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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十四章 貴族でおじゃる

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第二話 披露宴の準備

2016/11/30 若干修正。

 国王から男爵の爵位をもらい受けた俺は、王都でお披露目(ひろめ)パーティーをやらなくてはいけない。

 今日も忙しくその準備をやっている。

 領地はまだ無い。


 セルン村には手紙を書いて、正式に領地がどうなるか決まるまでは、エルが村長としてやっていくように伝えてある。

 機嫌を取るため、絹のドレスを一着、送りつけてやった。彼女は着ないかも知れないので、ミスリルの包丁もミミに発注。エルちゃんにプレゼント大作戦だ。

 ミミはタールとそりが合わなかったようで、途中でラジールの実家に戻ってしまっていたが、俺が帰ってきたと知ってまたセルン村にやって来ている。

 ミスリルワイヤー入りのローブもさっそく新しいのを作ってくれた。色々とごたごたしていて、ケルベロスにローブを破られてからミスリルワイヤー入りのローブは装備していなかったのだが、これで剣で斬られても安心だ。少しは、だけど。 


「こちらが旧オズワード侯爵の別邸にございます」


 さすがに城では無かったが、レンガの塀を張り巡らせ、中庭もやたら広い。四階建ての洋館は、ロフォールにあるティーナの屋敷よりもずっと大きい。あちらは平屋だし。

 中に入ると広いエントランスと、天井に吊された巨大なシャンデリアが目に入る。床は大理石で、壁には流麗な装飾が施されており、絵画や壺などの美術品もあちこちに飾られていた。


「凄いわね……ううん、うちの屋敷も改装しようかしら」


 などとさっそくティーナが無駄遣いを考え始めるし。これだから貴族(ブルジョアジー)は!


「セバスチャン、客間と食堂と正面玄関に通じる場所以外の美術品は、全て売り払え!」


 俺は即座に命令する。


「かなり貴重な物もございますが、よろしいので?」


「構わん。領主に求められるのは領地経営のみ。鑑定人や美術家になるのでなければ、どうして美術品が必要か。今、俺に必要なのは国王陛下の彫刻が施された金細工だけだ」


「金貨でございますな。畏まりました。直ちに商人を呼んで参ります」


「むぅ…私は」


 ティーナが顔を赤くして唇を噛み、己を恥じているが、恥を知っている者は成長する。きっと彼女は良い領主になってくれるだろう。


「メリッサ、食堂と客間の掃除は済んでいるのか?」


 人が住まないと家はすぐ荒れるって言うからな。蜘蛛の巣が張ってたら馬鹿にされたり哀れまれたりするのは確実だ。


「誰に物を言っておられるのでしょうか。そんなもの、とっくに済ませております」


「それはすまなかった。じゃ、披露宴の準備は整っているんだな?」


「いえ、それが、食材とお酒、引き出物などがまだでございます」


「ええ? なぜ?」


「招待客の人数と規模がはっきりしない限り、発注ができません」


「そんなもの、適当に大は小を兼ねるで……」


「愚かな。招待客に侯爵が全て来るとなると、それだけで百万ゴールドは飛びます。食材は保存が利かない物も多いですから、貴重な美術品を売りに出した金で、腐った肉を購入しろとユーイチ様は仰る。金貨を欲しながら無駄遣いとは、恥を知りなさい、恥を」


 ティーナの専属メイドだった子だから、主の仇を取ってやり返したつもりなんだろうな。


「ふう、手厳しいな。では、招待客のリストを持って来てくれ」


「では、執務室へどうぞ」


 オズワード侯爵がかつて使っていた執務室。左右の壁際にある本棚にはハードカバーの製本がびっしりと。


「おお、おおぅ…ほ、本がこんなに」


 感激!


「これも売りに出しますか?」


 メリッサが無表情で言う。


「ひい、止めてっ!」


「高額で売れますが」


「あ、あうあう」


 確かに本はこの世界では非常に高値だ。印刷技術が無いから写本が基本で手間が掛かるし。でもでも…!


「メリッサ、あまりユーイチをいじめないで。本が好きなんだから」


 ティーナは優しいよなぁ。


「お館様も相変わらず、お甘い」


「今はユーイチがあなたのお館様なんだけど、まあいいわ。それがリストね?」


「はい、ミッドランド王国の現存する貴族全員のリストとなります」


 二十枚ほどの紙を渡されたが、うえ、多いなぁ。

 名門貴族から順にソートしてあるようで、セバスチャンかメリッサか、どちらがやってくれたかは知らないが、こいつらはやはり有能だ。

 できれば、俺の子飼いの秘書を揃えたいところだが、今は他の課題が先だな。


「ラインシュバルトの派閥は全員呼ぶとして、他はどうするの?」


 ティーナが聞いてくる。


「ああ、ま、大貴族は全員、招待状は出しておく。大半は来ないだろうけどな」


 儀礼的な物だ。


「ええ? それは……どうなのかしら」


「男爵が大貴族に招待状を出すなど、非礼と思われるかと」


 メリッサも言う。


「んん? そうなのか。でも、挨拶状くらいは出していいよな?」


「ええ、それは、出さないと失礼になります」


「じゃ、挨拶状を書いて、ついでの招待状という形なら、いいんじゃないか? もしご興味がお有りでしたら歓迎致しますので、招待状も不要にございます、云々で」


「なるほど」


「それは、セバスチャンにご確認頂いた方がよろしいかと。私には詳しい事は分かりかねます」


 ティーナは頷いたが、メリッサがそう言って判断を保留する。


「じゃ、セバスチャンを待つか」


「その必要はございませんぞ」


「ああ、戻って来たか。商人は?」


「下で見積もりをさせております」


「そうか。じゃ、招待状のことなんだが…」


「はい、その件に付きましては、招待をほのめかす程度でしたら、非礼にはならぬかと。ただ、その場合、出席か欠席かのお返事も頂けず、欠席の可能性が大でございますぞ?」


「ううん。とは言え、貴族の格を考えるなら、大貴族も揃えた方がいいんだよな?」


「それはもちろんでございます」


「なら、ここは奮発して百万ゴールドを使うとしよう。全員に招待をほのめかしておく。全ての侯爵が出席可能な状態にしておくように」


「は、畏まりました」


 これは見栄ではない。



 『君主論』で有名な、ルネサンス期の政治思想家マキャベリは、こう述べている。



『突然に地位なり何なりを受け継ぐことになってしまった者にとって、心すべき最大のことは、何よりもまず最初に、しかも直ちに、土台を固めることである』



 貴族にとっての土台とは何か?


 当然、領地だろう。


 だが、今の俺にはそれがない。


 次に貴族にとって大事な土台を考えると、王宮での人脈と言うことになるはずだと俺は考えた。

 金は三番目以降だ。税収が入ればそれで何とかなる。家臣も当然、固めるべきだが、今回の招待状に絡まないので、別に考えておく。


 さて、王宮の人脈だが、貴族は大貴族になればなるほど、権力(パワー)が強くなる。

 俺は生まれて間もない下っ端男爵だから、一番弱い権力(パワー)しか持たない。


 周囲の領主から睨まれて、嫌がらせを受けたら、それだけでお家存続が危うくなりかねない。


 では、どうすべきか?

 『長いものには巻かれろ』

 大貴族と良好な関係を築けば、それだけで他の貴族に対する牽制になるだろう。


 ティーナ達が貴族の『格』を重んじているのは、つまり、そう言う人脈を本能的、経験的に察知しているものと推測される。


 幸い、ティーナ=フォン=ロフォール子爵は俺の後見も務めてくれるし、大貴族であるラインシュバルト侯爵とその派閥も俺に好意的だ。

 だが、他にも大貴族が何人かいるので、可能であれば、複数の大貴族と手を結んでおきたい。


 候補は―――

 

 1 アンジェの父である、エクセルロット侯爵

 2 アーサーの父である、ライオネル侯爵

 3 アーロン侯爵

 4 バルシアン侯爵


 この四人だ。それぞれ大臣の役職を持ち、侯爵という高い地位にある大貴族。大貴族は他にもオーバルト宰相がいるのだが、彼はその役職のためか、他の貴族とは中立を保っていると言う。

 つまり、宰相と手を結んだとしても当てにはならない。


 もう一人の大貴族、ディープシュガー侯爵は、ティーナが俺の後見人である以上、最初から敵と見なす。

 顔からして汚職をやってそうだし、取り巻き連中も好かんのよね。あんな連中とお茶会しなきゃいけないのかと思うと、気分が萎える。

 だいたい、ディープシュガー侯爵の甥、コモーノ伯爵は一人だけ敵前逃亡しちゃったり、無能だったからな。 



『ある人物を評価するに際して、最も簡単で確実な方法は、その人物がどのような人々と、付き合っているかを見ることである』


 外交官でもあったマキャベリも、こう言ってるし、なるほどと思える。



 さて、候補1のアンジェはティーナの親友でもあり、すでに俺と面識があるので、少しおだてて父親を連れて来てくれるよう頼めば、行ける気がする。

 男爵の就任披露宴にわざわざ侯爵が来るとなれば、俺と良好な関係なのだと他の貴族達も考える事だろう。


 候補2のアーサーは近づきたくないが……ライオネル侯爵とダマン城で議論したが、父親の方は紳士的で極めてまともな人物だった。どうしてあんなダメ息子が生まれてきたのか、ちょっと不思議だ。

 来てくれるかどうかは分からないが、すでに面識ある人物なら、正式な招待状を送ってもさほど非礼でもないだろう。


 候補3。うーん、アーロン大将軍は、むしろ呼びたくない人物である。小突かれそうで嫌だ。だが、ミッドランド最大の軍閥なので、味方に付けておきたいところ。


 候補4。バルシアン侯爵は、宮廷魔術師を務めている。ミオの師匠、鋼の賢者とはライバル関係だったようだが、魔術士の端くれである俺としては、その道の権威を是非とも招待しておきたいし、魔術についての議論も交わしたいところだ。


 これに加えて、伯爵や男爵、ついでだからスペシャルゲストも呼んでおくか。

 俺は奴隷上がりという普通の貴族よりマイナスからのスタートだからな。

 やれる手はすべて打って、ド派手に行かねば。




「よし、挨拶状から書いていくぞ」


 本棚から『簡単! 基礎から学ぶ手紙の書き方』『相手の心に響く手紙を書くには?』『貴族の挨拶 用例集』というタイトルの本を引っ張り出して、さらにその中から良さそうな例文をティーナに選んでもらって、文面を整える。

 オズワード侯爵の執務室は実際に侯爵が使っていたからか、使い勝手が良い。

 後で悪魔の召喚術の本も探してみるか。ウヒヒ。


「あ、そうだメリッサ、悪魔に関する書物を見つけたら、燃やしておいてね」


 ティーナがそんな事を言い出すし。


「はい」


「ちょっ! 焚書は独裁者のやることだぞ!」


「あなたがおかしな犯罪に手を染めない為なら、私は喜んで独裁者になるわよ?」


「くっ!」


「ま、ご心配なさらずとも、その手の本はこの館が家宅捜索を受けたときに王宮の異端審問官に持ち出されているはずですが。フッ」


 ぐぐぐ、だが、メリッサよ、隠された書物がどこかに残っているかもしれないぞ?

 後でこっそり家の中を探検だ。

 ワクワクするね!



「続いて、披露宴に出す料理と酒ですが」


 セバスチャンが話を進めてしまう。


「料理はユーイチの得意分野だし、あなたの故郷の料理で良いわね」


 ティーナがにっこり笑って言う。


「いや、得意って程じゃないからな。クラウス料理長かテッドを貸してくれるか」


「ええ、もちろん。ラインシュバルトからローランも呼んでおきましょう」


 ま、招待客が多くなると、料理人の数も足りなくなるだろうから、ここは素直に甘えておこう。

 こればかりは今から急募するという訳には行かないのだ。

 実績と経験が物を言うし、何より、毒を入れられたり工作されては堪ったものでは無いので、身元のしっかりした人間を使う必要がある。料理コンテストをやる時間も無い。


「酒はいかがしましょう? 最高級ならフランジェ産の葡萄酒(ワイン)を取り寄せる事になりますが、かなり値が張りますぞ」


 街の高級レストランで値段を見たので俺もそれは知っているが、ワインがボトル一本、千ゴールドだったからな。

 もっと上の高級品もあるんだろうし、ただ、その手のワインの味が分かるのはごく一握りの酒好きだけだ。銘柄をいちいち紹介すれば感心もしてもらえるかもしれないが、今ひとつコストパフォーマンスが悪い。


「フランジェ産で構わないが、中級品にしておいてくれ」


「畏まりました」


「それと、炭酸水も多めに発注してくれ」


「承知致しました」


 ネルロと一緒に立ち寄った高級レストランで出されていたソフトドリンクだが、美味しかったからな。

 酒を飲めない人にも喜んでもらえるだろう。

 それに炭酸なら細菌は繁殖しにくいだろうから、安全だ。

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