鹿なことを言うな。死なずに帰ってきただけでも御の字だぞ」


「マリアンヌに助けてもらいました。チクッとして針だと気づいて慌てて止血したんですが…めまいがしてしまって」


 そう言うクロは焦点が合っていない。


「目が見えないのか?」


「ええと、いえ、見えますよ」


「嘘をつくな」


 彼女の目の前で手を振っても目を閉じない。光の明暗すら見えていない様子だ。


「すみません。でも、少ししたら見えるようになるかも」


「うん。とにかく、今はゆっくり休んでろ」


「はい…」


「犯人のことは私達に任せてね」


 ティーナもそう言って優しくクロの手を握り、部屋から出る。


「絶対に、捕まえてやるわ」


「ああ、もちろんだ」



 襲われたと言う場所で聞き込みをしたが、目撃者は残念ながらいなかった。

 捜索範囲を広げたが、結局、手がかりも見つけられず、日が暮れてしまったので館に戻る。


「くそっ!」


 自分の部屋で机を殴る。クロを守ってやれなかった。


 保護者気取りで、この体たらくとは。


 しかも、おそらくは、俺が男爵に昇進したことで、貴族の誰かが気にくわないからやったんだろう。

 こんな事なら、貴族にならなければ良かった。

 トレイダー軍を撃破するだけなら、策をティーナに教えて、彼女の手柄にすれば良かったのだ。

 このまま、クロが目が見えなくなってしまったら……。

 いや、そうはさせない。


「植物を探すか」


 執務室に行き、植物図鑑を探す。


「あった、これだ」


 すぐにハードカバーの本を机の上に引っ張り出して、メチルの木を探す。


「チッ、ダメか…」


 植物図鑑のどこにもそれらしき項目が載ってない。あまり知られていない珍しい木のようだ。


「ユーイチ様、食事の準備が出来ております」


 セバスチャンがやってきて言うが。


「いらない」


「いえ、食欲が無くともお召し上がり下さい。クロ様が命を取り留めた以上、今夜にも襲撃があるやもしれませんぞ?」


「む…そうだな。分かった」


 食堂に行くと、すでにみんなも事件を知っていて、渋い顔。クロはこの席にはおらず、まだ自室で伏せったままだ。


「ああ、ユーイチ。何か、解毒剤の事、分かった?」


 ティーナが聞いてくる。


「いや、メチルの木について調べてるところだが…誰か知ってるか?」


「ううん。聞いたことも無いわ」


「確か、悪酔いさせて失明させる毒があったはずだ。それかもしれないな」


 レーネが言う。


「失明を防ぐ方法は?」


「分からん。クレアやお前の毒消しは、ダメだったのか?」


「ミネアが解毒剤を持ってたけど、ダメみたいだ」


「ニャー、クロは目が見えなくなるの?」


 リムが聞いてくる。


「そうさせないように、何とかしなきゃだな」


「ニャ! 言ってくれれば、火の中、水の中、どこでも行くニャ!」


 頼もしい奴だ。後は俺が頑張らなきゃな。


「それで、ミネアとリサがいないようだけど」


 エリカが周りを見て聞く。


「そう言えば…きっと、聞き込みをしてくれてるんだろうけど、食事はしっかり食べてもらわないと」


 ティーナが心配するが。


「ふざけんじゃないわよ!」


「ふざけてない! うちがどんな顔してみんなに会え言うん?」


 廊下でリサとミネアの激しい言い争いが聞こえた。


「どうしたの、二人とも」


 普通ではないので、ティーナも俺も様子を見に行く。


「コイツが、パーティーを抜けるって言ってるのよ」


 リサが逃がさないようにか、腕を掴んだまま脇のミネアを見て言う。


「ええ?」


 俺もティーナもミネアの顔を見る。今まで楽しそうにやっていたし、率先してパーティーの面倒を見ていたミネアは、一度もそんなそぶりを見せたことは無かったのだが。何か不満でもあるのか。


「そうや無いけど…ううん」


 ミネアは困ったようにうつむいてしまう。


「そう言うことでしょ。あたし達の前に二度と現れないって言うことは、パーティーは離脱、クロをあんなままにして自分だけ逃げるのと一緒よ」


「違う! そんな事、するつもりもあらへん。ただ、とにかく、犯人はうちが一網打尽にする。たとえ差し違えても」


 ミネアが今まで見せたことのない鋭く冷たい目をする。


「何言ってるの、ミネア。あなたも大切なパーティーの一員だから、私はリーダーとして、そんな戦い方は認めない。みんなで一緒に敵を倒せばいいわ」


 ティーナが言った。


「そうだぞ」


 俺も頷いて言う。


「…うちにはそんな資格は無い。ううん、今までも、ついつい、みんなと一緒が居心地良すぎて、付いて来てしもうたけど、それが間違いやったんや」


 力無く床を見ながら言うミネア。

 

「ふう、ティーナ、うちのパーティーの参加資格って?」


 リサが聞くが。


「そんなの、有るわけ無い。みんなが良いって言えば、それでいいわ」


「だそうだけど?」


「でも、そうやな、正直に言わんと、分からんやろな。うちはアサシンやったんや」


 ミネアの口からそんな告白が出るが。


「それが?」


 リサがだからどうしたと言わんばかりに聞き返す。


「えっ…?」


「まあ、ひょっとしたら…とは思ってたんだけど」


 ティーナも、その可能性は疑ったらしい。ま、俺もだけど。


「右に同じく」


 そう言っておく。


「アンタ、まさか上手く隠しおおせたなんて思ってたんじゃないでしょうね? アサシンから逃げてる理由も(だんま)り、その上、毒にやたら詳しいし、普段は人当たり良くしてるけど、人を()っても全然動揺してなかったじゃない」


「ああ…なんや、バレてたか。はは、やっぱり、悪事は隠し通せんなぁ…」


「ニャ、ニャんと!」

「ええー?」


 向こうで話が聞こえたらしいリムとエリカが驚いてるが。


「ミネア、とにかく、食事だ。話はその後で」


 俺が言う。


「そうね、それがいいわ。きっちり事情、話してもらうわよ?」


 ティーナも真正面からこの件を受け止めるつもりらしい。

 それが吉と出るか凶と出るかは分からないが、うやむやでももうダメだろう。




 食事の後、ミネアは自分の境遇を話し始めた。


「うちは捨て子やったんや。アサシンの組織は、捨て子を拾って育ててアサシンに仕立て上げる。絶対の忠誠心と、事が済んだときに簡単に使い捨てに出来るようにな」


 幼い頃から両親の愛を知らず、殺人マシーンとして育てられる。その境遇がどんなものであったか、とても俺には想像が付かない。


「そんな……」


 ティーナにとっては、使い捨ての存在と言うことが衝撃だったらしく、悲しそうな顔をして言葉を失う。


「普通の人間はな、愛情があるから、人を殺すとなったら躊躇するんや。そやけど、それが無いアサシンは躊躇は無い。力量よりそっちの方が重要なんや。殺す方法はいくらでもあるしな」


 暗殺集団で(つち)われた殺人術は多岐にわたるだろう。剣が苦手でも、毒の調合が上手ければそれで相手を殺せる。

 手段は多い方が確実性が増す。


「うちは同い年の子と比べて、体力も速さもなかったからな。毒を徹底的に仕込まれたんや。毒のエキスパートやね。多分、うちより詳しいんは、長老だけやと思う。ああ、ごめん、自慢になってるな」


 その毒でいったい何人を葬ってきたのか。

 自身の告白であるにも拘わらず、俺にはまだミネアがそんな人間だとは思えずにいる。


「仕事の方は失敗もあったけど、たいていは依頼達成や。そやけど、ある時、商人の一家を手に掛けたときにな、母親がこの子供だけは助けてくれって頼んできたんや。もちろん、うちは関係者は全員抹殺するつもりでおったから、命乞いにも耳は貸さん。ずっとそうやってきた。証拠は残すわけには行かんからな」


 誰も口を挟めない。ミネアが続きを話した。


「でも、その母親は、この子は友人の子で、自分の子や無いからって言うたんや。そんなん、うちに判断はつかんやろ? 母親にも笑ってそう言ってやった。そしたらな、どうせこの赤児は顔も覚えられへん、それなら、見逃してやってくれんかって」


 アサシンのミネアは、それが道理だと思い、赤児には手を付けなかった。もちろん、赤児を助けるつもりではなく、殺す手間が省けたと思ったからで、母親を始末し、赤児はその場に捨て置いた。

 すると、帰り道に一人の聖職者の老婆がミネアに声を掛けてきた。


 「お前は人を助ける道を知らぬ。それはお前が人で無いからだ」と。


 「お婆ちゃん、誰か人違いやで」ミネアが答えた。


 「人違いなものかね。次から赤児は神殿に預けるように。そうすれば今回は見逃してやろう」


  ミネアは自分の仕事が見られたかと訝ったが、そんなへまはしていないと確信し、何も言わずに立ち去った。


「それから三日後に、また赤児を助けるかどうかって仕事になってな。その時、うちは仕事を完璧に終わらせるつもりやったから、赤ん坊を殺すつもりで剣を振り下ろしたんや」


 しかし、それを受け止めた剣があった。


「赤児まで殺す必要はあるまい」


「くっ!」


 現れた白髪の剣士と戦ったミネアは、相手が自分より手練れだとすぐ気づいたが、逃げる間もなく敗北してしまった。


「強いなあ、自分。なら、この首を持ってギルドに行けば少しは金になるかも」


「そんな面倒な事はしない主義でな。金には困ってない。それより、そこのうるさい赤児をどうにかしろ」


「どうにかって…じゃあ、神殿にでも預けるか?」


「それがいい。お前がやれ」


「むう」


 仕方なく言われたとおりにミネアは赤児を運ぼうとするが、赤児が粗相をしていることに気づき、そこの布でおむつを取り替えてやってから抱き上げる。

 赤児が泣き止んだ。


「なんだ、意外に慣れているな?」


「そらそうや、うちは仲間の面倒を見てきたからな。年下の子や赤児も仰山おるんや」


「ふうん。それなのに、その赤児を殺そうとしたのか」


「それは…そういう決まりなんよ、アサシンは。依頼のターゲットの赤児には情はかけられへん。バレたらこっちが終わりや」


「良くわからん理屈だな。報復を恐れるなら、最初からそんな仕事はするな」


「そやね」


 ミネアも全くその通りだと思ってしまった。



 赤児を神殿に連れて行き、さすがに自分が殺したとは言えないので、盗賊に殺されたと言って嘘をついて事情を話す。すると。


「よくぞ赤児を助けだして下さいました。これも慈愛のミルス様のお導き、あなたにも感謝します」


 若い修道女にそうお礼を言われてしまって、ミネアも珍しく狼狽えた。


「あかん、うちはそんな、感謝される人間とは違う。人や無いんや」


「いいえ、何を仰います、人の子を抱き上げて面倒を見るのは人でしか有りませんよ」


 そこで、ミネアはハッとして、己のこれまでの行動を悔いた。悔いてしまった。


「そうしたら、アサシンは辞めるしかないけど、ま、想像はつくやろ? 抜けると口封じに追っ手がかかるんや」


 そこでアサシン達に追われつつ、街を転々と渡り歩き、ついに俺達と出会った、と。




「そう、そんな事が…」


「その現れた剣士がレーネでなかったら、ミネアもアサシンは辞めてなかったのかもな」


 俺は何気なく言う。


「どうかな、そうかもしれんし、レーネには感謝や」


「私は面倒だからミネアにやらせただけだ。そんな高尚な考えなどあるはずがなかろう。事情も知らなかったしな」


「ふふ。さて、話はそれで終わりや」


「え、ええ…」


 緊張したティーナはリーダーとしてこれからどうするかを考えてしまったようで、まあ、ミネアの罪をどうするか、考え物だなぁ。

 アサシンに拾って育てられて、マインドコントロールされていたわけだから、情状酌量の余地はあるし、今まで俺達と冒険をしてきて、充分社会復帰は可能で、更生したと見て良いはずだ。


 が、人殺しは人殺し。

 しかも、赤児殺しはこちらの世界でも残忍と思われているはず。

 老婆が人では無いと言ったように。


「まあ、うちも、今まで通りに行くとは思ってへんよ。そやからせめて、クロの仇討ちでもしてこなな。もう誰も殺させへん。これが最後の罪滅ぼしや」


 ミネアが席を立ち上がる。このまま行ってしまうのか。

 俺には、残念ながら、彼女を止める言葉が見つからない。

 

「待って下さい! 私は、仇など望んでいません!」


「「「 クロ! 」」」


 部屋を抜け出してきた様子。ははあ、地獄耳(ビッグイヤー)の呪文で俺達の会話を聞いてたな。


「あかんよ、クロ、まだ安静にしとかんと」


「もう平気ですから、うっ」


 よろけたクロをとっさにミネアが抱え上げる。


「ほら、言わんこっちゃない」


「ごめんなさい…でも」


 そうだな、このままミネアがいなくなってしまったら、クロは自分を責めてしまいそうだ。


「よし! ティーナ、罪人を裁くのは誰だ?」


 俺は思いついて言う。


「ええ? それは兵士、ああ、領主だけど…」


 彼女も俺がどうするか気づいた様子。


「なら、この館は俺の領地、ミネアの処遇は引っ捕らえた俺に権限があると思うが?」


 この世界の司法は領主が握っている。


「そうね。ええ、その通り」


「あかんよ、ユーイチ。気持ちは嬉しいけど…」


「おいおい、ミネア、お前まさか、俺が無罪放免にしてくれるなんて、甘い事を考えてないか?」


「ううん、でも、ユーイチなら…」


「俺の故郷では殺人は、五年以上の牢獄か無期懲役、死刑しか無いぞ」


「うん、そうやろね」


「ユ、ユーイチさん…」

 

 懇願するような瞳を向けてくるクロ。まあ、安心しろ、悪いようにはしないっての。


「む、それ本気?」


 不満そうなエリカ。割とミネアとは仲良くなっていたようだ。…俺に対する条件反射的な文句だけだったりして…。


「ニャー、許してやって欲しいニャ」


 リムもおおらかだしな。


 良かったな、ミネア、弁護してくれる奴がいて。


「では、罪人ミネアに領主として沙汰を言い渡す。無期懲役だ。死ぬまでただ働き」


「ニャー! 酷いニャー!」


「黙ってて、リム。まだ続きがあるはずだから」


 ティーナがリムを注意する。


「オホン、模範囚であれば、仮釈放も付けてやる。以後、俺の命令に従って任務をこなし、また千人の孤児を助け育てること。それがお前の罪滅ぼしだ」


「はい…うう」


 ミネアが床に跪いて深々と一礼する。


 インドのゴータマ=シッダールタ(お釈迦様)を開祖とする仏教の伝承では、鬼子母神(ハーリティー)という鬼がいた。

 彼女は千人の子供を持ちながら、人間の赤児を攫って喰らっていた。

 それを見かねた釈迦が彼女の赤児を隠し、必死になって探したハーリティーはついに釈迦に子を返してくれるよう懇願する。

 釈迦は「お前は子沢山だが、たった一人でも失った悲しみの大きさは分かったであろう。ならば、今までお前が喰ってきた一人っ子の親の悲しみはいかほどか」と諭す。

 自分の業に気づいたハーリティーは改心し、子供と安産の守り神になったと言う。

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