第九話 人脈作り
2016/11/22 若干修正。
俺が用意した引き出物は優れた芸術品として評判となり、問い合わせも殺到した。
中でもヨージスキー子爵、ペドール男爵、オルタ司祭、ローハイド侯爵などは「髪の色や服を変えた別タイプの彫刻が手に入らないか?」と興味津々だ。
曰く「胸の膨らみの小さいモノを」「もっと背の低いぷにっとした少女を」「もっとあどけない表情で、それでいて何かいけないコトを少しだけ知っているような無邪気なポーズを」などなど。
うん、お巡りさん、こいつらです。
しかも注文がやたら細けえよ!
ローハイド侯爵に至っては難解すぎて手紙ではとても把握できないので、直に会って要望を確認する必要がありそうだ。
それ系を狙って作ってはいたが、こうも揃って釣れてくるとは……。
だが、認めねばなるまい。俺も同類であることを。
いやっ、ここは綺麗に同好の士と言っておこう。なんかね、こいつらと俺は違うと、思いたい。
少なくとも俺は犯罪には手を染めてないし。
………。
しかし、こいつら、本当に大丈夫かな?
いくら人脈を作るためとは言え、破滅を招くような致命的にマイナスの人物とは関わりたくないし、それは絶対に避けねばならない。
ただ、実際に会って話をしたり、身辺調査をしないとそいつが犯罪者かどうかなんて分かりゃしない。
一応、貴族として今まで平穏にやってきている人物ばかりなので、すぐにどうこうなんて事は無いと思うが。
ま、あくまで彫刻を取引するだけの同好の士ということにしておこう。深入りしなくても、充分にこいつらは俺の役に立ってくれるはず。この精緻な色つき彫刻は俺にしか作り出せないのだから、俺が処刑の憂き目に遭うとなれば、何とかして助けようとするだろう。
すでにラインシュバルト派閥の人脈は揃っているので、それ以外の人脈を開拓する必要があった。
フランネル子爵も茶会を企画してくれたりしてくれているが、うちの派閥の貴族の顔合わせは披露宴前にほぼ終わったので、それ以外の派閥とセッティングしてくれるよう頼んである。
味方と関係を深めるのももちろん大事だし、親しい人物と会う方が楽しいに決まっている。
しかし、いざと言うときにはラインシュバルト侯爵が鶴の声を発し、派閥の行動を統制して俺を助けてくれる。
だから、うちの派閥の貴族の好感度を上げるよりも、態度が曖昧な貴族の友好度を上げた方が味方の数が増えるのだ。
あと、フィギュアの『類は友を呼ぶ』効果は早くも出ていて、披露宴には招待していなかったオルタ司祭が釣れている。
その日の夕刻には手紙が来たので、オルタ司祭のアンテナの凄さにはちょっと引くが。
披露宴では儀礼的な祝福はクレアにやってもらったので、司祭を呼ぶという発想が無かったのだ。そこはちょっと失敗した。名のある司祭を呼べば良かったね。
だが、神殿の方は生臭坊主もたくさんいるので、いざと言うときは多額の寄付を積めば何とかなるだろう。
ま、それでも聖職者に多少のコネは作っておいた方が良い。
披露宴を終わらせた翌日、さっそく俺は応接室でオルタ司祭と面会した。
「お初にお目に掛かります。私がヒーラギ男爵です」
爽やかで丁寧な営業スマイルで。
「こっ、ここ、この彫刻はどこで手に入りますか?」
おい。こっちが挨拶してるんだから、挨拶くらい返せよ。あと、近い、近い、近いから。俺のパーソナルスペースに、むさい顔で踏み込んでくるなと言うに。
それと、俺の神聖なるフィギュアを許可無く勝手に触んなと。
俺はオルタからこの応接室に飾っていたティーナ像を取り上げ、元の棚の上に置いた。
「あっ」
オルタが泣きそうな目で、しかし、抵抗せずにそれを見守る。
彼はぼさぼさの髪で、やや背の低い小太りのむさ苦しい男だ。
一応、聖職者らしく白いローブを着てはいるが、裾がズレていて、どうにも冴えない感じだ。
典型的なヲタクに見える。いつの時代もこういう奴がいるんだろうなー。
だが、それだけにコイツは信用できる。
フィギュアに対する愛に関しては、だが。
「オルタ様は、この彫刻にご興味がお有りのようですね」
俺が言うと、ブンブンと頷くオルタ。
「これは、私自ら制作したもので、よろしければ同じモノを一つ無料で差し上げましょう」
「ほっ、本当ですか!」
「ええ。ただし、私に協力するという証文を一筆書いて頂きます」
口約束では後で言った言わないの水掛け論になりやすいので、きっちり証拠を取っておく。
それに、一筆書いたという形式が、約束を守らせる心理的な枷になる。
「では、確かに」
羊皮紙の証文を俺は受け取る。
そして、懐からニューヴァージョンのティーナ像を出し、テーブルの上に置く。
これは披露宴で配ったのとは違い、なんと、スカートが少しめくれているのだッ!
「ふっ、ふおおお……!」
ふふ、喜んでる喜んでる。
大して有能そうな奴でもないんだし、ちょっとキモいし、コイツと終生の友人になるなんて事は無いんだから、利用するだけ利用してボロ雑巾のように捨ててやるッ!
ノックが有り、メリッサがお茶を持って来てくれた。
すると、オルタは急にサッとソファーに座り縮こまった。
「どうぞ」
「…ど、ども」
決してメリッサと目を合わせようとせず、手をもじもじしながら下を向いているオルタ。
本物のメイドさんを前にして興味を示さないとは、いや、こちらの世界ではメイドさんが当たり前だから萌えないのかね。
「ごゆっくりどうぞ」
何か毒舌でも吐くかと思ったら、メリッサはそれだけできちんと一礼して部屋を出て行く。
「あ、あのあのあの」
だから近えよ。
「なんですか? ちょっと顔は離して下さいね。それと、このミント飴をお一つどうぞ」
口臭も気になったので、渡してやる。
「どうも。あむっ。おお、これはスーっとして美味しいですね。いや、それよりッ! ユ、ユーイチ様がこれをお作りになったのが、ほ、本当なら、さっきのメイドの服も作れると言うことですか?」
「ええ、もちろん作れますよ」
「おおおお!」
え? さっきの服が良かったん?
まあ、メイド服ヴァージョンも作る予定だったし。
「ではオルタ様、後日ご用意しますから、約束はお忘れ無きよう」
「ええと、具体的に何をすれば…」
おお、そこまで気を回してくれるか。いざと言うときに動いてくれればそれで良かったんだけどね。
「そうですね、まずは神殿の主要な人物の名前のリストを下さい。できれば、どう言う役職で、誰と仲が良いか、誰と仲が悪いか、人物の特徴なども添えてもらえるとありがたいですが」
「ううん、ぼ、ぼぼ、僕はそういう人間関係については、苦手なので…」
だろうな。
「では、名前と役職だけでもいいです。誰か詳しい人にでも頼んで作ってもらって下さい」
「分かりました」
オルタは大事そうにティーナ像を抱えて帰って行った。
しかし、あんなので説法とかできるのかね? よく司祭になれたな。コネや世襲かもしれんが、まあいい。
駒は出来た。
さて、次だ。ええと、今日はエクセルロット侯爵の別邸で茶会か。
面倒臭いな…。
だが、これも生き残りのためだ。しっかりやっておかないとな。
「じゃ、ティーナ、行こうか」
「ええ」
ティーナと連れだって館を出る。彼女はここに泊めてくれと言ったので彼女専用の部屋を用意してやった。ま、名門ラインシュバルト家のお嬢様だし、俺の後ろ盾だからな。頼れる奴だし、この関係は大事にしないと。
「昨日、アンジェが感心して褒めてたわよ、帰り際」
ティーナがニコニコしながら言う。
「ああ、ちょっと聞こえてたよ。俺は舞踏会は遠慮したいんだが…」
「ダメダメ、社交界では大切な行事なんだし、一緒に踊るわよ?」
「ええ? 練習が必要だなあ」
「後で付き合ってあげるから」
「頼んだ」
「ん?」
そのままアンジェの別邸に向かっているとティーナが路地の方を見た。
「どうかしたか?」
「うーん、さっき、黒いローブの男がチラッとこっちを見てたんだけど」
「む。使徒の関係かな」
「どうかしら? もうこの際だから、王宮に願い出て、黒ローブ禁止令を出してもらったら良いと思う」
「はっ? そんなことをしたって、連中も赤いローブを着たら意味無いだろ。馬鹿なことを言うなよ」
「む。そこは変なポリシーがあって、絶対に着ないかも知れないじゃない。と言うか、あなた、なんでそんな黒ローブにこだわるのよ」
「いいだろ。お前が赤ローブにこだわる方がおかしい」
「いーえ、あなたの方がおかしいわ」
いつもの赤と黒の戦いを繰り広げながら、エクセルロットの別邸に行き、アンジェやその友人達とお茶会。
類友なのか、アンジェのお友達は、着飾った女の子が多い。
「そこでアサシンの集団に追われてたミネアとレーネを助けたんですが、連中、毒の吹き矢を使ってきましてね」
冒険譚をねだられたので試練の塔へ向かう途中の話をしてやった。
「まぁ、怖い。それで大丈夫でしたの?」
「ええ、ミネアが毒消しを持っていたので、それと、アイスウォールの呪文で防ぎました」
「さすが魔術士、頼もしいですわね、うふふ」
「頼もしい、ねぇ?」
ティーナが疑問の声を挟むが、いいんだよ、そこはお世辞、社交辞令なんだから。
「では、ヒーラギ卿、そろそろお風呂へ」
アンジェが俺をこの館のバスルームへと誘う。
「はい」
「まぁ、ついに、アレが?」
「どういう風になるのかしら」
「楽しみですこと、フフフ」
茶会の参加者の他の貴族も話に聞いているのか興味津々のようだ。
アンジェと俺のいけないラブシーン……ではもちろん無い。
ティーナもにっこり顔だ。
【名称】 噴水湯沸かし器付き風呂場
【種別】 魔道器
【材質】 石、赤邪鉄、銅、エナメル、ビニール草
【耐久】 5000 / 5000
【重量】 1800
【総合評価】 AAA
【解説】 錬金術師ユーイチが作った魔道器。
魔力の無い者でもお湯を作れるようになる。
ゆったりとお湯につかれる設計で、
極楽気分を味わえる。
小型噴水からお湯が出る複雑な仕組み。
【名称】 中型温風器
【種別】 魔道器
【材質】 石、赤邪鉄、銅、エナメル、ビニール草
【耐久】 200 / 200
【重量】 10
【総合評価】 BBB
【解説】 錬金術師ユーイチが作った魔道器。
魔力の無い者でも温風を作れるようになる。
髪を乾かしたり、洗濯物を乾かすのに最適。
髪を乾かすときは、台の上に置いて使う。
これだ。
すでに体験済みのアンジェを通してか、耳の早い貴族のご婦人方は是非とも我が家にお風呂をと頼んできているので、俺は茶会の出席ついでに設置工事も請け負っている。
予め、赤邪鉄や銅線や石などを用意しておかなければならないが、後はストーンウォールで余裕。ホース部分はビニール草という便利な草を使う。
初期型から改良してモーターと組み合わせ、シャワーも全自動である。ゴツいレバーだが、温度調節もある程度可能にした。ま、ゴーレムか人力で発電させる必要はあるんだけども…。
貴族なら魔術士を雇えるし、奴隷や家臣を使えば運用は楽々だ。
お値段は工事費諸々込みのセットで三万ゴールドから、最高五十万ゴールドまで。貴族の格に応じて、大きさを変え、値段も高くしている。すでに王宮にも設置済みだ。
ストーンウォールが使え、モーターを作れるのは俺だけなので、商売敵も存在しない。もっと高値でも売れるのだが、たかがお風呂だしね。その値段にしておいた。
現在、粗利は228万ゴールドなり。
熟練度も上がってきたので、二十分足らずで完成してしまった。この驚異的な速さを分かってもらえるだろうか?
さっそくお湯を湯船に張り、手でシャワーも試してもらう。
「まあ、本当にお湯ですわね!」
「しかもこんなにたくさん!」
「肩まで浸かってゆっくりできるなんて、贅沢ですわ」
ご婦人達の評判は上々。自分のお肌を綺麗に出来る代物だ、玉の輿を狙う彼女達の心強い武器にもなるだろう。
「次は是非、私の家に」
「いいえ、私の家が先ですわ」
「あらあら、私が先ですとも」
「皆様方、ご注文は全て承りますのでご安心を」
取扱説明書や、図柄付きのパンフレットを渡し、簡単な見積もりも出しておく。
「では、来週の舞踏会、楽しみにしていますね」
「ええ」
切りの良いところで別れを告げて、エクセルロットの館を後にする。
「なんか、今日のユーイチ、デレデレしてた」
外に出たところで、ティーナが言う。
「ええ? 仕方ないだろ、女の子に褒められまくるってそうそう無かったんだから」
「え? そんなことは……うーん、そう言えば、あんまり褒めてなかったかも」
「だろう? うちのパーティーの女子は俺に対して過剰に辛口評価なんだよ。でも、気兼ねしなくて良いから、そっちの方が良いな」
「でも、あの子達、美人だったじゃない。それでもなの?」
「美人なのは認めるが、好みのタイプはあんまりいなかったしな」
「ええ? そ。なら、また今度、あのメンバーでアンジェとお茶会しましょう」
「いや、なるべく交友関係を広げて顔合わせして行きたいから、今日のメンバーは当分もういいぞ」
「ダメ」
「あのなぁ。俺は別に合コンでやってるんじゃないんだぞ」
「ダーメ」
やれやれ。
「ユーイチ!」
リサが兵を連れてやってきた。
「どうした?」
「何かあったの?」
「ふう、良かった。二人とも無事で。クロが襲われたわ」
「ええ?」
「くそっ、それで、クロは無事なのか?」
クロもレベルが高いから、そんじょそこらの奴には負けないと思うのだが。リサがこうしてわざわざ報せに来たのが気になる。
「無事と言えるかどうか。命は今のところ何とかね。でも毒で酷い熱を出して、厳しい容態よ。今、あなたの館の部屋で寝かせてるから、戻って声を掛けてあげて。うなされてあなたの名前、呼んでたから」
「むう、戻ろう」
「ええ」
とにかく、状態を確かめないと。俺は自分の館へと急いだ。




